熱
速弾かれるギターの旋律に載って男性ボーカルがシャウトする。
熱い歌声に熱い歌詞がレナを直撃した。
「これは一体なに!何なの」
日頃は主にマクシミリアンの身の回りの世話や仕事の手伝いをし、休日はオシャレな店で服を買ったり、書店で堂々と漫画を漁ったり、こっそりネットで漫画を取り寄せたり、仲間が泣いているにも関わらず『オリテコナイナー』とかブツクサ言いながら作画画面に向かっている普通の女(もう少女とは身も心も言えない)であるメイド。
音楽もセントリーブス王国にいたころの曲をフォークギターで自分で奏でたり、アニソンや美少年アイドルグループの曲を聴いていた普通の女のメイド。
そのメイドの耳にスピーカーから激しい音が流れ込む。
モニターには少年と少女が何かと激しく戦っている。
映像と一体化した曲にレナは激しく心を揺さぶられた。
「なにか、熱い。これは萌えじゃない。胸が高鳴るこの熱さは、この熱い曲はいったい何!。」
レナの少し充血した美しい目から涙があふれる。
熱い涙であった。
一気に全てのストーリーを見終わったレナの顔に爽やかな熱い涙が頬を伝わる。
もうスッカリ朝から昼、そして夜を越え、朝になっていた。
同人仲間に似たようなアニメのオープニング曲をメールで尋ねるとあっという間に数々のタイトルが返答されてくる。
古典から最新の熱いアニソンや特撮ヒーローソングがレナを翻弄する。
泣いた、レナは泣き続けた。
そして徹夜で見た心に残るアニメのオープニング曲。
早朝にもかかわらず、心を熱くさせる曲のジャンルを皆に問うた。
ヘビーメタル。
熱い音楽ジャンル、熱い男のジャンルであった。
大元はUnited Kingdomという国の若者がハードロックというものを始めた。
どんどん過激になるハードロックであったが、プログレッシブやパンクというジャンルに別れていった。
そういう流れに乗れなかったものたちが、きたない倉庫の片隅でギターの速弾きを極めんがため精進する。
『俺たちが聴きたい曲は、俺たちが創るしかない!』
その中に古典的な怪物が出てくる恐怖映画が大好きなベーシストがいた。
彼の曲はおどろおどろしく、かつスピード感に溢れた今までに無かったものだった。
ニューウェイブ オブ ブリティッシュ ヘビーメタルの誕生である。
時代はそれを期にヘビーメタル一色になりLAメタル、スラッシュメタル、デスメタル、ブラックメタルと進化していった。
だがあるバンドが出て来て様式美に凝り固まっていたヘビーメタルはいっきに衰退していった。
もうメタルの時代じゃないよね、よごれたカッコで自分たちの事をロックで歌うほうが心が揺さぶられるよねという声と共に。
だがそんな世界の趨勢に逆らう男たちが日本に生きていた。
彼らは生き延びるためにアニメに活路を見いだし、また日本のアニメも熱い日本の少年マンガを下敷きに盛り上がっていっていた。
そんな世界の片隅の中でさらに片隅に追いやられた場所で生きるオタクのお陰で微妙に盛り上がるヘビーメタル。
アメリカに住むレナが知る由もなかった。
アニソンと言えばセーラー服姿の魔法少女か、謎の敵とウジウジしながら巨大ロボットに乗り訳が分からない戦いを繰り広げるモノしか知らなかったレナである。
そしてレナが今見たアニメは味方も敵も俺が救ってやる!という熱い物語だったのだ。




