心残り
「誰も死んでないようね、良くやったわミック」
「うるせーこの野郎!この剣でぶった斬ってれば俺がこんな思いしねーですんだのによー」
「まあまあ、我らの親会社であるコーデル社の社訓その1、命は可能な限り奪わない」
「俺はお前らみたいなエリートのコーデル社の関係者じゃねーし」
馬車の荷台に鎧を積み込む2人に文句を言い続けるミック。
ひとりはひょろっと背の高い青年のコージ、地球人だ。
もう一人はエルフの女でナターシャ。
2人ともスマッシュ社の研究員。
鎧の開発を主に担当しているのがコージらしく細かいところのチェックを念入りにしている。
ナターシャはミックの体を検査機械でチェック、医療技術者だ。
ミックがみる限り2人はつき合っているようだった。
『ちぇ、頭が良くて金持ちでエルフの彼女持ち。それに比べてオイラは何だってんだ』
ミックは冒険者としては一流だ。だが一流になるために努力したわけではない。
何の考えもなしに仕事をし続けていただけである。
もちろん仕事の仕方は必至に勉強し覚えてきた。
応用力や頭の回転も速い。
ただ、しなければならないことをしてきたにすぎない、天才だった。
そして本人の自覚もなくこうありたいという目標も欲も何もなかった。
生きる屍のような青年だった。
2人の旅の目的地は聖公国の北のはずれ、巨大な邪龍の住む山の麓。
魔物が多く住み着いた街、今はないナターシャの生まれ故郷でかつて聖公国冒険者の最前線があった街。
目的はミックは知らない。
2人をそこまで護衛し死んだ5人の分の金をもらい、それを残された家族にとどけるだけだ。
たまたま冒険者全員に鎧が着けられるか試し、最後にミックが着けた時に夜盗に襲われ3人が生き残った。
ミックは自分の馬の後をついて来る馬車に乗った2人を守るだけに集中した。
いきなり襲われたら鎧を着ける間もなく殺されるのだから。
何とか町に辿り着く。冒険者ギルドに寄って村の建物にぶち込んである山賊の処理を引き継ぐ。
帰りに寄る頃には金が貰えそうだとミックが伝える。
宿に着くと2人は一緒の部屋に泊まりミックは一番安い部屋に泊まった。
金の分配を決めるためミックは2人が居る部屋のドアをノックしようとすると金属が擦れるような音がした。
「おい、ちょっと話があんだけどさーいいかなー」
コソコソ話し声が聞こえ慌てたようにナターシャがドアを少し開ける。
「何かしら」
「ああ、ゴメンな。今日の山賊たちの賞金の取り分何だけど」
「あら、そんな事。全部あなたのものでいいわよ」
「そう言うわけには」
「私達はお金はもう必要ないから貴方が受け取って」
嘔吐する音が聞こえた。
ナターシャは慌てて部屋に引っ込む。
「だいじょうぶかよ・・・」
何の希望もなく目標もないミックだったが人は良い青年である。
「大丈夫かー、なんか手伝える事があれば遠慮すんなよー」
「大丈夫、ありがとうミック」
ナターシャの返事だけが聞こえた。
翌朝、宿を出るときれいな青空が広がっていた。
半日も進めば目的地だ。
「なあ」
「何かしら」
「お前ら何するつもりなんだ」
「護衛のあなたが気にすることかしら」
「そうかよ」
若干険悪な雰囲気のまま目的地に着く。
何もない所だった。
ただ街があったらしい住宅基礎の石や傾いた柱が数本有るだけだった。
その先には邪龍の住む嶮しい山が見える。
「じゃあ、これで依頼完了よ、ご苦労さま」
サインした書類を貰いミックはそこを後にする。
ふと気になって木の陰から2人を覗くとコージが鎧を付け始めた。
『薬も飲んだし、気力も充実してる。さすが最高級ポーション』
『ごめんなさい、こんな事に付き合わせちゃって』
『僕は幸せだよ、君とこうして最後まで一緒にいられるんだ。最高だよ』
最後まで・・・。
「おい、お前ら本当に何するつもりだ。だいたいが何だ、お前ら何かから逃げてんだろ、コイツも当てにならねーんじゃねーのか」
ミックは感じていた。まるで隠れるように2人はコソコソし過ぎていた。
かと思うと山賊狩をミックにさせる。挙げ句にギルドにはミック一人で行けと言われる。
いったい何がどうなってるのか分からなくなってサインしてある依頼完了書を二人の前に投げつける。
「ごめんなさいミック、私達これを会社から盗んできたの」
ナターシャがミックの前でアタマを地面につける。
「ふざけんな!じゃあなにかいオイラ犯罪の片棒を担いじまったって事かよ!」
「ゴメン、でもあなたは何も知らされずに騙されたから罪には問われない。ギルドに預けた依頼金も支払われる。そのためにあなたになにも伝えなかった」
「仲間にこの件も含めて遺言も預けてあるから心配ないよ、ミック」
「ああ、信用するよ。どーせ死ぬつもりの奴がウソをついてもはじまらねーしな」
「ありがとうミック」
「だがな、どーせ死ぬんだ。何をするのか教えてくれてもいいんじゃないかナターシャ、コージ」
ミックは棄ててあるポーションのビンをみる。
あれは仲間が仲間を守るため殿になった者が飲むポーションだ。
効果が絶大だが薬効が切れたとき飲んだ者は必ず死ぬ。
あと半日もしないうちにコージは・・・。




