抜け殻
「いいか、ジャック。あいつの弱点はアゴだ。ガラスのアゴにちげーねー」
「分かってるよ、親父っさん」
ゴングが第5ラウンドの開始を告げる。
ジャックは自分より頭一つ分背の高いボクサーを睨んだ。
『やってやるぜ、このラウンドで帝王と言われるこいつを倒してやる』
セントリーブス王国のかつて何もなかった砂漠地帯に建てられたボクシング専用のホールで、セントリーブス王国の帝王と呼ばれるボクサーと魔王国ブラキュアのボクサーがリングの上で闘っている。
ブラキュア側のボクサーの名前はジャック。
セントリーブス王国との戦争で捕虜になり捕虜収容所でボクシングと出会った。
ジャックはもともと才能があったのか、そこでおこなわれたボクシング競技会で連戦連勝する。
楽しかった日々も故郷に帰れば夢のようなものだった。
平民兵士だったジャックの日頃の仕事は荷物を荷車に載せたり倉庫の荷物を整理する事。
仕事が終わればスラム街にある汚い部屋に3人の弟妹が待っているだけ。
つまらない日々。
時折酒場で自分と同じようなチンピラ相手の殴り合いでうさを晴らす。
ある日いつものようにチンピラ相手にボクシングの真似事をしていた時、薄汚れた服を身にまとった男が立ちはだかった。
『才能だけに頼った闘いをするお前に本物のボクシングを教えてやる』
男の片目は眼帯で覆われていた。
ジャックはニヤリと嗤うと男の死角に飛び込み大きく振りかぶって拳を叩きつける。
男はそれをがっちりガードした腕でかわし、スッと姿勢を下げジャックの脇腹に強烈なストレートをねじり込ませた。
うずくまるジャックを見下ろす男。
「強くなってセントリーブスで闘ってみないか、俺がおまえをチャンピオンにしてやる」
ボクシングと言えばセントリーブス王国、もう一度あそこに戻りたい。
そのツテを持っている男。
そこでチャンピオンにしてやるという男。
ジャックはその日から男と共にスラム街をランニングし始めた。
男の名前は知らないが毎日ジャックが仕事を終える頃にふらりと現れトレーニングの指導を始める。
いつの間にかジャックの周りはボクサーを目指す男たちで熱気に溢れるようになっていた。




