ミュシャ
メイドのレナは地球に転移してきて生活が落ちつくまで休むことなく自ら望んで仕事や勉強に打ち込んだ。
「レナ、我がみる限りそちはこの半年休みを取ってないように思える。無理をするでない」
銀翼の鷹のアドバイスに従いマクシミリアンは従者には必ずアメリカの祝日、週末2日、有給休暇なるものの休暇を年30日各自に与えた。
レナは使命感と不安で居ても立ってもいられなかった。
言語、一般教養習得に邸宅の最新機器の操作方法、食材の吟味、交通ルールや地理、新たに出会うこの地の人々とのコミュニケーションの取り方を必死に学んだ。
この地でセントリーブス王国を救う為に働くマクシミリアンの力に早く成りたい一心であった。
「きちんと休め、これは命令だ。うむ、マルコをここへ呼べ」
マクシミリアンは騎士のマルコに週末レナと共に街を散策するように命令した。もちろん業務であるので代休の他に休日出勤手当てが出る。
レナとマルコが連れ立って街を歩けば誰もが振り返る。
超絶美少女にキリリとした美青年。
マルコは護衛という職業と言うこともあり地理、必要最小限の英語、武器、防具、この地の護身術を優先的に学んだ事もありメイド達より街に明るく、レナから見ても頼りがいのある人物である。
タクシーから降りるとマルコはレナを伴いカフェに入る。
「君にはこういうオシャレなカフェが似合うと思ってね」
キザな台詞を臆面もなく口にするマルコ。
マルコは騎士の中でも飛び切り優秀なエリートだ。
子爵家の次男であり伯爵家当主の護衛騎士。
子どもの頃から天才剣士と言われ更に腕を上げるため努力を惜しまなかった。
勉学にも励み国民学校の統一試験では全国の学生の中で成績が常にベスト3に入る秀才である。
でなければマクシミリアンの異世界転移に同行するメンバーには入っていない。
ウェイターに促されテラス席に着く。
午前10時を過ぎたばかりなので客もまばらである。
「どうだい、少しは慣れたかい」
「少しは」
「ここのカフェオレの味はどうかな、合格かい」
キザである。見た目がいいので違和感が無いのが救いである。
「どうかしら」
マルコは肩をすくめておどける。
「皆んなそう言うらしいね、ゼニスもミレイヤにそう言われたってさ」
「あら、じゃあどうしてここに」
「雰囲気がいいからね、ちょっと故郷の店っぽくないか」
そういうことかと納得するレナ。
「こういう店も知らないなんて、君たちメイドの5人は頑張り過ぎだよ」
「どういう事かしら」
「どうもこうも君と同じで誰も休もうとしない、お陰で騎士みんなこうやって君らとデート出来るんだけどね。
そのデートも君で最後になるのさ。
その最後に僕が選ばれたのは光栄だよ、銀色の妖精とこうしていられるなんてさ」
「ご迷惑をおかけしてるわね」
お互いニコリと笑ってカップに口をつける。
「君たちが倒れちゃうと困るのは伯爵様だけじゃないんだ、僕らじゃ接客も満足に出来ないし、仕事で来た客もグレッグさんならまだしも僕らに珈琲を出されても美味しくないだろうね。
銀翼の鷹の爺さんたちも君たちに会えるのを楽しみにしてるんだ、長生きの秘訣だって言ってね。
おっと、彼らの奥さんたちには内緒にしておいてくれよ、僕が恨まれるからね。
それに僕も君の入れるお茶がなければ息が詰まりそうさ」
この頃のマルコは自信に満ち溢れ女性のエスコートもソツがなくホストとしては申し分なかった。
もちろん大人のホストの世界の話ではない。
「少し嬉しいかな」
その時既にマルコは、レナに気付かれないように後ろの席に座った同僚に合図を送り、隠してある拳銃に手を伸ばす。
レナをリラックスさせるために自分の仕事の失敗談を冗談を絡めて話す。
飛び切り美人の笑顔が出来上がった後ろで、若者二人が同僚騎士に店の敷地の外に案内されていく。
インカムに処理が終了した事が伝えられる。
「どうだいここを出たら服屋に行かないか。君に似合いそうな服を売っている店も調べてある」
「あらそれもゼニスのお勧めかしら」
「はは、かなわないな君には。全てお見通しって事だね」
二人は服を選んだり音楽を聞きに行ったりしながら街を散策する。
騎士の護衛付きで。
レナは何となく気づいていたが知らないふりをしていた。
マルコが横にいるのも構わず突撃してくる若者が後を絶たないのだから気づかない訳がない。
その全てを隠密行動の騎士に阻まれる。
実はマクシミリアンのメイドたちは街の中で噂になっていたのだ。
まだ慣れない世界でメイドが街で動き回るのを心配したマクシミリアンは銀翼の鷹アシュリーに信用のおける業者を紹介してもらい必要なものを届けさせていた。
マクシミリアン邸に出入りする業者は、グレッグなどとの打ち合わせでお茶を出されるとき現れるメイド達を見て皆あまりの美しさに我を忘れてしまっていた。
マクシミリアンは昔からミランダを始め長い付き合いのメイドばかりなので見惚れる業者に逆に驚いていた。
出入り業者にメイドのことを口止めしたところで近所の住人から噂が広まる。
近所付き合いを疎かにしてはいけないとマクシミリアンはアシュリーに助言され忠実に守っていた。
アメリカはクラスが有るようで無い、クラスが無いようで有る。誰がいつアッパークラスになってもおかしくない国であると。事実この街の住人の何人かはとてつもない資産家になっていったのである。
女神のような美女や天使のような美少女がこの街で暮らしていると噂は広まり、そのメイドらしき女性がこの半月ボディーガードを伴って街に現れると騒ぎになった。
今後も彼女達が街に用事で出るときは、しばらく警護の必要があると報告しようと思うマルコ。
デートの終わりに美術館で開かれている特別絵画展に足を運ぶ二人。
多くの絵画に見惚れるレナ。
その中で特に印象深かったのかミュシャの絵の前で足が止まる。
これがレナの同人漫画作家の第一歩だった。




