欲望の果て
マクシミリアンと共に地球に転移してきた騎士のマルコは悩んでいた。
『俺は何故ここに居て多くの聴衆の前で歌を歌っているのだろうか。
俺はマクシミリアン伯爵の専属騎士・・・なはず。
伯爵の自己犠牲も厭わぬ姿に感動し、少年でありながらも天才剣士と言われた俺は命がけの異世界転移それも片道切符の異世界転移に自ら志願した英雄のはず・・・。
ここで《大きなお友だち》とメイドのレナが言っていた聴衆の前でマイクを握っているのは果たして騎士としての俺なのだろうか』
マクシミリアンが新たな事業を始めるといいゲームの世界から離れたが、マジェスティックワールドの参加者はマックを崇め奉り巨大なファンクラブまで出来ていた。
マックが居ないマジェスティックワールドは最早考えられないと言っても言い過ぎではない。
それほどミランダが育てたマックというキャラクターはカリスマ的人気があった。
ミランダも育て上げたマックというキャラへの愛着とゲーム内で知り合った仲間との繋がりは捨てられなかった。
本音を言えば楽しくて仕方なかったのだ。
今ではマクシミリアンの了解を得てマックを引き継ぎ、自分の家でゲーム三昧の日々を送っている。
マックといえば相棒のハル君である。
この時、遥はマクシミリアンから送られたメールで社員登用の話が始まっておりマクシミリアンと同時にゲームから離れていた。
また姉の由美子も乙女ゲームにハマっておりマジェスティックワールドに興味を示さなくなっていた。
レナもマジェスティックワールドから抜けた今、遥のアバター担当を誰に頼もうか悩んでいた。
気分転換に昼食を外で取ろうとそよ風を求めて大きな木が生えている庭に向かう。
その時庭の隅にうずくまるマルコを目にする。
心配になってマルコに小さな声で声をかけるミランダ。
ミランダは優しいメイドである(グレッグ 談)。
何度か声をかけても反応が無い。
更に心配になり、うずくまるマルコの背中越しに様子をうかがう。
マルコは『萌え、コレこそが萌えだよ。菜々子さんこそがオレのジャスティス、レナのような女に分かってたまるもんか!』と一人でブツブツ言っていた。
手ににぎられているポニー電機のポータブルゲーム機、画面にはミランダが見たこともない可愛い女の子のキャラが《あの桜の木の下に死体があるの》と指をさしているイラストが描かれている。
ミランダは硬派なメイドである(セントリーブス国王 談)。
騎士たるものがニヤニヤしながらいかがわしそうなモノに現をぬかしているのが許せずいきなりゲーム機を奪う。
驚くマルコとゲーム機を手にして肩を怒らすミランダ。
爽やかな風が2人の頬を撫でる。
二人が立つ後ろの木に咲く花びらが風に吹かれてはらはらと散る。
端から見ると美しい恋の出逢い。
だがそれは騎士マルコの数奇な運命の出会いであった。
たまたま、本人が言うには本当にたまたまポータブルゲーム機で試しにほんの気まぐれで恋愛シミュレーションゲームをでやっていただけとミランダに言い訳するマルコ。
ニヤリと笑いゲーム機を高らかにかかげるミランダ。
怯えるマルコの手を引きそのまま自室に拉致、ハル君役を押し付けた。
その日から就業後も休みの日も、ミランダはマルコの手からポータブルゲーム機を引き剥がすとマジェスティックワールドに引きずり込んだ。
ミランダは容赦のないメイドである(マクシミリアン 談)。
マルコの恋愛は終ぞ成就することは無くなった。
ミランダがゲームをやり込めばやり込むほどマックの人気はウナギ登り、多くの雑誌でマックの軌跡、マックの名言などが特集で組まれるようになった。
日本でもマジェスティックワールドのスピンオフ漫画【マックの空】が少年誌に連載されるようになり読者の人気投票ランクで必ず上位3位以内に入る人気を誇っていた。
ここまで行くとマックを操る人間は誰なんだとなるのは必然だった。
マックは設定で男となっており、またゲーム内での言動も男気溢れるものだった。
多くの仲間が憧れるマックというキャラを壊すわけにはいかないと悩んだミランダはマルコにその役を押し付けた。
とうとうアメリカで人気のトークショーに引っ張り出されるマルコ。
20台半ばの美青年。
真摯な態度、精悍な顔つきでガッチリした筋肉質の体はネットゲーマーのイメージを覆す意外さで話題が沸騰してしまった。
ある日、日本のアニメ制作会社からマックを主人公にしたアニメを作りたいと銀翼社にオファーが来た。
色々な繋がりを日本に持つメイドのレナが情報を逸早く察知、企画を受けるように画策。
その際、日本通を強くアピールしフロントマンの座をマクシミリアンの後押しで掴んだレナは、演出脚本作画及び声優を指名したスタッフしか認めない事を条件にアニメ制作会社の企画を受ける。
アニメ制作会社は番組の話題作りに主題歌を今話題のマックことマルコに依頼。
嫌がるマルコを説得する為にレナは動いた。
金をチラつかせ、好みと聞いているタイプの女性を紹介し、マクシミリアンに説得させた。
決めてはミランダの言っていた通り絶版になってしまった恋愛シミュレーションゲーム。
何とか探して出して目の前にチラつかせたら二つ返事であった。
ちなみに秋葉原のメイド喫茶に招待したが、ぷるぷる震えながら断られた。
レナは必死だった、憧れの男の娘の声を当てていた声優に何が何でも会いたかったのだ。
主題歌はレナの希望で熱いヘビーメタル風の曲が選ばれた。
やりたい放題である。
レナの完璧なスケジューリングのもと日本語の発音を習い、プロの声楽家から発声方法を教えられ、アニソン歌手っぽい衣装を着せられ、決めのポーズを練習させられるマルコ。
アニメは日本で大ヒットした。
男気溢れるマックの冒険に視聴者は涙し、マルコにより熱く歌われる主題歌に燃えた。
世界中のテレビ局が【マックの空】を現地吹き替えで放送、子どもたちだけでなくティーンの女の子がマックの冒険に萌えまくっていた。
むろん日本で薄い本が出されたわけだがレイという覆面作家の作品が業界内で大きな話題となったのは秘密だ。
今、マックことマルコは白いパンタロンを履きこなし赤いシャツの上に白いベストを着、指の部分がない手袋をつけた手でマイクを握っている。
目の前には1万人を超えるマックのファン。
ここはアメリカのアニメフェスティバル会場。
「うむ、なかなか様になっているではないかレナ」
「お褒めに預かり恐縮至極でございます」
「我社のイメージアップ向上に貢献したそなたは我の誇りである」
【スペースシェリフ マクレガー】という大ヒット特撮SF映画に主演する頃にはすっかりわざとらしく白い歯を覗かせた笑顔の出来る騎士となったマルコであった。




