出立
異世界転移魔法とは聖女が異世界透視魔法により見た世界を座標軸として数値化したものを魔法陣に組み込み陣に極大魔力を流し込み発生させる禁呪のものである。
聖女の異世界透視魔法により導き出された地にこれから出立する者に帰る事はかなわない。
一度世界を越えて転移した者は二度と元の場所へ転移出来ない事が実験により証明されていた。
それでも行かなければこの国は滅びる運命にあった。
魔法陣の中には身だしなみを整えた男とそれに付き従う執事、更に十数人の従者と数人のメイド。その傍らには男に与えられた財宝が収められた宝石箱が積み上げられいる荷車があった。
「あなた・・・」
「うむ、お前のことは彼の地に行こうとも忘れることは無いと約束しよう。我らの身一つでこのセントリーブス国、そしてお前たちを守れるものなら安いものだ」
魔法陣の周りに佇む見目麗しい女性とそれにすがる可愛らしい3人の少女が震えていた。男は家族の悲しそうな表情にあえて陽気な顔で答えた。
「では、そろそろ」
三人の豪華なローブを纏った魔法使いが女性陣を後ろに下がらせ詠唱を始めた。
「陛下、この国そしてマリアンヌと子達をどうぞお守りくださいませ」
男は陛下と呼んだ者に最敬礼をした。
「コーデル伯爵よ、マリアンヌは我が妹でもある。必ずこの国とともに守り通してみせよう」
「有難き幸せでございます」
「余も伯の活躍を期待しておるぞ」
「陛下、必ずご期待に沿えることをお約束します。
そしてマリアンヌ、愛しき我が子アリア、レイア、フレイよ。永久の別れとなる事をこの場で詫びよう、そして許してくれ。だが必ずお前たちのもとに勇者なるものを送り込んでみせようぞ。さらばだ・・・」
魔法陣の輝きが増し目がくらんだと同時にコーデル伯爵とその一行は消え去った。魔法使いの持つ杖に組み込まれたこぶし大の魔石が砕けてボロボロと足元に落ちる。
コーデル伯爵一行を送り出した部屋に佇むセントリーブス国王と公爵、侯爵、コーデル伯爵夫人と子どもたちはしばし呆然とかき消えた魔法陣のあったところを眺めていた。
伯爵一行が転移して10日がたった。
城に備えられた鐘が激しく鳴ると同時に王の執務室のドアが解き放たれた。
「陛下!陛下!」
「何事か!ここは陛下のおわす場であるぞ。礼を失する態度許されるものでは・・・」
「よい、そこの者何があった申してみよ」
「ハ!失礼ながら緊急の事態につきご無礼いたしました。ですが事は重大に付き報告に上がりました。」
「何があったのだ、早く申せ」
「城に向かって得体のしれないモノが、大きなものが城門に向かって突撃して来ております」
「敵襲か!」
「いえ、それが見たこともないものであります。とてつもない速度でこちらに向かっています。」
国王は何もない天井をしばし見つめた。
「見たこともない・・・もしかすると・・・、そこの者それを見れる場所へ余を案内せい!」
国王以下そこにいた貴族が報告に上がった近衛騎士に従って王都を見渡せるテラスへ移動した。
城の正門に向かって確かに何やら見たこともないモノが向かってきていた。あれは生き物なのか、とてもそうは見えない。では馬もなくどうして動いている。それも馬車よりも圧倒的に大きく速く。
王はじっと迫りくるモノを見つめていた。
「母上、あれは」
コーデル伯爵の長女であるアリアが母のマリアンヌの手をそっと握りしめ迫りくるものを指差した。
マリアンヌは指し示めさされた場所をじっと目を凝らしていたかと思うと突如アリアを抱きしめて泣き始めた。
「陛下・・・」
「ああ、わかっている我が妹よ。お前の伴侶マクシミリアン・コーデルが送り込んだ者共に違いない。見よ!あれはコーデル家の紋章だ」