革命
マジェスティックワールドはマクシミリアンが熱中していたゲームの制作会社を買収したことから歴史が始まった。
日本の小さなコンシューマー用ゲームソフト制作会社買収など銀翼社の財力をもってすれば赤子の手を捻るようなものにもならない。
だが社員は日本人ばかり、アメリカ向けソフトの台詞が変だったのも社内で全て翻訳作業が行われていたからである。
マクシミリアンはこの企業買収の成功とそれによるゲームソフト制作の人員確保について企業買収担当者に細心の注意を払うように命令した。
「誰も会社を離脱せぬよう相手方の要求する条件に最大限の配慮をせよ。
よいかただの一人も会社を辞めさせてはならぬぞ。
通訳はメイドのレナを付けよう、アメリカでも10指に入る日本通で日本語レベルは1級の資格ももっておる」
企業買収担当者にレナが紹介される。
銀翼社でもめったに見る事が無いとされる伝説のメイド。
輝く銀髪が腰まで達し華奢な身体、大きな目の中のエメラルド色の瞳、透き通るような白い肌、すらりとした手足が優雅な仕草を取れば女神かと見紛うであろう。
だがオタクである。
日本ではある一部の者共から真の貴腐人と尊敬されるメイド。
漫画業界に革新をもたらしながらも控えめな謎の貴人。
レナは男爵家の次女で有るため間違いではない。
見た目と貴族然とした仕草に魅了され今業界でお姉さまと言えばレナの事を指す。
地球に転移し2年目に入る頃、たまたま見た日本の漫画に衝撃を受けペンを手にし一枚のイラストを同人誌サークルに送るといきなり表紙に採用され1年後には弱小同人誌サークルはあっという間に大手に成り上がり壁サークルとなる。
冬、長い行列を捌いていると怖いオジサンがやってきて、とうとう確定申告を行わなければならなくなった程だ。
好きこそものの上手慣れであっという間にレナは日本語を修得。
日本語が堪能である事がマクシミリアンの耳に入り日本企業調査を任される。
銀翼社はその頃世界的に話題となっていて明るく見目もよいマクシミリアンにテレビ局から出演オファーがひっきりなし。当然日本のマスコミも察知しておりマクシミリアンの来日を心待ちにしていた。
日本に有望な企業があるとレナから情報がもたらされるたびに保養がてらレナを通訳に伴い日本行きの飛行機に飛び乗るマクシミリアン。
レナの案内で情報通信、ソフト、建築、新エネルギー開発、ロボット、自動車会社を訪問、技術提携や資本参加の話と素早くまとめ本社幹部に的確に指示を出す。
これでもかと言うほど出来る男を日本の企業人に見せつける。その様子はテレビ局に取材され放送される。
美形のビジネスマンと美少女通訳が話題にならない訳がなかった。
しかも通訳される言葉は高位貴族そのまま。
インタビュアーが何気なくまるでどこかの国の王子様のようですねと評するとマクシミリアンは答える。
「なんと恐れおおいことを、そのような不敬な事を口にするでない。我など元の世界では伯爵という地位についておったが、この国でいえば中小企業の部長のようなものである」
これによりいつしかマクシミリアンはどこかの国の元伯爵のアメリカ人と噂され、日本では普通に伯爵様と言われるようになっていた。
マクシミリアンと共にテレビに映し出されていた美少女が年2回東京ビッグサイトで目撃されるようになったのはこれ以降であった。
マクシミリアンをアメリカ行きの飛行機に案内しレナは指示通り日本に残り現地調査を続けた。
日本で既に同人作家として有名なレナであったがその身を知るものは一人として居なかった。
一通り仕事をこなした後の休日にサークル仲間と初めての会合に出席した。
同人仲間に衝撃が走る。話題の伯爵様と共にいた美少女通訳者。
そんな美少女が自分達のような801好きの同志。
業界ではトップクラスの作家。
こんな美少女でもわれわれの同志、茨の道を共に歩んでくれていたのかという思いで嬉しくて涙があふれた。
これ以降レナは年2回の日本旅行を定期的にするようになった。
まだこの頃、貴腐人という言葉はなかったがショタコンは普通に意味が通っていた。
見目も麗しく気高い振る舞いにファッション雑誌を含めた商業誌の誘いもひっきりなしに来るが、にべもなく断る。
同人誌業界では気ままに創作活動に勤しむ美形の貴族のお嬢様と位置付けされ年2回東京ビッグサイトで出会える幻のアイドルとなり、隣のブースに配置されるように願う絵馬がレナの似顔絵付きで神社に数多く奉納されるようになった。
仲間と直に出会った事で更にレナの創作意欲が湧き上がる。
みんなが作品を待っていてくれると思うと嬉しさで胸がはちきれそうになるレナ。
レナの今までモヤモヤしていた妄想を具体的な形で引き出すキッカケが漫画であり、その漫画で出会えた仲間の期待に応えようとため込まれていた妄想を勢いよくトレス台に載せられた日本からわざわざ取り寄せた真っ白な作画専用用紙に想いが叩きつけられる。
だが想いに追いつかない自分の手腕。
更にアメリカで一人必死に漫画に打ち込む。
転移してきた仲間に蔑まれる事が分かっていたので誰にも打ち明けられない孤独もあった。それでも時折もたらされる同人誌がレナの心の火を燃え上がらせる。
この世界で、アメリカで、自分以外がやらなければ誰がみんなを満足させられようか。
追いつかない作画、同人誌印刷会社に締め切りを何度ものばしてもらった仲間のため手を黒く染め上げる。誰もトーン貼りに来れない。
日本と違ってアメリカは広かった。同志は見つかったが皆遠くにいて気軽にアシスタントをおねがいする分けにはいかない。
紙とインクとペンの作業効率の悪さに憤怒するレナ。
キャロルに相談したところコンピューター作画ソフト制作のアドバイザーに就任。
背景からトーンに効果線、彩色、オノマトペのさまざまなデザイン。
特に通信による作画データのやり取りは世界のオタクを一つにした。
細い指で描かれるキャラクターが紡ぎ出す耽美な物語もその手の業界では垂涎の的であり初期の原画は途方もない金額で取り引きされていた。
その上作画ソフトはレナの要望により使い勝手が著しく向上し業界のデファクトスタンダードとなっていた。
これは同人活動5年で上り詰めた伝説の貴腐人でもあり、かつ漫画業界に革命をもたらした英雄。
多くの孤独な同人活動家に福音を与えた女神。
マクシミリアンの前で決して語られる事のない無名の英雄譚・・・ではない。
キャロルに中学1年生の遥を抱き枕としてたのがばれたのはこの4年後であった。




