銀翼の鷹
キャロルと知りあった頃のマクシミリアンの所持している資産はアメリカでは20億ドルに換算された。
貴金属相場を見ながら投資アドバイザーの指示に従い慎重に売り払う。
新天地地球で言葉も社会体制も何もかもが違う中で魔法陣開発、強大な軍備に掛かる人材確保と育成。時間が逼迫する中やらなければならない事は多い。
マクシミリアンの余命はおおよそ50年、と同時に地球は滅亡する。
時間が足りない。
その時間を埋め合わせるために銀翼の鷹は40年前に地球に転移した。
銀翼の鷹メンバーの年齢はこの世界にきて60半ばに達していた。
マクシミリアンの時間は限られていたが銀翼の鷹の過ごした40年という歳月は伊達ではなかった。今ではマクシミリアン一行が転移してきて銀翼の鷹パーティーメンバーと再会して5年程が過ぎた頃に設立した銀翼社という会社に、この時世界中のありとあらゆる分野に秀でたスタッフが数多く所属していた。
20歳台前半という若さでS級冒険者として活動し地球に転移し生き延びて来た彼らの人を見る目に間違いはない。
冒険者の仕事は常に生死に直結する。
特にB級冒険者以上に割り振られる仕事は、成功=生存であった。
生き残る最大の条件はメンバーが優秀である事こそが最大要因。
『金を稼ぎたいのはみんな同じだ。B級以上になれば一仕事で1ヶ月分の生活費の稼ぎの依頼がひっきりなしだ、だが死ぬ確率も鰻登りになる。そういう依頼しか与えられない。死にたくなければ仲間を選ぶかC級に甘んじろ』
冒険者ギルドで最初に説明される事柄だ。
銀翼の鷹は元いた世界とは比べられない程悲惨な地球の戦場で生き残った。
S級冒険者の面目躍如である。
だが心の中は不安に満ちていた。
何度かの軍役をこなし皆が市民権を得た事がわかりパーティーメンバーは再び集まった。
各々が経験してきたことを語り合った。話さなければ気が狂いそうだった。
現代兵器による戦争は彼らの想像を絶するものだった。
人がゴミクズのように吹き飛ばされ、男女年齢に関係なく戦争に巻き込まれて命を落とす。
アシュリーを始めとする銀翼の鷹メンバーは何人も救い、数え切れないほど殺してきた。
戦後後遺症に悩まないわけがなかった。
その上約束の時に本当にマクシミリアン伯爵が来るのかと疑心暗鬼に陥っていた。
彼らの過ごしてきた時間はあまりにも長かった。
皆、すっかり捨て鉢になっていた。
帰還できない国のために、滅びる事が分かっているこの世界とともに何故自分達も運命を共にしなければならないのか。
うなだれながらアシュリーが呟く。
『もう一度お袋の作った飯を食いたい、弟や妹そしてカトレアを抱きしめたい。
皆んなの笑顔が見たい・・・わかってたことなんだ。
分かった上で俺たちは来たんだろ。
俺たちがやらなきゃセントリーブスの皆んなが殺されるんだ。
この世界にも失いたくないものが増えた。
戦友、恋人、街の多くの知り合い。
だけど地球は俺たちでは救えない。
救えるものを救おう。
たとえ二度と会うことのない人たちであっても、彼らのために俺達に出来ることをしよう。
送り出してくれた人たちの期待に応えよう。
銀翼の鷹はいつも依頼を完璧にこなしてきたS級冒険者パーティーだ。
だから俺たちが選ばれた、多くの冒険者の中で俺たち以外にこの依頼をこなせる者なんかいない。
皆んなの希望が俺たちなんだ』




