弱者
マクシミリアン一行が何故地球に転移したか。
聖女により発見された他の全ての異世界は魔法が存在している様子がなかった。
国家存亡の事態は差し迫り異世界勇者召還計画が中止される寸前、地球の情報が最後にもたらされその強大な文明という力に頼る決断がなされた。
地球の文明は非常に魅力的だった。
魔法を使わず空を飛び、巨大な船が行き交い火を自在に操り水をふんだんに使い自動車が走り回り食料が溢れ巨大な都市に人が集っていた。
ただ、地球を視る事が出来るのは聖女だけであったため、地球の文明を第三者に説明しても理解されることはなかった。
故にセントリーブス王国に地球の技術的反映されることはなかった。
更に聖女を含めた誰もが異世界に干渉は全く出来なかった。
地球に干渉する術は異世界転移魔法により転送された人間しか成せなかった。
しかも一度異世界転移を行った者は魔法の影響が体内に留まり、二度と異世界転移が出来ないという事態が確認された。
【地球に転移した者が誰も帰還出来なかったからである】
ある時地球に転移した賢者が実験計画に従わず、地球で出会った者と共に帰還のために異世界転移魔法を発動させた。
その際転移して来たのは地球から来た者のみであった。
転移して来た地球人を再度地球に転移させる実験で魔法が弾かれる事が判明し、異世界転移は片道切符という事が発見された事件だった。
更にこの事件で転移して来た地球人の証言により、地球に行った者も地球から来た者も時空を越えたからといって特別な能力が備わることが無い事が転移してきた地球人の証言により確認された。
であるならば地球から優秀な者を魔道具らしきモノと共に転移させればあの強力な力を手に入れる事が出来るのではないかとなった。
問題は転移魔法に使える特殊な魔石の大きさ、数と転移魔法の規模が比例していることだった。
見つかっている魔石は残りわずかで大きさも精々がこぶし大であった。
込められる魔力量が決まっている以上、魔法陣に工夫を凝らさなければ持っている魔石と発見された魔法陣の力で予想される転送規模は馬車5台が限界だった。
地球の過去に送った転移者によってコチラにおくり込まれた地球人は魔法陣に組み込まれた『聖女のいた時間軸』にかならず転送される。
『聖女の異世界透視魔法は聖女の生きている時間軸と異世界の時間軸がリンクしている為たとえ異世界であっても未来は視ることができない。
未来が見えない以上転送座標をその地の未来に定める訳にはいかなかった』
全くの嘘である。聖女を起点として異世界の前後1世紀を透視出来ていたのだ。
なぜ嘘をついたのか。この地に残る転移者の家族、仲間、親しくしている者たちに悲しい思いをさせないためだった。
【マクシミリアンが転移した50年後地球の人類文明が滅びることを】
その事実は国王、マクシミリアン一行、銀翼の鷹のメンバー、これまで実験に協力してくれた者にはには伝えられていた。
聖女により観測された異世界の過去は現実として存在したものと仮定され、転移者に異世界で数年ごとに転移した地点に再訪させる実験が行われ、実体が確認されていた。
更に実験は進められ地球人の中で救いようのない犯罪者を使い、地球に転移した者の監督下、設定した時間軸で転移実験が行われた。
この他の案として聖女自身を地球に転移させセントリーブス王国の時間軸を観測させこちら側の数十年前に地球人を送り込む案も有ったが、この星に唯一存在する聖女を地球に派遣させるわけにはいかないという理由で却下されているが実は聖女自身が特異点であるため異世界転移時に何が起こるか不安があったというのが事実であった。
ちなみに転移してきた地球人は即確保され、セントリーブス国で人知れず研究材料とされた。
不確かな未来に悪影響を及ぼさせないためだ。
何度かの実験により、聖女の証言により地球に転移する場合は聖女が確認できる時間軸において現在の時間と地球がリンクしている以上未来には行けない(嘘である)が、過去存在していた時間座標はある程度の範囲で任意に設定ができ、また地球から転移する場合は聖女の生きてきた時間を組み込まれた魔法陣で構成される魔法により割り込みをかけることが出来ることが判明した。聖女自身の未来が見えない以上転移魔法発動を【決意した時間】が組み込まれるため地球から転移して来る者もそれに従う。
但し地球からなにがしか転移させると地球の未来が書き換わる事になるので、最終工程に行くまでの実験の被験者は慎重に選ばれていた。
それでも最終的には地球の未来を変えてしまう訳だが、報告を受けた国王はうなだれながらも計画の発動を了承した。
こうして異世界に魔法陣の設計図に現在の時間と転移座標を組み込み、魔石と共に転移、強力な文明とそれを作り上げた人類をセントリーブス国に送り込む事となった。
後は転移した異世界において満足できる転移規模の魔法陣を開発する事だった。
そのために強力な魔法を発動させる魔法陣開発の能力に最も秀でたマクシミリアンが選ばれた。
その際国が滅ぼされてしまっては意味のない物だが、地球では十分に通用するであろうことが予想される金銀財宝を持たせた。
既に魔王国の進軍は始まっており、これに呼応する形で聖公国の軍備が整えられ始めている報告が次々と上がっていた。
少ないが魔力を持つ者、全く魔力を持たざる者、力無き獣人、ハーフエルフ、ドワーフ、無力な魔人が慈悲に溢れるセントリーブス王に縋り国民全ての知恵で生き延びてきたセントリーブス国は滅びのきわに立たされていた。
友好による平和を信じ続けた愚かな王と他国から嘲られた結果がコレであろうとも国民全てはセントリーブス国王を愛していた。
国王の理念の元に国家運営される事こそ国民の幸福に近づく王道である事が、このあと早乙女 遥と銀翼の鷹によって何度も証明されていく事となった。




