スカウト
遥は目の前のスーツ姿の背の高い白人女性に小さく頭を下げる。
小学5年生の遥にとっては現実感が伴わない程の美女が何でウチにという疑問が湧くと同時に姉が『あり得ない』と言っていたメールを思い出した。
「早乙女 遥さまのご自宅で相違ございませんね」
流麗な日本語に驚く遥。
「は、はい」
「では遥さまはご在宅でございますでしょうか」
「遥は僕です、あ、あのもしかしてコーデル社の」
「ああ、遥さまでいらっしゃったのですか。まさかこんな可愛らしい方だとは・・大変失礼しました。私コーデル社代表取締役社長マクシミリアンの通訳兼秘書を仰せつかっております総務部秘書課のミランダと申します」
「っとすると、あのゲームの・・・」
「はい、要件はあらかじめメールでお知らせさせていただきました通りでございます」
「はは・・・、あ、とっとにかくここではなんですので上がって下さい。とっとにかくお茶でもどうぞ。お母さん!コーデル社の方が来たよ!本当に来たんだ!お茶出して!」
「あら やだ本当に来たのね!ハルくん凄いじゃない。ああ、コーデル社の皆さん狭いところですがどうぞこちらへ」
遥の母が下げた頭を上げるとミランダと名乗る女性の後ろから背の高い老齢に差し掛かった男性が一歩前に出て名刺を渡した。
「はじめまして、私コーデル社総務部長を勤めさせて頂いておりますグレッグと申します。本日はご子息の遥さんに是非お会いしたく我社の代表取締役であるマクシミリアンも詣っている次第でございます。お忙しい中お手数をおかけして申し訳ございません」
いや全然遥は忙しくなかった。
夏休みも中盤、宿題も課題も全部終わっており、あとは夕方に塾に行くくらいの予定だ。
小学校の仲間はサッカークラブで忙しく遥は姉からいいつけられた猫の世話係をしつつゲーム制作倶楽部というゲーム制作ソフトでゲームを作っており一日中家にいる。
それにしても何か凄い人の名前を聞いたような、社長とかいってた気がした遥。
マクシミリアン・・・、なんか偉い人っぽい人が来ちゃった~!と遥は考えながら母のあとにグレッグと名乗る人から名刺を貰うと外に止めてある超高級車のドアが従業員の手で静かに開けられたのを見て胸が高鳴った。
車の中からグレッグと名乗った人よりいくらか小柄な男性が綺麗な銀色の髪の長い女性を引き連れてにこやかに出てきた。
「うむ、ハルカ殿の母上も居るようで何よりである。
我はマクシミリアン・コーデル、マジェスティックワールドではマックと名乗る者である。
ソチがハルカ殿もといハル君で相違ないな」
『あの顔は間違いなくマクシミリアン社長マックさんだ!!
メールが来たあとお姉ちゃんと一緒に調べたときFacebookでも月刊ゲーマー野郎にも載ってたしチュー太郎のネット動画でも見た事がある。
マックって言ってたけどあのマックさんがマクシミリアンさんなんだ、すごいよマックさん。
言ってくれれば良いのに、メール来るまで知らなかったよ~。
それにしてもマックさんってカッコいいオジサンだなー。
お兄さんじゃないけど、老けてるのかな。まあいいや、マックさんだと思うし。
カリスマって意味知んないけどカッコいいっぽいからマックさんがそう言われるのも分かる気がするよ。
お姉ちゃんがマックさんは『今、ゲーム業界では偉大なる魔術師マクシミリアン卿とかカリスマゲーマー』とか言ってた人だけど見捨てないで友達になっといて良かったー!。
お金持ちそうだし』
小学5年生の遥にとってはゲーマー仲間で、カリスマYouTuberのチュー太郎の動画に出るくらいの人であり、かつ姉に教えて貰って知っただけのよくわからない『ゲーム業界のカリスマ』というお金持ちっぽいオジサンとしか見えていなかったのは仕方がないことであった。
世界中でマクシミリアン卿と敬意を持って呼ばれる遥の目の前にいる男性はこの世界で最も支持されるMMORPGマジェスティックワールドを開発したアメリカにあるコーデル社の発起人であり社長。今ではゲームだけではなくネット通販をはじめ情報通信に関わるありとあらゆる業務を網羅し成功に導く巨大企業群を率いる男だった。