5
空を見上げると、雨は止んだけれどくもりのまま。
まるでわたしの心境そのままを表しているみたい。
わたしは彼の上着を手に取った。
「上着、ありがとね。ちゃんと洗濯して返すわ」
「うっうん。あの、さ」
彼は顔を赤くし、何か言おうとした。
けれどいきなり!
ざあっ…!
「きゃっ!」
「うわっ!」
突風が吹き荒れた。
天気本当に悪いな…。
でもうっすらと開けたわたしの目に映ったのは…桜の花びらがまるで雪のように舞い散る風景だった。
「あっ、キレイ…」
わたしの声に反応して、彼も眼を開けた。
「まるで雪みたいだ」
「そうね」
わたしは両手を広げ、上げてみた。
桜の花びらがわたしの手の上を通り過ぎる。
でもほんの一瞬、冷たい感触があった。
「えっ?」
白い桜の花びらにまざり降ってきたのは…まさか!
「雪!?」
驚いて空を見上げると、白い花びらと共に雪が舞っていた。
「ああ、久し振りだね。雪が降るの」
彼も嬉しそうに両手を広げる。
その様子を見て、わたしはたまらなくなって、彼に抱きついた。
「えっ! どっどうかした?」
泣き出しそうになるのを必死に堪えながら、わたしは言った。
「あなたのことがっ…好き」
「あっ…」
彼の体が一瞬、固まった。
けれどすぐに苦しいくらいに抱き締め返してくれた。
「うん。ボクもキミのことが好きだよ」
「…うん!」
涙目になりながら映った光景は、雲間から差し込む光を受けて、輝く彼の笑顔だった。
<完>