7.旅館の温泉
海水浴場近くの旅館にチェックインを済ませた俺たちは、夕食前に温泉へ入ることにした。海水浴場の近くと言っても山の中にあり、割と古い旅館だったためか男湯には俺しか客が居なかった。湯船に浸かるとジンワリと身体が温まってきて、今日一日の疲れが取れていくようだ。今日だけで色んなことがあったな。
まさか一日目にして佐倉の身体に抱き着いたり、黒木さんの胸を揉んだり、二人とオイルまみれになろうとは夢にも思わなかった。まあ二回も引っ叩かれるとも思ってなかったわけだが。
ふと仕切りの向こう側の女湯のことが気になって来た。男湯と女湯の間は薄い板で仕切られているだけであり、乗り越えようと思えば乗り越えられそうだ。流石にそんな事はしないけども。……今ごろ二人はどんな会話をしているのだろうか。
※※※※※以下、星の脳内で繰り広げられる妄想※※※※※
黒木
『佐倉ちゃん、一緒に洗いっこしない?』
佐倉
『いいですよ。私が先に背中を擦りますね……わあ、やっぱり黒木さん胸大きいですね』
黒木
『そんなことないわ。佐倉ちゃんだってスレンダーで羨ましい』
佐倉
『でも男の人ってやっぱり胸の大きい人が好きですよね。はあ、私の胸も黒木さんみたいに大きくならないかな』
黒木
『ふふっ、そのうち大きくなるわよ』
佐倉
『もう、そんなこと言って! えいっ!』
黒木
『きゃっ! そんな乱暴に……!』
佐倉
『ふふっ、本当は気持ちいいんじゃないですか?』
黒木
『んっ、そんなこと……!』
星
『やあ』
佐倉
『星先輩!』
黒木
『星くん!』
星
『俺も手伝いますよ』
佐倉
『お願いします……!』
黒木
『駄目よ、私から!』
星
『はっはっは。そんなに急がなくても星は逃げませんよ』
※※※※※終了※※※※※
なんてドゥフフフフフフ!
だがまあ現実的に考えれば、今日あれだけいがみ合っていたのだから、(というか一方的に佐倉が絡んでいただけだが)無言なんじゃないだろうか。もしそうなら険悪な雰囲気は何とかしたいところだなあと思っていると、女湯の方から笑い声が聞こえてきた。耳を澄ませてよく聞いてみると、どうやら黒木さんと佐倉の声のようだ。これは実に意外だ。あんな悪戯をされた張本人とその日の夜には談笑できるなんて、さすが黒木さんは聖職者だなあ。そう考える俺に次のような会話が聞こえてきた。
「黒木さんは無駄な脂肪が多いですね。それって何の役に立つんですか?」
「ふふっ、半分男の子みたいな体型の貴方には考え付きもしないことよ」
「空手家にとって乳なんてあっても邪魔なだけですぅー」
「女にとってはあって困るものじゃないわ」
「そんなに乳大きかったら牛と間違えられるんじゃないですか?」
「佐倉ちゃんこそ、そんな体型だと男の子に間違えられるんじゃなくって?」
「へえ、最近の牛ってよく喋るんですねえ。早く出荷されていけばいいのに」
「あら、佐倉ちゃんこ女湯じゃなくて男湯に入った方が良いんじゃないのかしら?」
やべえ。は、早く上がろう……。
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