3.説得
昨年のある日のことだ。空手の朝練中だった俺は空腹のあまり、近くの教会の木からリンゴを取ろうとした。そこを黒木さんに吹き矢で撃たれたのが全ての始まりだった。
そんなどこにでも転がっていそうなありふれた出会いだったわけだが、交流を深める中で彼女がとても魅力的で、また非常に変わった女性だということが分かった。まず普段着ている修道服の丈たけが異様に短い。少しでも動けばパンツが見えそうなところまでキている上、横にスリットが入っているのだから完全にセクハラだ。当然のように胸元もパックリ割れていて、豊満な谷間を神様に向けて晒し続けている。
黒木さんはそんなイメクラみたいな恰好をしているくせ、俺が少しでも約束の時間に遅れると「なんて罪深いんでしょう!」と胸を揺らしながらプンプン怒ってくる。お前じゃい。
そう、彼女は自分が非常に罪深い服装をしている自覚が無いようなのだ。ずっと男のいない環境で育ったためか、男への耐性と羞恥心が欠如しているらしい。俺が諦めずに彼女を誘い続けた理由はこれである。まあ、ここまで振り切った水着を着てくるとは思わなかったが……。
「そんなに慌ててどうしたの星君?」
「どうしたの、じゃないですよ黒木さん。自分の着ている水着を見て、何かおかしいことに気付きませんか?」
黒木さんを連れて一旦車まで避難した俺はエンジンをかけ、エアコンの風量を最大まで上げて言った。
「……星君も気付いていたのね」
いや気付く以前の問題だろ。この広い砂浜で間違いなく一番おかしい存在だったわ。
「やっぱり白い水着の方が良かったかしら」
「そこじゃねえよ論点! アンタの着てる水着の布面積が少なすぎだろって話だよ!」
すると黒木さんは頬を紅くして両手で胸を隠す仕草を取った。
「まあ! そんないやらしい目で見ているなんて、なんて罪深いんでしょう!」
「何それツッコミ待ちなの? 」
俺はリュックからとあるものを取り出しながら言った。
「……黒木さん、あのですね。自分がどれだけ無防備な格好をしているか自覚してください。これだけたくさんの人がいれば悪い奴も混じってますよ。ナンパしてくる奴がいるかもしれないし、盗撮している奴がいるかもしれない。もしかたら誘拐を考えている奴がいるかもしれない」
「そうかしら。星君は大げさ過ぎるわ」
まずいな。この危機意識の無さだとホイホイ知らない人に付いて行きかねない。ちょっときつめに言う必要がありそうだ。
「いいえ、危険ですから着替えてください。ただでさえ黒木さんは美人なんだから」
すると黒木さんの顔がどんどん赤くなっていく。
「も、もう、星君ったら美人だなんて大げさなんだから」
おいおい予想以上にちょろいな。余計心配になってきたぞ。
「しょうがないわね。この水着は着替えることにするわ」
黒木さんは一度眼鏡を治す仕草を取った。ようやく着替える気持ちになってくれたようだ。それは良かったが、この痴女い黒ビキニ姿が拝めなくなるのは少し寂しい。今のうちに脳内に保存しておかなければ。
と思って黒木さんの白いスイカのような胸を見ていると、段々俺の中の欲望がムクムクとしてきた。そういえば今この狭い車内に二人だけだ。ひょっとして、このままちょっと胸を触っても怒られないんじゃ……。
「でも着替えると言っても、私、今のと同じような物しか持ってきていないわ」
黒木さんの声にハッとして俺は背をただし、咳払いをして言った。
「心配には及びませんよ」
次は今日のお昼予定です。