邂逅を告げる第一闘争 -Ⅸ
自分と同じく飢えに身を侵された少女との予期せぬ邂逅。
だがすでに人を外れた両者の対話――――鬼と鬼との交感は必然としてただ一点へと収束する。
――――至高にして、唯一無二にして、一心不乱の、『闘争』へと。
「…………!」
10メートルはあった彼我の差を少女が助走なし構えなしの一足で詰めてくる。地面を這うかのような低体勢での突進は元々あった身長差をさらに広げ、ユウから防御という選択肢を剥奪した。無防備なこちらの足を狙って振りかぶられた鉄パイプを咄嗟にバク転の要領で後方に跳躍しながら躱す。紙一重のタイミングだった、あとコンマ一秒でも遅れていたら両足は無惨にも粉砕されていただろう。完全なる奇襲、今の攻撃を凌げたのは半ば以上に奇跡に近い。
だが奇跡だろうとなんだろうと結果として自分は無傷、ならば次はこちらの反撃だ。奇襲も奇跡も、無粋などでは決してない、むしろそれらを無粋であるとすること自体がそもそも無粋。純粋なる闘争には二者共に付き物、それらの介在しない闘争など逆に興ざめだ。
着地と同時に体のバネを最大限に使用し間髪入れず体ごと正面に突っ込んでいく。しかし初撃を躱されたと判った瞬間、急制動を掛けてその場に踏み止まっていた少女は冷静沈着に、砲弾の如く飛来するユウの体当たりを縦に構えた鉄パイプで真横へいなした。
恐るべきは少女の技量だ。ユウの反撃を予期して二撃目以降の深追いをせず瞬時に防御体勢へ以降した判断能力もさることながら、強化された筋力による体当たりを力任せに受け止めていれば一瞬でへし折れていただろう鉄パイプをほぼ歪ませることなく、だが確実にその大威力を受け流した妙技も尋常ではない。
再び開いた、長いようだがその実一瞬で詰められる短い距離を挟み、二匹の鬼は鋭く視線を交錯させる。
「奇襲に関してはもはや何も言うまいが……、そっちだけ得物持ちはちょっとズルいんじゃないのか」
「アイアム女の子アンドお兄さんより年下。よってこれくらいのハンディはカミサマだってきっと許してくれる」
「どう考えてもこの場合有利が働くべきなのは俺の方のはずなのになんつーえこ贔屓なカミサマだよまったく……。経験豊富なお姉さん設定は一体どこに消えたんだ……」
「そもそもこれその辺で拾ったものだし別にいいじゃない」
「血塗られた忌まわしき伝説の鉄パイプなんだとばっかり思ってたよ……」
「ダインスレイブじゃないんだからさー……。アハ、じゃあここは一つ雰囲気を出してみよっか――――貴様も、我が身の錆と成り果てろ!!」
ノリノリで如何にもな啖呵を切りながら再度突撃を開始する少女。コンクリートの大地を蹴る靴音が荒れ果てた工場内に遅れて響き渡る。この上ない歓喜に酔いしれていることは表情からも明らか、彼女は誰よりも純粋に、殴り殴られ、蹴り蹴られ、殺し殺されるこの闘争を、楽しんでいる。
再び防御の難しい低体勢からの攻撃だが一度使った戦術が二度目以降も有効である道理はない。鉄パイプを振りかぶり一直線にこちらへ向けて疾走してくる少女を両の目で捉え観察る。
防御の不可性は変わらない、しかしそれが奇襲でないのなら、迎撃することぐらいは可能だ。ユウは先程の打ち合いで把握した相手の速度にタイミングを合わせ、ギリギリまで引きつけてから渾身の回し蹴りを叩き込む――――見事直撃。
(ダメか…………)
少女の進路は直角に折り曲げられ真横へと吹き飛ぶが、手応えならぬ足応えの薄さに歯噛みする。それもそのはず、彼女はこちらの迎撃体勢を見極めると同時に鉄パイプを地面に突き立ててブレーキ代わりにし、直撃の寸前に逆の方向へ跳ぶことで衝撃を和らげていた、これでは迎撃成功とはとても言えない。
だが今は追撃のチャンスとしては絶好、逃すわけにはいかないだろう。すかさず風を切る速度で未だ宙を飛ぶ少女へ肉薄しその勢いのまま鳩尾へ掌底を放つ。再度鉄パイプを足元へ突き立てることで強引に体勢を立て直した少女は体幹を僅かにズラすだけで事も無げにそれを躱すと返す刀で得物を突き込んできた。左の肘で鋭い一撃を叩き落とし、必然的にこちらへ接近した少女の顔面に向けて右の拳を叩き込むがステップを踏むように後方へと間合いを取られ敢え無く不発に終わった。
ことごとくこちらの攻撃が当たらない。どこまで攻めてどこで退くのか、そういう引き際の見極めを彼女は達人的な領域で行っている。他でもない自分がそうであるように、闘争への飢えは間違いなく彼女を前へ前へと煽動し、一旦退くという発想自体を妨げているはずなのにだ。
これも経験とやらの成せる技なのかどうかは定かではないが今のままでは圧倒的にこちらが不利――――だがそれでこそ闘争、それでこそ、
「――――面白いッ!」
体勢を整える隙を与えぬようユウは少女の動きへ追随し、無防備となっていた顎を咄嗟の防御が間に合わない真下から蹴り上げる。対する少女は先程のユウと同じ手法、後方宙返りで下段からの強烈な一撃をやり過ごす。またも不発。そして流麗に地へ降り立つとそのまましゃがみこむように体勢を低くし、残ったこちらの片足を薙ぎ払いにかかってくる。ユウは一旦空中へ避難し次いで今度は真上からの踵落としを敢行するが、少女は相変わらず楽しそうに凶悪な笑みを浮かべながらこちらを見上げ、槍の如く鉄パイプを構え直した。
「空中は袋小路だよ、お兄さん」
「ッ!?」
彼女の言うとおり、自由の利かない空中に逃れたのは失策だったと気づいた時にはもう遅い。重力の恩恵を受けた鉄パイプ改め凶槍は長いリーチを存分に活かしユウの踵が届くよりも先にその体幹を打ち貫く。咄嗟に両腕を交差させ盾代わりにするが打突の衝撃によりそのまま弾き飛ばされ無様に地面へ墜落した。
ろくな受身を取れずに落下したため激痛に全身を苛まれる。直に攻撃を受け止めた両腕の骨には間違いなく罅が入っていた。のたうち回りたい衝動に駆られるが敵の目の前でいつまでも寝転がってはいられない。昏倒し、揺れる視界で少女の方を見る――――マズい、見失った。
素早く辺りを見渡す、やはりどこにもいない。嫌に冷たい汗が背筋を伝うが、瞬間、上空から凄まじい殺気を感じて反射的にその場から飛び退く。
一拍の後、落下してきた鉄パイプが今の今までユウが座していた地点をコンクリートが砕ける凄まじい音と共に貫いた。何たる衝撃か、地割れのように床に入った罅は後ろに退いたユウの足元まで届いている。回避があと一瞬でも遅かったらユウの体は串刺しどころでは済まなかったに違いない。
そして、当然の道理としてその実行犯である少女は鉄パイプを掴んだまま地に足を付けることなく、屹立したそれを軸にポールダンスの如き鮮やかな回転を決めながら、すぐ後方のユウに落下の威力をそのまま転用した全力の膝蹴りを叩き込む。防御など間に合うはずもなく、正真正銘今度こそ直撃。ユウの体は血だまりの残る地面を何度も弾きながら吹き飛ばされていった。
ユウが飛ばされていった方向で何も動きがないことをすっかり冷めた目つきで確認した少女は、かなり深く床に突き刺さっていた鉄パイプを引き抜きながら嘆息を漏らした。
「結局はこんなところか……。理性の維持は相当なものだったみたいだけど、心の強さと体の強さは比例しないってことなのかな、いやあの様子だと単純なキャリア不足か。何にせよ、まだ収まってない事実が一番の問題だ……、どうしたものかねえ」
くるくると、軽快に手元で鉄パイプを回転させながら大した問題だとは思っていないかのような口振りで嗟嘆を口にする少女は、気づかない。
自分の飢えがまだ残っているのなら、その相手も当然、まだ飢えていて然るべきだという厳然とした事実と、燐堂ユウの意識は途絶えてなどいないという驚愕すべき現実に――――
両腕の骨には罅、呼吸の度に走る疼痛は先の一撃で折れたアバラによるものか、この様子では内臓にも少なからず被害は及んでいそうだ。あまりの激痛により明滅する意識の中、いつになく重い瞼をなんとか開き、敵の姿を霞む視界に捉える。
瞬間、視界が一気に明朗となる。痛みは嘘のように引いていき、体には気力が漲ってきた。敵の認識によって再燃した飢えが、ユウの体を闘争可能な状態へと無理矢理引き戻す。
骨が何本か折れた? 内臓機能に問題が発生? それがどうした、未だ五体は満足だ。立ち上がり蹴り飛ばす両の足も、掴み殴って叩きつける両の腕も残っている。俺はまだ飢えていて、相手はあそこで呑気に突っ立っている。であれば鬼である自分がやるべきなのはここで醜態を晒すことではない。
そして何よりも。せっかく出会えた強敵との素晴らしい闘争に、こんな呆気ない幕引きなど不興の極み。その感情はそちらとて同じであろう、同類よ。ゆえなればこそ、至高で、唯一無二で、一心不乱の闘争を、尽き果てるまで続けようではないか――――
「――――ッ!?」
立ち上がり、そのまま一切の間を空けず一直線に少女の元へと疾走。建物の内部に吹くはずのない風を巻き起こすほどの神速をそのまま重さへ転化した超威力の飛び蹴りを放つ。気づいてからでは間に合わない。しかし並外れた直感で危機を察知した少女は反射だけで防御体勢に入るが、力を散らして受け流すのではなく単なる咄嗟の盾代わりとして構えられた鉄パイプが鬼の全力に耐えられるはずもない。散々自分を苦しめたそれを真っ二つにへし折りながら先の意趣返しとばかりに少女を遥か後方へ蹴り飛ばした。
勢い余り、靴底から床に焦げた二本の軌跡を描きながら着地する。今度こそ確実な直撃だ。だがこの程度であの敵は倒れない、そうでなくてはならないのだ。
案の定、落下の衝撃を最低限に抑える受け身を取り致命傷だけは回避した少女はフラつきながらもすぐに立ち上がってくる。激痛に歪むその瞳から闘志の炎は消えていない。二つに折れた鉄パイプの片方を乱雑に投げ捨て、もう一方を構え直しながら疑問を多分に含んだ視線でこちらを睨めつけてくる。
「確実に倒したと……、思ったん、だけど、な……。どうして……?」
「俺、もう飢えは収まってるだなんて一言も言ってないはずだけど?」
「は、ハハ……。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
響き渡る哄笑。何が彼女のツボに嵌ったのかは知るべくもないが頭のネジがどこか外れてしまったのなら少し悪いことをしたかもしれない。
「どうしたよ急に。衝撃で頭、変になっちまったか?」
「ハハ……、いや違う違う。正確には『どう考えても立ち上がれる状況じゃなかったはずなのにどうして?』って質問だったんだけどそうだね聞くまでもなかった。まだ飢えているから、か。素晴らしいよお兄さん」
「…………? やっぱりどこかおかしいんじゃねえのか?」
「現在進行形で殺し合ってる相手の状態なんてそんなことぶっちゃけどうでもいいでしょ? さあはやく続けようよ、この闘争を!」
両者の表情は、この上ない悦楽に満ち満ちた笑顔。それは鬼の享楽で、人には理解が及ばぬ故に気狂い意外の形容はない。しかし彼らは強く強く希ったこの闘争を、純粋に全力で、楽しんでいるのだ。
かくして短い人の対話は終わりを告げ、闘争という名の鬼の対話が再開される。
全く同じタイミングで両者はお互いの方向へ疾駆する。
結果として顕現するのは当然の如く、閃光迸る激突。繰り出されたユウの足は少女の体幹を捉え、折れたことで鋭利な断面を顕にした鉄パイプによる少女の突きはユウの脇腹を抉る。先程までなら足が届くよりも先にリーチのある彼女の鉄パイプがユウを貫いていただろうが二つに折れたことで間合いが短くなっていたことが思わぬアドバンテージとなっていた。
互いに苦悶の声を上げながらも持ち堪えたのはユウの方。真横からの衝撃に体勢を崩した少女の顔面を容赦なく殴り飛ばす。だが彼女もやられているばかりではない。そのまま倒れこみそうになる体に鞭打ち、渾身の力で大地を砕かんばかりに踏みしめてその場に体を留めると、抉り抜いたことでドス黒く染まったユウの脇腹へと鉄パイプを振りかぶる。傷を庇うように間へ右腕を差し入れるが齎された衝撃は罅の入った骨にはあまりにも強力すぎた。激痛と共に力が抜け垂れ下がる。間違いなく右腕の肘から下の骨が砕けかけている。
そもそも今のユウは飢えの作用で傷による痛みを一時的に忘れているだけであり傷自体が治っているわけではない。よってこの状況で度を越えた酷使をすれば体の方が耐えられなくなるのは自明だ。
だがそれでも、今のユウは止まらない。たかが片腕一本使い物にならなくなった程度でこの闘争が終わっていい理由になどなりはしない。
「……ッ、まがりなりにも年下の女の子の顔面を全力でぶん殴るとか……、男としてどうなのよお兄さん」
「お前に倫理道徳を説かれる筋合いはないなあ。トラッシュトークもほどほどにしとけ、よッ!」
跳ね上げた左足で頭を刈りにかかるが少女は体を大きく後方へ反らしそれを回避、体勢を戻すと同時に鋭く得物を突き入れてくる。右へ体を傾け浅く体を削られながらもギリギリのところでやり過ごす。
(気炎をあげたはいいものの……、やっぱ反応のない腕ぶら下げてるとどうにもバランスが取りにくいな…………)
右腕が使い物にならなくなったことで、間合いの短縮により得た有利もすっかり相殺されてしまっていた。それ自体を攻撃手段とすることは勿論、無意味にぶらつくだけの肉塊はバランスを乱し、右足による蹴りをも難儀させる。言うまでもなくそれに気づいている少女は、傷を抱えその上文字通り手も足も出ない状態にあるこちらの右半身を執拗に狙ってきており闘い辛いことこの上ない。正直なところ邪魔でしかないのでいっそ切り落としてしまいたい衝動が湧くが悠長にそんなことをしている余裕はないし、やったとしてそれはさらに状況を悪化させるだけだろう。抉られた脇腹から流れる鮮血は足元に真新しい血だまりを形成している、本当に切断などしようものならいよいよ血が足りなくなってしまう。
「敵の足元を見ながら闘うのも、なかなか悪くないねお兄さん」
「……つくづく思うが、どんな内容であれとりあえず闘えさえすればいいんだな俺達って」
「突き詰めればただの殺し合い。その程度のものに正々堂々とした高尚性を求めること自体がもしかしたら間違ってるのかもね」
(足元を…………見ながら……………………か)
少女の口にした慣用句が不自然に印象に残り、何かに気づきかける。明らかな劣勢であるこの状況を覆し得る、そんな予感のする何かに。主に右半身へ向けて弾幕の如く放たれ続ける衝打と刺突を時に躱し、時に躱しきれずその身で受け止めながら頭に引っかかった何かの正体を必死で探る。
自身が負った傷。少女の猛攻。足元。この瞬間の闘争を構成するあらゆる要素を精査し吟味する。
そして、
(そうか…………)
――――ユウは死中に活路を見出した。
だが、この少女ほどの強敵を前にして集中力を目先の闘争以外のことへ向けるのは紛れもなく愚策そのもの。ユウの注意が逸れた一瞬。たった一瞬だが少女がその隙を逃すはずもなく、重創を刻まれた脇腹へ凄まじい膂力と共に鋼の暴威が叩きつけられる。情け容赦など微塵も介在しない全力の一撃。全身を電流のようなものが一瞬で駆け抜けた後、体内で爆発が起きたかのような激痛が脇腹を起点として全身へ波状に伝播する。今この瞬間に限って言えば飢えよりも痛みが強勢であったが、全霊を賭してユウはそれを捩じ伏せた。口元から溢れ出る赤く鉄臭い粘液すら噛み砕くように歯を食いしばり、彼方へと飛ばされそうになる意識と身体を自らこの場へ縫い付ける。逆転へと開けた光明を自身の油断で閉ざすわけにはいかないのだ。傷口から滝のように流れ落ちた血は足元に広がる真紅の滝壺の面積を拡大させている。生命維持に支障をきたす出血量であることは医学に疎いユウでも判断できる。しかしそれを委細承知の上で、ユウは笑う。決して彼女に狙いを悟られぬよう歓喜は胸三寸に留めながら、心中のみで大笑する。
――――これで、布石は整った。
「どうしたのー、お兄さん? 痛すぎて動けなくなっちゃったのかなッ?」
少女は反撃に出る様子のないユウに容赦なく追撃を仕掛けてくる。棍棒のように扱っていた鉄パイプを華麗に手元で回転させ、再度槍として持ち替えた上で放つのは連続した袈裟斬りだ。ユウは身体を左右に傾けて斬撃をやり過ごし、時に浅く肩口を斬り裂かれながらも少しずつ着実に後退する。跳躍や屈み込みによる上下への回避が有効ではない上に真っ向から受け止める得物を持たないユウにとって後退は、袈裟斬りから逃れる手段としては最善。そう、最善策なのだ。そしてそうであるが故に、歴戦の猛者たる少女は気づけなかった。先に待つのが土壇場でユウがその命を削って仕掛けたトラップであることに。
「――――――――え……?」
唐突に、いっそ美しくすら見える奪命の斬撃を放ち続けていた少女の体のバランスが、崩れる。体重移動が正確に成されなかったのだ。それは本当に、本当に、僅かな時間。だが、蟻の穿った一穴は時に難攻不落の城壁さえ崩す呼び水となる。ここでいう一穴とは即ち、ユウの脇腹から大量に流れ出た血液が形成する血だまり。少しずつ後退することによってその場所まで誘導された少女は、その新鮮な血液が持つ独特な粘性に足を取られた。そして、難攻不落の城壁を突き崩すべく、空いた穴へと呼び寄せられるのは――――飢えた鬼以外にありえない。
「くッ――――!」
危険を感じた少女は無意識の内に防御体勢に入る。
――――敷かれた布石は、ここでも十全な役目を果たしていた。
ユウの右腕はすでに使い物にならず、さらにその巻き添えを被って右足による攻撃さえも阻害されていた。つまりユウの右半身は防御の壁が薄いだけでなく、実質的にそこから攻撃が放たれることはなくなっていたのである。
少女が右半身を執拗に狙っていた理由は単純な攻め易さ以外に反撃される可能性が低いという要因もあっただろう。ならば必然としてそこから放たれる攻撃への警戒心は薄くなる。それが無意識下で行われた咄嗟の防御とあれば尚更だ。
――――さあ、お膳立てはここまでだ。勝利の光へと続く活路、その最後の一歩は自分自身で切り開く。
「らッ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
咆哮し、その場で一回転することで遠心力を威力の増幅器として、右足による渾身の回し蹴りをガラ空き同然な少女の左半身へと叩き込んだ――――
ここに至るまでがやたらと長かったですがやっとこさバトルシーンです。サブタイが詐欺ではない証明ですね。
「第一闘争」におけるハイライトなシーンですのでお楽しみ頂ければ幸いです。