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兄ちゃん

作者: 田村丸

 


1、ケンちゃんユウちゃん


 浜田家一番の暴れん坊だったケンジは現在10歳、通称ケンちゃん。暴れん坊だったのは今から5年前のこと、今では7歳のユウジ(ユウちゃん)にその称号を与えた。

 ユウちゃんの暴れっぷりは5年前から発揮されていた。5歳のケンちゃんは2歳のユウちゃんの様々なものに興味があれば触ったり、時には嚙みついたりと、その行動をみて暴れん坊の称号は、ユウちゃんにぴったりだと思った。




2、ユウちゃん

 

 「ケンちゃん!」

 ユウちゃんは2歳になり少しずつ喋れるようになり、いつも元気な声でケンちゃんを呼ぶ。そして去年よりも何倍もパワーがある。

 この日は、父親の休日ということもあって車で15分の場所にある運動公園に遊びに来た。

 ユウちゃんが投げたボールをケンちゃんがキャッチし、優しくユウちゃんに返したり、公園内を散歩した。お昼には母親の作ったお弁当をふかふかの芝生の上に広げたビニールシートの上で食べた。

 暖かい太陽の日を浴び心地の良い風に当たっていると、遊び疲れたユウちゃんが寝てしまった。それを皆で見ているうちに皆も一緒になってお昼寝タイムに突入した。


 ケンちゃんが目を覚ますと、ユウちゃんの姿がなかった。すぐに両親を起こし、ユウちゃんを探した。父親と一緒に探しに出たケンちゃんは、少し離れた場所でユウちゃんの姿を見つけた。

 ユウちゃんは公園内の歩道を歩いていて、反対側の歩道に落ちてあるサッカーボールを取りに行こうと道路を渡ろうとしている。

 その時、数十メートル先から車が来ていた。運転手が気付いていないのか車の速度が落ちていない。

 ケンちゃんは、猛ダッシュでユウちゃんのところへ走っていく。

 車がユウちゃんの存在に気付いたのか、急ブレーキを掛けた。

 ユウちゃんが飛ばされた。

 ケンちゃんがユウちゃんを車の当たらない場所へ飛ばしたのだ。

 ユウちゃんは泣いている。ユウちゃんは車に轢かれて倒れているケンちゃんを見て泣いていた。

 すぐに病院に運ばれたケンちゃんは、かすり傷程度で奇跡的に助かった。その理由は、車が急ブレーキを掛けていたからだ。

 少しばかり入院したが、回復し自宅へ戻った。

 「ケンちゃん!!うわぁぁぁぁ!」

 ユウちゃんが帰ってきたケンちゃんをみて泣いている。小さいながら自分のせいだと感じているのかもしれない。ケンちゃんはユウちゃんが泣き止むまでずっとそばにいた。

 それからはいつも通りの騒がしくも楽しい日常が戻ってきた。

 

 「あれ、ケンちゃん?」

 母親が家の中でたまに躓くケンちゃんの異変に気付いた、それは退院して1か月後のことだった。


 次の日に病院へ連れていき、診察後に母親が医者に呼ばれた。

 「浜田さん、恐らくこの間の事故が原因だと思われるのですが、視力が低下しています。今はまだ低下している状態ですが、このままだと失明するかもしれません。」

 

 2週間後、ケンちゃんは視力を失った。




3、ケンちゃん


 ユウちゃんは野球少年団に入団したりと相変わらず元気な小学2年生になった。ケンちゃんは目が見えなくなったが、外に出る時も必ずユウちゃんが隣でサポートしてくれていた。いつの間にかユウちゃんはケンちゃんの目になっていた。

 ユウちゃんは自宅の外壁に投げて跳ね返ってきたボールをキャッチする練習をいつも楽しそうにしていた。

 ケンちゃんも一緒に外にいた。どうやら、壁に当たる音を聞くのが好きなようだ。


 この日は父親も一緒に野球をしてくれていた。

 ユウちゃんが投げたボールが壁の角に当たりユウちゃんの後ろへと飛んで行った。ユウちゃんは楽しそうに走って取りに行った。



 「ワンッ!!ワンワン!!ワンッ!!!」

 その声が聞こえて立ち止まり振り返ったユウちゃん。そしてその声に気付かず進んでいたかもしれない場所をタクシーが危ないだろと言っているかのようにクラクションを鳴らしながら通過した。

 父親がユウちゃんに駆け寄る。ケンちゃんも匂いを頼りに駆け寄る。

 

 ユウちゃんは泣いた。

 

 「ユウちゃん!危ないだろ!」

 ケンちゃんとユウちゃんは父親に強く抱きしめられた。その大きな体は震えていた。

 


 「ケンちゃん、ありがとうな。ケンちゃんはペットなんかじゃないな。ペットかもしれないけど、ユウちゃんの立派なお兄ちゃんだな。」

 ユウちゃんも涙を拭いケンちゃんを強く抱きしめた。

 「ケンちゃんは、僕のヒーローだ!」

 


  


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