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天体観望

七夕祭りの余韻が残る中、僕達は公園を後にした。

今は商店街を抜け、横断歩道をいくつか渡り、針葉樹がある歩道から病院の敷地内に入ったところだ。


「やっぱり、夜見ると全然違うな」

昼間とは違い怪しげな雰囲気の病院を見上げながら呟く。

「そうだね、でも屋上凄く綺麗なんだよ」

それは楽しみだ。

「じゃあ、入るか」

消灯され、最低限の明かりしか無い状態で病院を進む。


暗い階段を2人で上がる。

お互いに無言だった。

階下の電気はここまでは届いておらず、手すりを持っていないと不安になるほどに暗い。

なんとか屋上の扉まで辿りついた。

「まって、今開けるから・・・」

柊が扉に近づき、鍵を外す。

その顔はニヤニヤとイタズラをする子供のような表情をしている。

扉を開け、柊が先に外に出た。

「ようこそ・・・」柊はこちらを向き、冗談めかしたように笑っている。

僕も扉をくぐる。


「・・・・・。」

何も言えなかった。本当に。見渡す限りの満天の星空。周囲にこの病院よりも高い建物が無いため視界を邪魔する物が何も無く、明かりも少ない。その分、空に広がる星の輝きが増している。昔、公園から眺めた夜空とは比べものにならない。

「凄いな・・・」

思ったままの言葉だ。それ以外にこの空を表現出来る言葉を僕は見つけれない。

柊は僕の反応に満足したようだ。

「ね、凄いでしょ、私も初めて見たとき、そんな感じだったよ」

さ、始めようと柊が歩き出す。

「どこに置いてあるんだ?」

暗いが屋上全体が全く見えないわけではない。けれど望遠鏡は見当たらない。

「あっちだよ」フェンスの向こうを指差す。

どうやって運んだんだ?そう高くはないフェンスだが、それでも女の子が1人で望遠鏡を持って越えることができるほど低くもない。

僕の思った事を見越したように柊は納得のできる答えを返してくれた。

「院長に、フェンスの鍵も貸してもらったの」

フェンスの鍵を開け、貯水槽の近くまで歩く。

そこに大きな天体望遠鏡があった。柊が近づく。

「ちょっと待ってね、調節するから」

やる気に満ち溢れた横顔から、星が大好きということがひしひしと伝わってくる

「天体観測、好きなんだな」

柊は望遠鏡の調整を止め、少し悩む。

「今は天体観望って言った方が正しいかな、前は観測してたんだけど・・・」

「どう違うんだっけ?」

「天体観測はその名の通り観測したり研究したり、天体観望はただ娯楽のために星を見ることかな」

柊は楽しそうに話す。また、調整し始めた。

僕はコンクリートの地べたに座りどこかで鳴いている鈴虫の音を聞きながら待つ。


「お待たせ」

柊が顔を上げ僕に手招きする。

近寄り、言われるがままに望遠鏡を覗き込む。

それは僕でもわかる惑星だった。

「土星か・・・」

漆黒の中にぼんやりと浮かぶ球とそれを囲む巨大な環。そんな特徴的な形が目に飛び込んだ。

「正解、どう?」

「綺麗だ」

柊は微笑む。


それから僕は柊に色々な星を見せてもらった。

月や火星、木星などの誰でも知っているような惑星から名前すら聞いたことがない星まで。

たくさんの星を見た。けれど決して同じ星は無かった。

ああ、これはハマるのもわかるかもしれない。

このとき確かに、僕は天体の虜になっていた。


夢中になって見ていた。どれくらいの時間が経っただろう。携帯の電源をつける。暗闇に慣れた目に眩しかったが、時間は確認出来た。12時10分。病院に着いたのが9時前だったのでかれこれ3時間は星を見ていたことになる。


「今見える大きな星は、大体制覇したかな・・・」

夜空に架かる天の川を眺めながら2人で並んで横になっている。

「こんなに面白いとは思わなかった」

「お、嬉しいこと言ってくれるね」

夢中になってたもんねと心底嬉しそうに声を上げる。

僕は目を閉じ、疲れを癒やす。


しばらくそうしていたあと、一応、あの病棟を見てみようと思いついた。

僕は起き上がり、以前飛び降りようとした位置まで行ってみる。もしかしたら、と。

「・・・っ」

病室に電気が点いていた。あの時視線を感じた病室と同じ病室だ。

後ろから柊が声をかけてくる。

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

今更ではあるが、柊はとっくに出歩いたらいけない時間だ。

今から病棟のことを言い出すのも憚られる。

「そろそろ、帰ろうか」

僕は柊の方に振り返りながら、提案する。

「そうだね、もう結構遅いしね」


望遠鏡を入れた袋を背中に背負い、病院の外に出た。

当然だが、道は暗く、電灯も1つ1つの距離が離れていて頼りない。

柊は少し先を歩いている。

「今日はありがとな、昨日知り合ったばかりなのに」

振り向いた柊は、一瞬キョトンとした後、

「あ〜、話したでしょ?、私も自殺しようとしたことがあるの、だから、親近感湧いちゃって・・・」

照れたように顔を赤くしながら言った。

「私がしたくてしたことだから気にしないで」

「ああ、でも、今度お礼をさせてくれ、柊のおかげで立ち直れたんだからさ」

「うん、じゃあ楽しみにしてるよ」


それからは無言で夜道を歩き続けた。


道路沿いのアパートのいくつかある扉のうちの1つの前で柊が立ち止まる。

「ここが私の住んでる部屋だよ」

特に特徴は無いが、僕の住んでるアパートより、少し大きめだ。

周囲にコンビニもあったので家賃は少し高めだろう。

「じゃあ、これ」

背負っていた袋を渡す。

「送ってくれてありがとね、何なら上がってく?」

柊は笑っている。

「今日は止めとくよ、おやすみ」

「おやすみ〜」

柊が玄関を閉めたのを確認してから、僕はまた歩きだした。


家に帰り、シャワーだけ浴びてすぐに布団に入った。

屋上から見た病室が気になる。

雨の中感じた視線は確かにさっき電気が点いていた病室からだった。誰かいたのだろうか?

考え事をしながら横になっていると、すぐに睡魔が襲ってきた。

明日、もう一度病棟を調べてみよう。

そう決めたのと眠りに落ちたのはほぼ同時だった。


大変申し訳ありませんm(_ _)m

作品の続きを書き始めたのですが、大きな矛盾があったため、この話を大幅に変更させていただきました。

もうこのようなことが無いよう努めさせていただきます。

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