願い事
4話目です。
とりあえず、今回は七夕祭りです。
七夕って結構雨とか曇りの確率高いですよねー。
結構好きな行事なのに雨とか降ってたら萎えるんですよ・・・(´Д` )。
今年はどうかな〜。
では、本編お楽しみいただけたら幸いです。
携帯が鳴った。見ると柊からだ。
向こうから電話がかかってくるとは思ってなかったため少し驚きながら、布団から起き上がり電話に出た。
「もしもし、日向です。」
「こんにちわ、わかる?私だよ」
「ああ、わかるよ。・・・・柊から電話してくるとは思わなかった、何か用事?」
わずかな沈黙。何かを考えているような間だった。
「あのさ、今日お祭りあるよね、それ一緒に行かない?」
「え・・・・?」
…
約束した時間は午後5時だ。昨日別れた横断歩道の近くにあった自販機の隣にあるベンチで待ち合わせた。出店を回ったあとに天体観測をすると言っていた。
幸い、今日は晴れている。たいして高い建物が無いこの町からなら、星もよく見えるだろう。
けれど、椎奈との約束を破っているかのようで、あまり気が進まない。
「僕は何をやっているのだろう・・・」
椎奈は何で七夕祭りに行きたがったのだろうか?
最後の日、交差点で椎奈の願い事を聞いておくんだったな・・・。
気づくと椎奈のことを考えている。やはり全てを吹っ切るのはまだ難しいらしい。
…
昼食をインスタントラーメンで済ました。約束の時間までの間、時間を潰すために散歩に行くことにして家を出る。あてもなく歩き続けたと思っていたが、見覚えのある針葉樹がある道路が見えた、また病院に来てしまったようだ。もはや僕の唯一の日課となっている。
屋上の方を見上げる。
「いるかな・・・」
受け付けを素通りし、しばらく階段を上がる。しかし屋上の扉は鍵が掛かっていた。
「約束の時間まで3時間程度しか無いし、そりゃ家だよな・・・」
何を期待していたんだろう。
柊がここにいたとして、どうするつもりだったのだろう。
帰るか・・・。
踵を返す。来た道を戻り、階段を降りようとした時、ふと思い出した。
病室からこちらを見ていたあの視線を。
探してどうするという気持ちと、単純な興味。しばらく考えて、後者が勝った。
「どこの病室だったかな・・・」
ここは7階の廊下だ。周囲を見回し、壁にかかっている病院の案内図を発見した。近寄り、大体の位置を想像しながら場所を照らし合わせる。しかし、何故だろうか見当たらない。
「あれ?」
屋上の、僕が自殺しようとした位置から中庭を挟んで向かい側の病室だ。おそらく、最上階に近い病室だった。そこにはこの病棟とひとつながりになっているもう1つの病棟があるのは確実なのだ。だが、案内図には何も書かれていない。
「・・・・・」
とりあえず、大まかな方向はわかっている、自分の足で行ってみることにした。
…
結論から言おう。
院内から、その病室があるはずの病棟に行く廊下は、全て閉鎖されていた。
外から回ってみても、入り口らしき扉には全て鍵が掛かっていた。
「使われてないのか?、気のせいって訳じゃなかったと思うんだけどな・・・」
深く考えていくうちに記憶が曖昧になってくる。
やはり気のせいだったのではないか?
病院の中庭からその病棟を見上げながら思考する。
雨の中、屋上から眺めた景色、そして、勢いよく閉められたように見えたカーテン。その時僕は確かに誰かの視線を感じていた。
「・・・・・・・」
誰かがいた、確実に。
けれど、そろそろ約束の時間だ。行くか、待たせるわけにもいかない。
また、機会があれば調べてみよう。
そもそも柊もよく昨日知り合った男とお祭りなんかに行けるよな・・・。
1人、苦笑しつつ僕は中庭を後にした。
…
「なあー、あいつ、ここのこと感づいてんじゃねーの?」
その男は病室の窓際からカーテンを少し開け、下を眺めながら、いつも通りの酷く人をバカにしたような口調で問いかけてくる。
私はベッドに横になったまま、無言を貫く。
「はっ、無視かよ、まあいいけどな」
男はカーテンを閉め、電気も点いていない暗い病室の中を慣れた足取りで扉まで向かう。
「じゃーな、お姫さん、また来るよ、あと気をつけろよー、誰かにお前のことがバレたら・・・」
扉を開き、その男は一度私の方へ振り返る。
廊下の窓から射す光によって照らされた金髪をいじり、意地の悪い笑みを浮かべながらこう言った。
「そいつ、親父が消しちゃうかもよ?」
…
待ち合わせ場所まで、大した距離じゃない。時間には余裕を持って間に合った。ベンチに腰掛ける。
柊はまだ来ていないらしい。
携帯をいじりながら待つ。
約束の時間ちょうどに柊は来た。
彼女らしい、落ち着いた色のワンピースを着ていた。
「ごめん、待った?」
こういう時のお約束を言ってくる。
「大丈夫、今来たところだよ」
僕もあえてその会話を再現した。
どちらともなく笑いあう。
僕は、今、1週間ぶりに笑ったことに気づいた。
…
「ちょっと、説得に時間かかっちゃってね〜」
「説得?」
僕達は出店が並ぶ商店街をぶらぶら歩きながら会話する。
「院長さんの説得、夜に病院の屋上使わせてって、あの院長、どうせ夜勤なのにかなり渋ってさ〜」
そりゃそうだろう、とは言わないでおく。
それよりも・・・。
「天体観測、病院でやるのか?」
「そうだよ、あ、怖いの?」
柊がニヤニヤと聞いてくる。
「違うよ、ちょうど気になることがあったから」
僕は昼間あったことを話した。
「へ〜、案内図に載ってない病棟ね・・・、ていうか、日向君も病院いたんだ」
柊がいるかもしれないと一瞬でも思ってしまったことは恥ずかしいので言わないでおく。
「ああ、病院内からは全部の廊下が閉鎖されてた、外からも行けなかったよ」
「私が入院してる時はそんなとこなかった気がするけどな〜」
僕は、思った疑問を口にした。
「入院してたのか?」
柊はしまったという顔をしてから。
「あとで、話すよ」
そう言った。
聞いてほしいことだから・・・と。
「けど、今はお祭り楽しもうよ、あっちの美味しそうだよ」
柊は笑顔で屋台を物色し始めた。僕はそれについていく。
公園に着くころには日が暮れ始めていた。
…
夕暮れの中、笹が揺れている。
僕らは短冊を受け取り、内容を考えながら公園のベンチに並んで座っていた。
「日向君は何を書くの?」
「全く思いつかない」
・・・思いつくのは、椎奈のための願いばかりだ。
「そっか、私はあるよ願いごと、やりたいこと沢山見つけたから」
左手に着けている腕時計を撫でながら、柊は決心したとばかりに僕を見る
「私の話、聞いてくれる?」
「ああ、僕でいいなら」
誰かに聞いてもらうだけで、気分が楽になることがある、そう教えてくれたのは柊なんだから。僕は彼女の言葉に耳を傾けた。
…
柊は、自分の過去について僕に話した。
左手の腕時計の意味も話してくれた。
柊の過去を知った僕は、彼女が何故僕のことを過剰に心配してくれるかがわかった気がした。
「ごめんね、本当はこの話を聞いて欲しくて呼んだんだ。君に慰めて欲しかったから・・・」
申し訳なさそうに頭をさげる。
「君は泣かないんだな・・・」
強いな・・・柊は・・・。
「うん、だって私はもう解放されたんだから」
もう縛られないんだから。と宣言のように呟く。
僕は自然と、柊の頭を撫でていた。今まで、よく1人で頑張ったなと・・・。柊は目を細めてくすぐったそうにしている。
強いことは、悲しみを感じないわけじゃない。ただ耐えることが出来るだけだ。けれど、耐えることが出来れば、前を向ける。立ち止まらず歩んで行ける。僕や柊は一度、投げ出しかけたけれど、その後、前を向き進み続けている柊と過去を振り返ってばかりの僕ではやはり、違うのだろう。僕は柊のようになりたい、全てを受け止めて、自分のやりたいことをする。そんな少女を僕は尊敬した。
暗くなった公園を、やぐらに付けられた提灯の灯りがぼんやりと照らしている。
空には星が見え始めていた。
僕達は、合計3枚の短冊を笹に結びつける。
僕の分と柊の分、一枚は白紙・・・椎奈の分。今日を境に僕は過去を振り返り、前を向こうとしない自分を変える。
けれど今夜だけは、椎奈が生きていたら、そんな幻想にすがることを許して欲しい・・・。
もし夢だったら、もし来世があるなら、そんな突拍子もないことでも、願うのは自由じゃないだろうか。
僕が短冊に書いた願い、それは・・・。
はい、七夕祭りでしたー。
もっと屋台を回る描写を増やそうとも思ったんですけど、これからある夏祭りとかとかぶりそうだったんでやめました〜。
彰が短冊に書いた願い事は何だったんでしょうね。そこは読者の皆様の想像にお任せします。
さて、お祭りは終わっても天体観測というイベントが残っております。それが次回のメインになりそうですね。
今回新しく登場した2人、ベッドで寝てる子は前々から言っていた新キャラです。
男の方は、いつの間にやら人物相関図に紛れていたこっちとしても謎の人物(笑)。
ストーリーを組んでいくと、結構いい役してくれたのでそのまま採用となりました。
それでは、いつも通り登場人物の補足説明をしたいと思います。
日向椎奈
彰の妹。15歳。中学3年生。
笑顔は柊とかぶるところがあるらしいです(彰談)
ストーリーに絡めていきたいのに、亡くなっているため中々絡めることが出来ない問題児←誰のせいだ(笑)
明るい性格ですが、彰が自分の為に学校をやめ、働き続けていることをあまり良く思っていません。彰が帰りが遅くなると言った時に声のトーンが下がったのはそのためです。決して病気に気づいていたわけではないです。
彰が前を向くことを決意したため更に空気になっていく予定ですね・・・。不憫(笑)
まだ出番はある予定なので、これからに期待してください。
それではまた次話でお会いしましょうm(_ _)m