柊
「しばらくは明るめといったな、あれは嘘だ・・・。」
はい、すいません今回も結構シリアスですm(_ _)m
というか、登場人物のほとんどに暗い過去があるんで、話をどう持っていっても、結果的に暗い雰囲気になってしまいます。
後書きには彰の補足説明をしたかったので、前書きを使わせてもらいました。
では、本編楽しんでくだされば幸いです〜。
上手く話せた自信は無い。時系列も滅茶苦茶だっただろう。それでも僕は椎奈との思い出を、椎奈が死んだ日のことを話した。
柊は最後まで黙って聞いてくれた。
「これが、僕の死のうとした理由だ・・・」
僕は椎奈に支えられていた。でも、そうと気づくのが遅すぎたんだ。もう、ありがとうと感謝の言葉を伝えることも出来ない。
ふいに、頬にハンカチを押し当てられる。
「え・・・」
戸惑う僕に柊は、
「話してくれて、ありがとう。ごめんね無理させて・・・」
言われて、気づいた。
ぽろぽろと頬に伝う涙に。ハンカチを受け取り、涙を拭く。
けれど・・・止まらない。
「泣いて、いいんだよ、君は今まで、頑張ってきたんだもんね・・・」
柊は優しく微笑む。彼女もまた、その目に涙を溜めていた。彼女は僕の話を聞いて何を思ったのだろうか。
僕は小さく嗚咽を漏らす。
「っ、・・・」
あの日以来、我慢し続けていた感情が溢れ出す。
枯れ果てたと思っていた涙が、止めどなく流れ落ち続けた。
...
雨が弱まってきた。
「そろそろ行こうか・・・」
柊が立ち上がった。
「ああ・・・」
僕も立ち、フェンスに向かって歩いていく柊を追いかけ並ぶ。
「悪い、みっともないとこ見せたな・・・」
少し恥ずかしさがある、けれど、溜め込んでいたものを吐き出せた分、気分はだいぶマシになっていた。
柊が先にフェンスを越えた、僕も金網に足を掛ける。そう高く無いフェンスだ、特別苦労はしない。
僕が着地したのを見てから、柊は答える。
「泣きたい時は泣いた方がいいよ」
「そうかもな・・・」
僕達は扉に向かって歩きだす。
...
階段を降り、病院の外に立た。道路の脇に針葉樹が等間隔に植えてある。雨はほとんど上がっていて、雲の隙間から太陽が覗いている。
柊の住んでいるアパートは、僕のアパートとは反対方向にあるらしく、商店街に入る直前の横断歩道で別れることになった。信号機はちょうど青だったが、柊は足を止め。
「君、携帯持ってる?」
少し、顔を赤らめて柊は聞いてくる。
持ってるよ、と、僕は携帯電話を取り出す。
「ちょっと貸して」
柊は受け取り、自分の携帯と僕の携帯をを交互にいじりだす。
「はい、登録したよ、何かあったら電話してよ」
「・・・・」
この子は、本当に、どうしてここまで世話を焼いてくれるのだろうか。
今さっき、話せる相手がいるだけでどれだけ楽になるのかを体感したばかりだ。
「ありがとう」
素直に、礼を言った。
柊は微笑む。
「じゃあ、またね」
手を振って、歩いていく。
僕はしばらく、彼女が歩いて行った道を見続けていた。
…
家に着いた。鍵を開け、玄関に入る。
「・・・ただいま」
返事は無い。当然だ。
僕は、椎奈が死んでから、家に帰ることが嫌いになった。2人でいた時よりも広い室内が、椎奈はもういないんだと語りかけてくるから。
今日は久しぶりに人と話した後だ。部屋が、普段よりも静かに感じる。
風呂はシャワーで済ませ、時刻はまだ午後8時過ぎだったが、この静寂にはどうしても耐えられない。
すぐに布団を敷いた。
電気を消し、横になる。
明日は、7月7日。椎奈と行く予定だったお祭りがある日だ。
約束は、もう二度と果たすことが出来ないのだけれど。
…
目が覚めた。外は普段と違う騒がしさがある。
枕の隣に置いてある時計を見る。午前10時20分。
カーテンと窓を開け、外を見る。住宅街は笹や吹き流しなどで飾りつけられていた。商店街の方から賑やかな声が聞こえてくる。昨日の土砂降りでも中止にはなっていないらしい。窓を閉め、布団へ戻り携帯を見る。
数件、メールが届いていた。同僚からだ。
仕事は、あれから行っていない。まともに仕事が出来る気がしなかったからだ。お金は椎奈のために貯めておいたものがある、両親が置いていったお金もまだ余裕がある。
メールを確認する、どれも僕を心配する内容だ。特別仲が良かったやつにだけ返信し、また横になる。
柊から着信があるまでは、無気力にぼーっと天井を眺めながら、昨日のことを考えていた。
…
午前9時30分、病院の屋上に柊はいた。
自分としても、結構大胆なことをしたと思う。
自覚できるほど頬が赤い。
「やっぱり、引かれたかな・・・」
誰もいない屋上の貯水槽の陰に横になり、青い空を漂う大きな雲を眺めながらそんなことを呟いた。
今日も、学校をサボり病院の屋上に来ていた。「今日も」である。最近はほとんど学校に行っていない。
「土曜日なのに学校があるとか、おかしいでしょ・・・」
まあ、土曜じゃなくてもサボるんだけど、と頭の中で付け加える。
勉強は嫌いな訳ではない。もしかすると勉強自体は好きですらあったかもしれない。この辺りでは1番偏差値の高い中高一貫型の進学校に通い、その中で成績は常にトップだった。中学生の頃からすべての定期テストで1位を取り続けた。友達や教師は褒めてくれたし、親も、私たちの子供として生まれてきてくれてありがとうと涙ながらに言ってくれた。
私も自分が認められたようで誇らしかったのを覚えている。
けれど、徐々に周囲の私を見る目は変わっていった。
クラスメイトの羨望の目は嫉妬に、親や教師の期待は強制的なものに。
『お前がいなければ、俺が1位だったのに・・・』『もう、あなたと比べられるの嫌なんだよ』そう、仲の良いと思っていた子たちに言われた。
1人、また1人と私を避けるようになった。
家では、高校に上がってからは常に勉強をさせられた。
『あなたはもっと勉強して、良い大学に行って、私たちに楽をさせて頂戴ね』
当然のことのようにママは言う。
友達と遊ぶことも、子供の頃から好きだった天体観測や、空を眺めることも、全て制限された。逆らうことすら馬鹿らしくなるくらいの徹底ぶりだった。毎日が苦痛でしかなかった。
もう、何もかもが嫌になった。もう、誰も褒めてくれない、誰もありがとうと言ってくれない、誰も私の話を聞こうとしない・・・。
夜、パパとママが寝た後、お風呂場で自らの手首にカミソリを押し当て、引き裂いた。血がじわじわと広がっていく。湯船に溜めてあった水が、床が、赤く染まる。自分の中にこんなにも沢山の血があることに驚いた。薄らぐ意識の中に見た、真っ赤な光景は今も忘れることが出来ない・・・。
…
緊急搬送されたこの病院の、ベッドの上で私は目を覚ました。あの後物音で起きていた両親が救急車を呼んだらしい。
左手首を動かそうとすると狂ったように痛い、「あの光景」は夢なんかじゃない、現実だと悟った。
かなり深く切っていたらしく、メンタルセラピーも兼ねて入院にすることになった。
最初はよくお見舞いに来ていた両親も徐々に来なくなった。
入院している間、時間を見つけてはよく屋上に上がり、寝転がっていた。誰にも邪魔されず、縛られない場所。ずっと空を眺めていた。
退院してからも、よくここに来るようになる。
私が、初めて自由になれた場所だから。
…
私はそれから、両親と距離を取るために、私が住むためのアパートを借りてもらい、1人で生活し始めた。学校にも最低限しか行かなくなった。成績は維持し続けたから、最初はうるさかった教師も文句を言わなくなっていった。
サボった日は大体、病院の屋上に行った。医者や看護師とも顔見知りになり、今や、昼の間屋上の鍵を預けてくれるようにまでなったのだ。
どうして、私はあそこまで苦しんでいたのだろう。
今は、空を眺めるだけで幸せなのに・・・。
…
目を開ける。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。時間を確認するために、左手首の傷を隠す役割も担っている腕時計を見た。針は11時を少し過ぎている。
「結構寝てたな〜・・・」
何か、夢を見ていた気がする。あまりいい夢じゃなかった。けれど思い出そうとすればするほど靄がかかる。
早々に諦めて、昨日のことを考えることにした。
彼、日向君はここで自殺しようとした。
私はとっさに止めたんだ。
それから、雨が降ってきたから雨宿りして、彼の話を聞いた。その後・・・。
携帯を、新しい番号が登録されてあるのを確認して、頬を赤らめる。
「・・・うぅ」
恥ずかしい、あの時は勢いで電話番号を交換したけど、よく考えれば男の人の連絡先を登録したのは初めてだった。
日向君の自殺を止め、馬乗りになり彼の目を見た瞬間、彼のことが無性に気になったのだ。
私と同じ目をしていたから。死を選ぼうとした目。悲しい目。日向君の話を聞いてなぜそんな目をしていたのか納得した。純粋に慰めてあげたかった。そして、今度は私が彼に慰めてもらいたかった。心に傷を負った者同士なら分かり合える気がしたのだ。
「電話、しちゃおうかな・・・」
コール画面の手前まで携帯を操作する。
そういえば、今日は七夕祭りがあるらしい。
日向君が妹さんと一緒に行く予定だったお祭りが。
私は、少し考えたあと、コールボタンを押した。
はい、どうだったでしょうか?
今回は柊の過去回でした。
次回はお祭り、次次回あたりには新キャラを出す予定です。・・・たぶん、きっと。
それでは本編では書ききれないキャラの補足説明をしたいと思います。
日向彰
主人公です。19歳、未成年ですよ〜。
後、読みは「ひゅうが」じゃないですよ〜。
両親は共に学者兼研究者をしてました。彰が12歳ぐらいの頃兄妹を叔父さん(彰の母の弟)に預けて海外へ。
17歳になった彰は、両親のその後を知っているであろう叔父さんを問い詰めますが、教えてもらえず、そのまま喧嘩に。その勢いで家を飛び出しちゃいます。その後は本編の通り。兄妹にとって、両親の話題はかなり覚悟をして聞いたのでしょうが、お叔父さんはそんなことを御構い無しに一蹴。そりゃ出て行きますよね〜。家出とか憧れる年齢ですしね。
生きる目的を失った彰は柊と出会ってからどんな風に変わっていくのか、これからの話に期待です。(自分でも大まかにしか決めていないんで)
あ、叔父さんも後々登場するのでどうかお楽しみに〜(笑)
余談
前回の話の貯水槽の建物の陰って表現・・・、未だにいい表現が見つからない・・・。
わかりにくかったらごめんなさいm(_ _)m
屋上のフェンスの向こうに、小さめの建物があって、その上に貯水槽が設置されてあるイメージです。
柊と彰が雨宿りしたのはその建物の陰です・・・あれ?もっと分かりにくくなってるかな?
まあ、極論、学校などの中庭にあるコンクリートのトイレみたいなの想像してくだされば。
そんな感じの建物です(笑)