不機嫌少女
目が覚める、辺りを見回すともう明るい。
眠い目をこすりながらも身体を起こすとおなかの辺りに違和感を感じる、違和感のする場所へ手を伸ばすと何かに触れたので、そのなにかをつまんで引っ張り出すと、ナピィが寝ぼけ眼でぶら下がっていた。
とりあえずナピィはベットに放り、自分はベットから出ることにした。
立ち上がり身体を伸ばす、少し足が重いのはきっと昨日歩きすぎたからだろう。
「ふわぁ~、おはよう」
ベットに放り投げたナピィがふらふらとこちらへ飛んできた、そして頭の上の定位置へひっつく。
「すぅー」
そして頭の上で寝息を立て始める、どうやら二度寝のようだ。
そんなナピィはほっといて自分は部屋から出ることにする。
部屋から出ると回りは静まり返っており、誰もいなさそうだ。
タクルはどこかへ出かけているのだろうか?
朝の散歩ついでにタクルを探しに村の中を出歩いてみることにする。
村にはちらほら人が歩いておりすれ違うたびに挨拶をしてくれる、それに対して自分も挨拶を返していく。
遠くを見ると畑で農作業らしきことをしてる人とたちもおり、人数は多くはないもののそれなりに活気のある村だと感じさせられる。
ある程度歩いていると開けた場所にでた、そこには藁でつくられた人型の物がいくつか設置されている。
なんだろうと思い近寄りながらさらによく見ていると、人影がその場所にやってきた。
あの人影はタクルではないだろうか? 遠めではっきりは見えないがそうだろう。
やはり家にはおらずでかけていたようだ。
その場所に近寄りながら何をするのかと見ていれば、タクルは腰につけていた剣を抜き構える。
そして一拍おいたと思うと、次の瞬間にはすごいスピードでタクルが藁人形へと駆け出していた、タクルが藁人形に接近したかと思うと、遠くからではまったく目で捉えられないほどすばやい剣技で藁人形を斬りつけていった。
剣の刃が朝日を反射し閃く、タクルのすばやい動きもあいまって、それはとても綺麗に見えた。
あまりの出来事に自分は足を止めて見入ってしまう、一方ナピィは相変わらず二度寝中のご様子。
タクル自身は昨日、自分はだめだめだといっていたが、剣の腕もかなりのものではないか。
自分がそんなことを考えながら立ち止まっていると、タクルはこちらのほうに気づいたようで手を振っくる。
見入って止めていた足を再び動かしタクルの元へと向かう。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「ところで何をしていたんだ?」
「あ、はい。ちょっと朝の鍛錬を」
「毎朝やっているのか?」
「いえ、毎朝やってるわけではないですけど、結構やってます」
なるほどタクルは努力家でもあるようだ、ますますタクルの将来が楽しみになる。
「あ、そうだ。リンさんは冒険者でしたね、たいしたものありませんけどリンさんも一緒にやりますか?」
「あ、いや・・自分は・・・・」
そうだった、タクルには自分が冒険者だと伝えていたんだった。
実際のところは自分は冒険者ではなんでもない、一緒に鍛錬したところですぐにボロがでるだけだろう。
このままじゃまずいな、どうしたものか....。
自分がちょっと焦っていると、頭の上に乗っていたナピィがいつの間にか起きておりくすくすと笑っていた。
それとなく頭をかくようなそぶりで、頭の上にいるナピィにデコピンを入れておく。
タクルが俺の様子を不思議そうに見守っていると、後ろから声をかけられた。
「ちょっと、あなたたち」
その声に対して振り向くと、手に長い槍のようなものを持った少女がそこにいた。
タクルよりも少し背が高いので年上だろうか、その少女の顔は少し不機嫌そうな顔をしている。
「あ、おはようレイカさん」
その少女に向けてタクルが挨拶をした、どうやら少女の名前はレイカと呼ぶようだ。
だがしかし彼女はなぜ不機嫌そうなのだろう、自分は初対面のはずだしタクルがなにか不機嫌になるようなことをするとは思えないが....。
少女はタクルの挨拶を「フンッ」と返し、今度は自分のほうを睨んでくる。
「あなた・・この村の人間じゃないわね」
ズバリそのとおりだ、さすがにこの村のように人が少ないとほぼ全員顔みしりになるようで、それで自分がよそ者だとわかるのだろう。
「彼はリンさんていってね、冒険者なんだよ!」
自分よりも先にタクルが自分の紹介を始めた、冒険者というのは余計だったが。
タクルが冒険者と伝えるとレイカはこちらをジロジロとみてきた、そして一言。
「ふーん冒険者ね・・あなたあまり強くなさそうね」
余計なお世話である、まあ実際強くないのだから言い返せないのだが。
「なんだか感じの悪い人だね、彼女」
ナピィが自分の思ったレイカの印象を代弁してくれた、ナピィの声はほかの人には聞こえないので自分の心の声のようなものだ。
「あはは・・どうも、よろしく」
「別に私はよろしくするつもりはないわ、それよりも」
「は・・はぁ」
「場所を空けてくれないかしら、私も稽古したいんだけど」
どうやらレイカの持っている槍は彼女の武器で、彼女もタクル同様朝の鍛錬をしにきたというわけか。
なんだか少し上から目線で高圧的な態度が気になるところだが....
「あ、ごめんね。 今片付けるから」
そういうとタクルはせっせと後片付けを始めた、自分はというと事情を飲み込めず棒立ちである。
ナピィは頭の上で成り行きを見守っていた。
「ちょっと、あなたも手伝ってやりなさいよ」
「あ、ああ」
しかられてしまった、まあタクルの手伝いなら喜んでやろう。
しかし、このレイカという少女。タクルのことが嫌いなのか、嫌いではないのかどっちなのか。
気に入らないけどほっとけない、そんなかんじなのだろうか?
そんな馬鹿のことを考えながらタクルと一緒に後片付けをすませ、その場を後にする。
歩きながら残ったレイカのほうをちらりと見ると、彼女もなかなかいい動きをしているように見える....。
タクルのあの動きを見てからでは、残念ながら少し見劣りするようにも感じてしまった。
その後一度タクルの家へと戻ることになった、その道中暇だったのでさっき出会った少女、レイカのことを聞いてみることにする。
「なあ、タクル。さっきのレイカって子は・・・・」
「ごめんねリンさん、気を悪くしないでね。彼女はいつもあんな感じだから」
「そ・・そうなのか」
いつもあんな不機嫌顔でいるのか、それはそれで疲れそうだな。
「それでね、レイカさんはこの村で一番強いんだよ」
「え! そうなのか?」
正直、本音をいうとレイカよりもタクルのが強いように思える。
さっきの動きだけしかみておらず、実際に戦ったところをみていないのだが。
「うん、前に一度手合わせをしたんだけど・・負けちゃったよ」
タクルはそういうと恥ずかしそうに頭をかく。
タクルはレイカと戦ったことがあり、しかも負けていたのか、結構意外である。
タクルは優しいのであまり人と戦うことはしたがらないようなきがする、きっとレイカのほうが挑んできたのだろう。
「そうだったのか・・・・自分はタクルのほうが強いように思えるけど」
素直にタクルにそう伝えることにする。
「ははは、ありがとう」
タクルはお世辞として受け取ったのか、軽く笑い流す。
うーん、そう言われると二人が戦ってるところが見てみたくなる。
戦ったときの話を本人たちに聞いたところだが、あまりいい顔はされないかもしれないのでやめておこう。
そんな話をしながら歩いていると、村の外のほうから誰かが走ってくるのが見えた。
かなり急いでいる....というよりは焦っているように見える、何かあったのだろうか。
タクルもその人影に気づき、首をかしげている。