ゴリンとゴリとリン
ナピィと二人で森の中をある程度進んでいくと、正面に大きな大樹が見えてきた。
周りのほかの木よりも一回り大きく、上のほうを見上げれば赤い木の実のようなものがなっているのが見える。
「これはすごいな」
「でしょ、それであそこになっているのが食べると結構おいしいゴリンという実なの」
やはり上のほうなっているのが例の食べれる木の実のようだ、だがしかし、なっている位置が高すぎる。
木登りでどうにかなるレベルではない、到底手が届きそうにない。
「でも、あんな場所のをどうやって・・・・」
「私に任せといてください」
そういってナピィは高く飛び上がり木の実まで近寄っていく、そして赤く実ったゴリンをひとつ持ってきた。
「どうですか?」
そういってドヤ顔を決めるので、ナピィの頭を指で撫でてやる。
撫でられるのがいやなのか手で指を避けようとするが、その顔はにやけている。
どうやら嫌われてはいないようだ。
「ナイスだナピィ、ほめてつかわす」
「もう! ほめても何も出ませんよ」
そういってまた高く飛んで行き、ゴリンをとりにいく。
こうしてナピィのおかげでゴリンを合計三つ手に入れた、どうやらナピィは一個、自分は二個の配分のようだ。
そもそも妖精は食事をとるものだったのか、少し気になったので聞いてみることにする。
「なあナピィ、妖精は食事を取るものなのか?」
「そうですね、必ずしも食事が必要というわけではないですね」
「ただ私たち妖精も動き回ったり魔法をつかったりすると疲れます、それで食事を取ることで疲れをとるですよ」
「そういうものなのか」
「はい、そういうものなんです」
人間とおなじでエネルギーを摂取しているようなものなのか、ナピィの説明的に言えば自然エネルギーというものだろう。
「ずっと食事を取らないとどうなるんだ」
「そうですね・・・・具体的にいうとほっとくと死ぬというか消滅します」
「消滅!? なら食事はかならず必要なものだろう?」
「たしかに必要といえば必要です、でもそれが必ずしも食事である必要はないのです」
どういうことだろうか、必要なのに必要ではない?
「私たち妖精はエネルギーの塊のようなものです、たしかに食事でもエネルギーを補充できますが・・」
「食事以外にもそのエネルギーを補充する手段があるんだな」
「そのとおりです」
「なるほど、じゃあ死ぬのではなく消滅するというのは?」
「それは私たちはエネルギーの塊といったとおりだからです、存在するために必要なエネルギーがなくなれば存在を維持できずに消滅するというわけです」
「それは恐ろしいな」
死ぬだけならそこに死体が残る、だが消滅するということは何も残らないということだ。
自分が死んだという結果さえも残らない。
「意外にそうでもないですよ、それにそうそう消滅なんてするものではないですし」
「そうか、それを聞いて安心した」
ん? でもまてよ、身体がエネルギーの塊ということは怪我とかはしないのではないだろうか。
例えるなら水を刃物で切りつけても意味がないように、妖精の身体も傷つかないのではないか?
「それじゃあ、妖精は怪我とか病気はしないんだな」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「私たち妖精だって斬られれば痛いですし、病気は・・・・しませんけど」
ふむ、そういうものなのか。
「そんなことより、あなたのことで大事な話があるんです」
「自分のことで?」
なんだろう、正体不明なのはいまさらだし。
自分の正体について謎解きでもはじめるのだろうか。
「そうです、あなたの呼び名です!」
自分が考えていた事とはまったく違う斜め上の事だった、確かに自分の名前が思い出せないから呼ぶときに困るだろうけど....
「そんなに大事なことか?」
「大事なことです!」
「何かいい案はあります?」
いや、自分で自分の呼び名を決めるのはちょっと。
自分で決めてしまったらなんだかナルシストみたいでいやだ。
「特にはないかな」
「じゃあ私が決めてもいいですか?」
「ぜひ頼むよ」
「やった! それじゃあ今から考えるからちょっとまっててね」
そういってウンウンうなりだす、そんなに呼び名を決めたかったのか。
自分は特にすることもないのでナピィが思いつくまでボケーとしている。
そのままナピィのことを見ていると、彼女はさっきまで食べていたゴリンの実をじっと見ていた。
「よし、きまった!」
そういってナピィはうれしそうに顔をあげた、きっといい名前が思いついたのだろう。
その名前がまともな名前であることを祈りたい、というか頼むからまともの名前であってくれ。
「あなたの名前はゴリ!」
「却下!」
簡便してくれ....まじで、あれですか?ゴリンのみを見てゴリですか?
安直すぎるだろ、頼むからゴリだけはやめてくれ。
このままだとナピィからゴリと呼ばれ、それを聞いたほかの人たちは自分のことをゴリ君やゴリさんと呼んでくるのだろう。
想像するだけで恐ろしくなってくる、何が何でもこれだけは認めてはいけない!
「えー!いい名前だと思うのに」
「頼むから勘弁してくれ、いや・・簡便してください、お願いします」
「うーん、そうだなー。じゃあ、リンってのはどう?」
「いい名前だね、それがいい、それにしよう!」
即時に全力で肯定する。
リン....いい名前じゃないか、ゴリよりも何百倍もマシだ。
「それじゃ改めてリン、よりしくね」
「ああ、よろしくなナピィ」
「ところでナピィ」
「ん、何?」
「俺がいえたことではないけど、ナピィはこんな森の中で何をしていたんだい?」
自分は疑問に思っていたことを聞いてみる、さっきまでずっと自分のことばかりきかれていたので、少しくらいナピィのことを聞いてもいいだろう。
ナピィはこの森にでも住んでいるのだろうか?
「あーえっとね・・・・」
ナピィは少しいいずらそうに口篭る、何かまずいことを聞いてしまったのだろうか。
「実は私・・仲間とはぐれた、はぐれ妖精なんだよね」
「はぐれ妖精?」
「うん、一人でふらふらしてたらいつの間にかどこかわからないところにいたんだよ」
「それって迷子じゃ?」
なんだかナピィが近所の小さい子供のように思えてくる、遊んでいたら見知らぬ場所にいて帰り道がわからない子供、つまり迷子だ。
「違うよ、迷子じゃないもん!」
「ただちょっと散歩してただけだもん」
散歩していた帰り道がわからなくなる、それを人読んで「迷子」というのだが....。
ナピィ自身が迷子ではないというのだからそういうことにしておこう。
しかし、迷子か....ある意味自分と似たような状況なのかもしれない。
いく先もわからない、帰る場所への道もわからない。
そういう意味ではナピィと自分は似たもの同士だろう、ただ、自分の場合はその度合いがかなり高いのだが。
「そうだな・・俺たち似たもの同士だな」
「似たもの同士・・・・うん、そうかもね」
そういって二人で笑いあう。