妖精ナピィ
近寄ってくる光をよく見てみると次第に人型の姿に見えてきた、それにつれてみえていた光も薄くなっていく。
そして自分の目の前に来るころにはすっかり光は消えており、人型に見えていたものも完全に人の姿になっていた。
その姿は髪は長めで肌は白い、緑色の目に黄色の髪。
驚くことにその大きさは手のひらに乗るくらいの大きさなのだ。
念願の「人」?に出会えた、喜んでいいのだろうか。
喜んだところで腕の傷が痛くて笑えないのだが....本当に痛い!
自分が痛がって腕を押さえていると、うっすらと声が聞こえてきた。
「ど・・どうしよう」
確かに聞こえた、聞き間違いではない。
目の前の妖精のような人の声だろう、自分の腕の傷を見ておろおろしているようだ。
「あのー・・・・」
「っひゃい!」
声をかけると驚いたのか変な声を上げた。
「ってあれ? 私の声が聞こえるの」
彼女が驚きながらそう問いかけてきたので、うなずいて肯定する。
「嘘! あなた妖精の私の声が聞こえるのね」
彼女の反応を聞く限り、妖精の声が聞こえるのは普通じゃないのだろか。
そもそも妖精の存在が普通なのかわからないところだ。
「とゆうか、私の姿がみえるの?」
「ああ、はっきりと」
「信じられない・・あなたなにもの?」
何者だろうな....それがわかれば自分も苦労はないのだが、どうしたものだろうか。
正直に記憶喪失で何も覚えていないと伝えるべきだろうか?
そう悩んでいると彼女は自分の腕のほうへ近寄ってきた。
「あ、ごめんなさい。 そうだよね、腕の傷をなんとかしないとね」
彼女はそういって腕の傷のあたりまで近づいてくる、何とかしないといけないのは自分がよくわかっているのだが、応急処置をしようにも道具がないのだ。
何をするのかと彼女の事をじっと見守っていると....
「まずは傷口を消毒しないとね、キュア」
彼女がそういうと自分傷のあたりが薄く緑色に光る、今彼女は一体何をしたのだろうか?
さっきまでとはあきらかに痛みが和らいでいるのが感じ取れる、痛みをとる何かをしたのだろうか。
「消毒したら傷口を閉じないと、ヒーリング」
そう唱えると驚くことに腕の傷の傷口が閉じたのだ、完全に傷が治ったわけではないが応急処置としては完璧..いや、もはや応急処置ではなく治療とよぶべきだろう。
さきまであれほど痛かったのに、今ではちくちくとそこそこ痛むくらいだ。
「これは・・何が起こったんだ」
そうつぶやくと彼女は得意げに話し出した。
「フフン、すごいでしょ。 助けてもらったお礼だよ」
「まあ、完全に治せなかったけど....」
「いや、十分すぎるほど助かったよ。 ありがとう」
「ところで君はいったい何者なんですか?」
そう彼女は聞いてくる、ここは正直に自分の置かれた状況を説明してしまおう。
ここで変に嘘をついて取り繕う理由もなさそうだ、それに恩人に嘘をつくのはさすがに気が引ける。
「じつは・・・・」
そうして自分は自分のおかれた状況をゆっくりと語りだした、彼女は自分の話を止めることなく真剣に聞いてくれた。
「そう・・でしたか、それは大変でしたね」
「ああ、大変だったよ」
本当に色々大変だった、ほんと....。
「あ! 君の事を聞いたのにまだ私の自己紹介をしていなかったね」
「私の名前はナピィ、見てのとおり妖精だよ」
妖精....か、普通の人間ではないのは外見でわかった。
むしろ妖精という言葉以外に彼女..いやナピィを例える言葉が見当たらないだろう。
「よろしくナピィ、妖精っていうのは・・・・」
「あっ、そうだよね。記憶がないんだもね」
「妖精っていうのはね・・んとね、なんかこう・・・・。」
「そう! 自然エネルギーの塊的な存在なの」
なんともあいまいな説明である、自分のことをうまく説明できないとはこれいかに。
あ、いや。 自分も人のこと言える状態ではないか。
「まあ・・なんとなくわかったよ。その妖精ってのは珍しい存在なのか?」
「ん? どうしてそう思ったの」
「さっき私が見えるのか?とか聞いてきたから」
「なるほど、そういうことね」
「んー、珍しい・・といえば珍しいかな?」
「というと?」
「本来妖精は人間には見えないの、当然声も聞こえないよ」
見えないし声も聞こえないか、確かに珍しいといえば珍しいが。
この場合普通じゃないのは人間の自分にみえているナピィなのか、それとも見える自分なのか。
「あ、でもね。 極まれに私たち妖精の姿が見える・・というか存在を認識できる人間の子供がいるみたい」
「といっても、そこに何かわからないけどいる。 そんな曖昧な見え方しかしてないみたい、もちろん声も聞こえないよ」
「となると見えるし声も聞ける自分のほうが異常なのか」
「一応そうなるね」
一体自分は何者なのだろうか、そもそも自分で人間と思っているだけで本当に自分は人間なのだろうか?
そう考えると少し怖くなってくる、こんなことを考えるのはやめよう。
「でも安心してください、あなたは私に出会えたのだから!」
出会えたからなんだというのだろうか、なにか商品でもくれるのか?
自分が意味がわからず止まっていると、ナピィは勝手に説明し始めた。
「ああそうでしたね、記憶がないんでしたね」
「なんと妖精に出会った人間には幸運が訪れるのですよ」
「幸運?」
「ええ、幸運です」
いきなり幸運といわれてもピンとこない、何かいいことがあるのだろうか。
自分は只今絶賛不運に身舞われ中なんだがな、まさか失った記憶が唐突に戻るとても言うのだろうか?
....いやないだろうな。
「幸運かぁ・・・・」
自分が微妙そうに苦笑すると、ナピィはムッとして語りだす。
「本当ですよ? 実際あなたは運がよかったじゃないですか」
「というと?」
「怪我したところを私の魔法で治してもらえました」
そういってナピィは得意げにしているが、そもそもナピィが狼もどきに追われていなければ自分も怪我をせずにすんだのではなかろうか。
この場合は幸運ではなくて、不運に見舞われた後の事後処理であろう。
不幸なことがあった後にいいことがあると、些細なことでも運がよかったと錯覚してしまう感じのアレだ。
「もともとは君が原因じゃ・・・・」
「ムムッ! 聞き捨てなりませんね」
ナピィはそういって不満げになると自分の顔に近づき、頬をひっぱってくる。
たいして痛くはないがやめてほしい、きっと今自分の顔はひどい変顔になっているだろう。
「いいですか? あれは追われていたのではなく・・そう! 戯れていただけなの」
あきらかに今思いつきましたと言わんばかりの理由をでっち上げてくる、このままナピィを口論で追い詰めるのも楽しそうだがやめておこう、一応恩人だしな。
「はいはい、そうですね」
「わかればいいんです、わかれば」
なんとかナピィは納得してくれたようだ。
「ところで、これからどうするんですか」
どうする....か、どうしたもんだろうか。
ナピィにあえて何か自分に進展があったかといえば答えはNOだ、まだ何もわかっちゃいないし思い出してもいない。
自分の行く道がきまらない、きめられない。
そう悩んで言ると「グゥー」とお腹がなった、もちろん自分のおなかだ。
「・・・・きまりましたね」
たしかにきまった、お腹が減っては何も思い出せないだろう。
だってそうだろう?一度お腹がすいているのに気づいてしまえば、頭の中は食べ物のことでいっぱいだ。
だがこの森の中に食べれるものは存在しているのだろうか、ないとかなり困るところだ。
「確かさっき逃げてい・・戯れているときに、食べれる木の実がなっているのを見かけましたよ」
「それは本当か!?」
「はい、こっちのほうです」
そんなこんなで自分とナピィの二人は食料を求めて再び森の中を進みだす。