貴女を知る旅(8)
お久しぶりです。
安定期に入った作者です←
咒凪視点
あれから死んだようにイインチョは眠っている。
もしかしたら死んだのだろうかと脈を触知してみたら、弱々しいが確かに触れた。
あれ、けどこれ瀕死じゃね?
「瀕死だな。」
「、!」
なんの気配もなく現れた男は、気配とか関係なく絶対に見つけられるだろうというくらい派手な男だった。
俺は咄嗟にイインチョを背に庇い、呪札を出す。
「おいおい、んな物騒なモンだしても意味ねぇぞ?」
「アンタ‥、何で俺らが見えてるんスか?」
「何で…?決まってんだろ。
ーーー俺は死神だからよ。」
「死神…。じゃあ、四大古妖の……」
「四大古妖を知ってるって事は、やっぱりお前……守り人か。」
まるで真新しい玩具を見つけたような顔をしながら此方を見る死神に腹が立ってくるが、ぐっと抑える。
「で、その瀕死の野郎は陰陽師ってところか、幽体で瀕死なんざ見たこともねぇな。」
ケラケラ笑う死神に俺の中の琴線が千切れそうな音が聞こえるが、聞こえないフリをして話を続ける。
「…幽体の人間が瀕死だった場合、どうやったら回復すると思うっス?」
「霊力を傷口に当てたら治るぞ?」
「残念ながら、俺は陰陽師じゃなくて呪術師っス。しかも祈祷系じゃない方の。」
「なんだ?人を呪ったのか?」
「いーえ、ただ…存在自体が呪いの象徴みたいなもんなんっスよ。」
俺はそう言いながらイインチョの顔面蒼白な顔を見る。
…イインチョは、全てを許してくれる。
例え、俺がイインチョの大好きな本を破いても
例え、俺がイインチョを呪い殺そうとしても
例え、俺がイインチョの婚約者を寝取って捨てても
例え、俺がイインチョの頭を殴って死にかけても
なんやかんや言いながら、気持ち悪いほど許してくれる。
「この人、気持ち悪いほど善人なんスよ。」
それがまるで使命だと言うかのように、この人は人間に優しい。……優しすぎる。
「別に……珍しい事じゃねぇ、擦り込み善人なんざ腐るほどいる、盲目的な奴は特にだ。」
そう言うと死神は俺の目の前から霧のように消えた。
「暇つぶしには丁度いい。本当は例の村に行きたかったんだが……彼奴とは関わりたくねぇ。」
死神はいつのまにかイインチョの隣に座り、イインチョの頭に霊力を注ぐ。
思わず呪札を投げつけてしまったが、死神に届く前に散り散りとなった。
「んな玩具で俺を呪える訳ねえよ、考えながら行動しな。」
「……ちゃーんと、考えて行動してるっスよ。」
散り散りになった呪札から伸びてくる黒い手が、死神の身体を拘束する。
「こりゃすごい。」
「まあ、あんたならこんなの30秒も持たないっスから、イタズラっスよ。イ・タ・ズ・ラ☆」
「……読めねぇ奴。」
そう言って死神は黒い手を霧散させ、気持ち悪いほど綺麗な顔を歪ませ、嗤う。
「お前らはどうして此処にいる?」
「知らないっス。」
「意味なく此処にいるのか?此処には今、疫病神がが存在するぞ。」
「知ってるっス。…だから何スか?」
「災に巻き込まれるぞ?」
「別にいいっスよ。」
「この瀕死の男にも。」
「その時は身代わりになるっスよ。」
「その程度の命なら、何故生きている?」
「生きることに意味は必要っスか?」
「いいや、ないな。」
「無意味に生きててもいいじゃないっスか。少なくとも、生きることを諦めた奴等よりかはマシっス。」
のらりくらりと死神の言葉をかわしながら、俺は疫病神と杏ちゃんBの行方を捜す。
俺とイインチョが話している間にいなくなってしまったのだ。
だけど、イインチョのように便利な鳥系の式神は無い。視力は2.0だが、イインチョが起きていれば「だからどうした。」と冷静なツッコミが返ってくるだろう。
「もう、時間らしいな。」
「え……?」
「気付かなかったのか?…お前ら消えかけてるぞ。」
「……わお。」
全然気づかなかった。足先がスースーするなとは思っていたが物理的にスースーとか笑えない。
「……かえるのか。元の場所に。」
「帰れたらいいっスね。」
いや、多分帰れないだろう。杏ちゃんがお彼岸太夫だった事が知れただけで、何も分かっていない。
「全てを知ろうとするなよ。」
「………何を?」
「知らなくていいところまでだ。」
「それでも、知りたいんスよ。」
ーーー人間は、強欲だから
「人間は……ねぇ。」
「なら、お前はどうだったんだろうな。」
「全てを知ろうとした罰はさぞ重かろうよ。」
次回は天鏡の正体的な何かが分かる回です。