貴女を知る旅(7)
今年のアニメは豊作でしたね
もうすぐ来年ですよー
修道院昭道視点
人であるイインチョ……とは、どういう意味だろうか。
痛む頭と回らない思考の中、それでも咒の言葉を必死に噛み砕こうとする。だが俺の事など放っておくかのように咒は話始める。
「イインチョって、どう見ても不幸体質っスよね。」
「非常に腹が立つ言い方だな、……その通りだが。」
「幸福体質と不幸体質を見分ける事ぐらい、俺たち呪術を扱う者にはちょちょいのちょいっス。不幸体質の人間はカモみたいなもんだし。」
血がこびり付いた目のせいで視界が侵される。咒が今、どんな表情をしているか分からない。
「お彼岸太夫って諸説ありまくりの本しかないんっスけど、俺的に有力な……文献があるっス。」
「あの、胡散臭い本たちの中で……?」
俺は人並み以上にはお彼岸太夫について調べていたつもりだ。黒乃が兄と過ごした時間とお彼岸太夫の記憶の一部…お彼岸太夫の顔を俺から奪ったが、それと同時に、失っていた6歳以前の……主にお彼岸太夫と過ごした記憶が蘇った。だが、どうしても兄と過ごした時間も蘇らないかと思い、俺はお彼岸太夫について調べ兄との記憶を引き出そうとした。
……失敗に終わったが
何かが、邪魔をするんだ。頭の中にある筈の記憶を引っ張り出そうとすればするほど、「思い出すな。」と言いたげに頭がぐらぐらする。
あの懐かしい声が、聞こえる。
「その文献には、お彼岸太夫に狂う人間の特徴とその根拠が記されていたっス。その特徴というのが、声を聞くこと、顔を見ること……不幸体質であること。」
「……それが、どうした。」
「イインチョ、頭が回転してないっスねー。……俺のせいだけど。」
「半分はな。残り半分は……俺の可笑しな言動だろう?」
あの時、頭の回路が妙に繋がったのだ。杏ちゃんBが疫病神と接点がある事を知った瞬間、何故か
ーーー杏ちゃんAが、お彼岸太夫だ
それが、頭からこびり付いて離れない。
頭からの出血は咒の遅すぎる応急処置で止まったが、血の量が足りず頭が働かない。だがそれによって俺は今、自我を保っている。……嫌なことに
「まずイインチョ、その可笑しな言動、完全にお彼岸太夫に狂った人間の特徴っスよ。」
「狂った人間を、知っているのか?」
「……知ってるっスよ。」
「そ、うか…。」
これ以上、聞いてはいけない気がした。
此奴は軽い割に地雷が多い。大らかな振りをして地雷を踏み抜かれたら静かにぶちギレる。
だから慎重に、慎重に相手をしなければならない……選択肢によっては即bad endのヤンデレゲームのような奴だな。
「イインチョ、お彼岸太夫に狂った人間が元に戻った前例は、今まで1度も無いっス。」
「……俺は。」
「イインチョ、何か心当たりは無いっスか?お彼岸太夫に昔あったのなら、イインチョはとっくのとう狂って死んでる筈っス。」
そんな事言われても分かるものか。
今は何も考えたくない、考えたら…考えてしまったら
また、狂ってしまう気がする。
「………イインチョ?」
「すま、ない、眠く、て。」
「え、それ雪山で言う寝たら死ぬパターンじゃないっスか?」
「俺が、死んだ、ら…………とりあえずお前を呪い殺す。」
「え、イインチョ、俺、呪術師っスよ?いや、イインチョならやりえる。あ、てかちょっと待って!話はまだ終わってな………」
煩い声の中、本当に死ぬかもなと軽く考えながら目を瞑る。
…お彼岸太夫の顔は、杏ちゃんBのような顔だっただろうか。
だが、それだけは思い出すなと言いたげに俺の意識は深い闇におちた。
次回はとりあえす桜ちゃん視点ですね。