貴女を知る旅(4)
今回めっちゃ迷いました。旦那様出させるかどうか、けど恋しいから出しました←
修道院昭道視点
「……祖先っスかね?」
苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。いや、可能性は少しばかり、ほんの少々レベルであると思うが……考えれば考えるほど沼に引きずり込まれる感覚に陥る。
「いやいやいや、祖先じゃ無かったら逆に何スか?ドッペルゲンガーっスか?」
「お前はドッペルゲンガーの意味を知ってるのか?」
半ば半目になりつつ、俺は佇んでいるその少女をジッと見た。
少女の目には何も映らない、この美しい木々も、若々しい草花も、静かに流れる澄んだ川も、この少女にとっては無意味に等しいのだろう。
少女は、世界に絶望していた。
まだ世界を知らない筈の少女が
世界に絶望していた。
「何をされたら、あんな目になる?」
「……よっぽど、酷いことされてきたんスね。」
夕闇とともに聴こえる祭りのような騒ぎ
村から聞こえてきたのは太鼓の音と、女たちの泣き叫ぶ悲鳴。嗚咽。喚き。嘆き。悲しみ。怒り。
……嫌な予感しか、しなかった。
「……下に、降りるっスか?」
「いや、降りれん。…おそらく、この妖樹たちがみてきたモノしかみれないんだ。」
「と、いうことは‥この山一帯って感じっスかねー。」
俺たちが生きてきた時代は、既にこの山の木々は全て妖樹に堕ちていた。
何故かは分からない、この木々が妖に成り下がった訳も、経緯も、その意味も
「さーて、この少女……仮に杏ちゃんBとするっス。」
「少女でよくないか?」
「駄目っスよー!もし此処で杏ちゃんAが出現したらどうするんすか!」
「杏ちゃんAが出現する可能性は0だがな。」
太鼓の音はやまない、女達の叫びは枯れ果て、嗚咽だけが微かに聞こえて来た。
夕日は何処かの山へ沈んでいく。隠れるように、逃げるように、目を塞ぐように
夕日が山へ消え去った時、空気が一変した。
「………っ!」
「……なんか、寒いっス。」
そう、確かに辺りは薄ら寒くなった。だが咒はそれしか感じないらしい。
「…ナニかが、近付いてくる。」
「下ネタっスか?」
「そんな事言ってる場合か!?隠れるぞ!!」
「俺たち見えてないのに!?」
ああ、そうだ、咒の言う通りだ。
俺たちはこの時代のモノたちから見えていない、身体だってすり抜けた。…だが、俺の中の全てが警告を発しているのだ。
『逃げろ』と
風が止んだ、木々が止んだ。
ナニかに怯えるように、すべての時が止まった。
「ねえねえねえねえ、何があるんスか?」
此奴、呪術師としても人間としても機能が正常に働いているのだろうか。
いや、それを言うならあの杏ちゃんBも同じか。
杏ちゃんBは明らかに変わった雰囲気を物ともせず、動じず、佇む。
「うわ、なんか気持ち悪いの来た。」
「……お前、なんで、そんなに」
平気なんだ?と問い掛けようと思ったが、その言葉は遮られた。いや、聴こえなかったと言った方が正しいか。
「ア、餓鬼ィ………?」
化物が、其処にいた。
見たもの全てに恐れられるような化物が
脚が震える、膝が笑う。今声を出せば確実に震えるだろう。
「………だぁれ?」
杏ちゃんBは真っ空な瞳で化物を見る。
化物から発せられる闇を物ともせず、真っ直ぐに化物を見る。
「てメぇこそ、不味ソうな顔シやがッて。」
「…………ごめんなさい?」
杏ちゃんBは不思議そうな顔をしつつ謝る。
「此処にハ、ウマい人間はイなイのカぁ?」
「人間っテ、美味しイの?」
「幸せソうな奴はウマイ。ダカら、てメェは不味そウだ。」
「……だったら、此処に美味しい人はいないと思うよ。」
杏ちゃんBは村を指し、首を振る。
「誰も、悪くないの。けど、皆悪くならなきゃいけなかった。
ーーーそうじゃないと、守れないから。」
杏ちゃんBは儚げに笑った、子供の笑みでは無かった。
だが
「テメぇ、面白いナぁ。」
化物はキタキタカラカラと嘲笑した。
「テメえ、そんな事言いナがら、
ーーー村のことナンざ、興味ネェんだろォ?」
少女は笑った。
次回はお狂ちゃんは出しません。乙女ゲームの主人公が何故闇落ちしたのかを書きます。多分←