死神の存在理由(1)
詐欺はこういうことの繰り返しで起こるんですね分かります←
叉丸視点
妖樹が静かに佇む山はとても神聖に見えるが、人から見れば不気味な山にも見えるのか、この山に人が登ったところを俺は見たことがない。かと言って妖はこの山には登らない。だからといって妖樹が畏れられているからではなく、単純に餌がいないからだ。
だから、ぽんちゃんは足音が聞こえたら必ず俺の胸に『ぽーん!!』と元気よく飛び付くのだ。
ぽんちゃんは月日が経つにつれてお腹が立派になり、とても美味しそうな身体つきになった。
物理的だがな
【おかえり】
ぽんちゃんは字も上達した、字を練習したての頃はミミズにミミズを加えたような字だったが、今ではミミズだが何とか分かるようになった。
【見つかった?】
誰が、なんて決まっている。
ぽんちゃんが思い描いたのは
思い描き続けているのは
ーーーあの子に決まっている
「……いや、見つからなかったよ。」
ぽんちゃんは残念そうに尻尾をヘニョっと下げる。
「なあ、……ぽんちゃん、少し癒してくれ。」
そう言って俺はぽんちゃんをギュッと抱きしめる。あの雪山で起きた悲劇は正直参った。
坊に興味が湧いたのは、単純な好奇心だった。
雪女から生まれた男児がどんな奴なのか。どんな捻くれた性格になっているか
今までの妖性格は散々なものだっただろう
……あの子自身は知らないだろうが、あの子が疎まれたのは男児だけが理由ではない
本当に雪女とは嫉妬深い妖だ、雪化粧せずとも美しい容姿を持った坊はさぞや………妬みの対象になっただろう。
そう、だから俺は初めから捻くれていると決め付けた。最悪、壊れているのではないかとも
だが蓋を開ければどうだ?
只の、そう…本当に只の
ーーー温もりを知らない子供だった
その姿を見て思い出したのは
名前すら存在しない、…あの子の事だった。
いや、今はお彼岸太夫という仮名称が出来たのか。
「ぽんちゃん、人も妖も全部いなくなって、一層の事………」
あの頃に戻りたい
あの子と、ぽんちゃんと、俺と、あの咲良山で過ごしていた…穏やかな時間に
汚いものを全て消し去って、全て葬って
緑と花と木々が辺りを彩る世界で
あの子とぽんちゃんと共に過ごせたら、どれ程幸せだろう。
『ぽん、少し水を注いでくれんか?』
まるで、俺の祈りを遮るかのようにこの山の主、妖樹がぽんちゃんに語りかける。
『…ぽん!!』
ぽんちゃんは何かを察したのか、小川の流れる方向へと走る。
『…時間は戻らん、世の理よ。』
ぽんちゃんの微かな足音が消えた後、妖樹は重い口を開いた。
『時間は流れ続ける、無情に、非情に、惨酷に。』
「んな事、知ってるさ。…だが
ーーーあの紛い物は時をずらした。」
そう、あの紛い物は時を操った
それは、禁忌
死神の俺にも出来ない芸当だった
『昔の…とある陰陽師の一族を思い出す。』
「ああ、…だが、あの一族は疫病神に滅ぼされた。」
『だが、陰陽師とサトリの混じり子が生き残っていた筈。』
「混じり子………。」
その一言で、微かな糸と糸が絡み合い、繋がった。
『……だが、禁忌には対価が必要。』
「ああ、その対価は恐らく…」
妖樹の葉が風で落ちてゆく、この落ちた葉は大地に吸収され命を廻していくだろう。
命とは輪廻だ、魂は循環してゆく。
それを止める権利は誰にも無いし況してや
…そう、況してや
魂を混ぜるなどという行為は
あってはならないのだ。
『哀れな二つの魂の、壊れた音が聞こえた。』
「…………」
『父親と、息子、だろうか。……老いた眼には分からぬ。』
「…その通りだ、とある母と父と息子の魂が、玩具のように扱われた。」
穴いらずに殺された父親と、流行り病に殺された母親、そして…雪女に殺された息子
『何故、気付いたのだ。』
「気付くに決まってる、坊は人に慣れていなかったから知らなかったんだろうが
ーーー人は、300年以上も生きれねぇんだよ。」
もう僕疲れたよパトロン