哀れな雪女は(3)
久しぶりのお狂ちゃん登場!
主人公いない話が多すぎる作品でごめんなさい。
???視点
彼女は氷のように固まった。
きっと俺も、彼女と同じような顔をしているだろう。
「私を………狙って、る?」
震える声で彼女は問う。
「そう、主よ。」
「な、なんで…」
「理由などない、強いていうなら…彼奴らはただ互いを信じれないだけよ。」
「…そんなの、私、関係ない…!」
「関係ないの、だが頭の悪い妖どもにそれは通用せんわ、この江戸に入った時点で主は彼奴らの獲物よ。」
男は笑う、その笑い方は仮面のようだった。
「それに、このまま逃げても主はこの無意味な争いに巻き込まれる定めじゃ。諦めよ。」
「あ、あ、ああ……」
彼女は動かない、いや、動かなくなったのか、足が何かに引っかかったように動かない。
彼女の頭の中は恐怖で一杯だろう、次第に回りが薄ら寒くなり、足元はどこからきたかも分からない氷が張っていた。
あの時、彼女を助けた状況と似ていた。
そう思った時、声が聞こえた。頭に直接入るような声が。
ーーーまた、助けるんですか?
その声は、今の状況と俺の心境、…何もかも見透かしているような、そんな声だった。
ーーーまた、助けてどうするんですか?
ーーー逃げたらいい、貴方のしがらみから
そんなの出来ない、だって俺は
ーーー最低な男になりたくない?
その言葉に俺は目を見開く、その声は俺の心の醜い部分を的確に指摘するのだ。
ーーー見捨てなさい
「…………っ!」
その声は無情な言葉を囁く。
ーーー見捨てなさい
ーーー見捨てなさい
ーーー見捨てなさい
ーーーね?
頭がぼんやりとして、何も考えられなくなる。
足は、俺の意思と関係なく動く。
「あ〝あ〝ああああぁぁぁぁ!!」
獣のような咆哮をあげたのは誰だっただろうか。
いや、それは間違いなく
彼女の叫びだった。
けれど、どうして彼女が獣のような叫び声をあげたのかは
逃げた俺には分からなかった。
「見捨てたんですか?」
ようやく関所が見えたところに、あの夜鷹はいた。
だが、夜鷹の回りは地獄の末路そのものだった。
妖の死骸が、肉の塊が大通りを埋め尽くす。吐き気を催す血の匂いに俺は足を止めてしまった。
「どうして、見捨てたんですか?」
「………」
「正直、あまり興味ないんで良いんですけどね。」
なら、どうしてそんな事を問いかける。
「嫌いなんです。貴方みたいに中途半端な優しさで、かえって人を傷つける人間が。」
夜鷹は風呂敷を外し、笑う。
「大っ嫌い。」
白い肌とは相反した真っ赤な唇は毒を吐く。
「ただそれだです。」
夜鷹はまるで言いたい事を言えてすっきりしたのか、微笑みながら帰っていく。何処へ行くかは知らないが、両手を広げ、一々妖の臓物を踏み潰しながら歩くその姿は、無邪気な、何も知らない残酷な子どもそのものだった。
夜鷹の雑巾のような着物が真っ赤に染まる。その返り血はまるで、彼岸花のようだった。
そう、その姿はまるで
ーーーお彼岸の太夫
《タノシソウ、タノシソウ》
《タノシソウ、タノシソウ》
回りを見渡せば、黒い蜘蛛たちがケタケタガラガラとわらっていた。
俺は悲鳴をあげそうになったが、もしこの蜘蛛を1匹でも踏み潰したら………ゾッとした。
《アンナ二、ゲンキナ、アノコ》
《ヒサシブリ》
《アナタノ、オカゲ?》
《ソレトモ》
《アノ、ユキオンナ?》
黒い蜘蛛が次々に人の言葉を重なり絡み合い叫び合う。
その時、少し遠くなった夜鷹が振り向く。
「おいで、地に足を着けてはいけません。
ーーー凍ってしまう。」
黒蜘蛛が一斉に夜鷹の体へよじ登る。
その瞬間
世界が真白に染まった。
次の話には静君を出す予定です
この章も後半戦ですねー