夢現(8)
これで夢現は終了しますが、雪乃静編はまだまだ続きます。
この話で私が爺のゲシュタルト崩壊をしました←
雪乃静視点
その小屋は、村から見えるようで見えない場所に佇んでいた。
中はこじんまりとしているようで、いや、実際にはこじんまりとはしているのだ。だが、その小屋に入り、埃被った床の隅をよく見れば開き扉があり、重苦しそうな音と少しの煙で気持ち悪さを感じながら開けると、隠し通路があった。
隠し通路は少し狭かった。……隠し通路だから仕方ないか。ときどき爺が石に躓いて「あてー。」「いてー。」「うわー。」と気持ち悪い感じの声に凍らしてやろうかとも思ったが、俺は心は大人だからぐっと堪えて爺いの弁慶の泣きどころに小石を当てるだけで我慢した。
俺、えらい。
「坊、此処だー。」
そう言って爺は右の曲がり角を指す。その奥を見れば扉は無く、ただ雑魚寝できる程度の藁が撒き散らしてあるだけだった。
「もうすぐ此処に夜鷹と男共が来るぞー。だから俺たちは左の曲がり角にある窪みに身を潜めるぞー。」
「…………ん。」
そう言って俺たちは左のある程度狭くもなく広くもない窪みに身を潜める。…俺だけだったら広かったのに
それから少し経った後、足音が聞こえてきた。
だけど、その足音は大勢というよりも、むしろ…
「………坊主?」
「んー?坊主じゃないかー。どうして此処にー?」
そう言って窪みを覗くように顔をひょこっとするのは、俺が居候している爺さん婆さんだった。
「爺…さん、婆さ…ん。ど、して…こ、こに?」
「んー、俺たちはなー。馬鹿息子がお熱になっている「女狐を見にきたんだよ。」だ、そーだー。」
そう言いながら、俺たちが入っている窪みに無理矢理入ろうとする。そして、俺は爺さんのしわくちゃな大きな片手で目を隠された。
「爺さ、ん……?」
「いやなーに。坊主がなんで此処にいるかは知らないけどなー。ちぃーーと刺激が強過ぎるからなー。」
俺はその言葉にムッとする。確かに俺の身体年齢は幼く見えるだろうけど、これでもあの古民家に住んでから早300年は過ぎている、……筈だ。だから、これでも俺の方が年上なのに、そんな事は言えないけど。
そんな事を悶々と考えていたら、今度は集団でズカズカと此方にやってくる足音が聞こえた。
俺はなんとかして爺さんのしわくちゃな手を退かそうと爪を立てるが「んー?猫みたいだなー。猫なんて触った事ないがー。」と爺さんは呑気に答えるだけだ。
しまいには爺と呼んだろかと思ったけど、それだと今、爺と呼んでいる爺と被って爺がゲシュタルト崩壊すると思うからやめないけど
俺はもういいやと思い、己の聴覚に全神経を集める。足音を聞く限り、10人以上はいる。そして次第に会話が聞こえてきた。
ーーーそれにしてもたまんねぇな
ーーーあんないい女が100両で犯せるんだぜ?
ーーー夜鷹にしては高いがなぁ
ーーー別にいいじゃあねえか
その話し声を聞いた途端、婆さんが「あの馬鹿息子…!!」と怒りがもうすぐ頂点に達しそうな声で呟いた。
どうやら、あの中に爺さん婆さんの息子がいるらしい。
そして、その集団が来てから数十分経った時ヒタヒタ…と、しなやかな足音が聞こえてきた。
その音は集団の男どもにも聞こえたらしく、口笛を吹いて囃し立てるもの、もう待てないとでもいうかのように着物を脱ぎ始めるもの、…様々な音がわかりや過ぎるほど聞こえてきた。
足音は次第に、当たり前に此方へやって来る。正直に言えば顔を見たい。顔を見なければ、誰か分からない。
…俺の悪い予感が、間違いであって欲しい。
そう思いながら俺は、再び、今度は激しく暴れ始める。手が退けるのはもう少し後だと思ったが、思いの外早く、俺は爺さんの手からすり抜けられた。
俺は目を再び隠されないように、夜鷹の女の顔を見ようと顔を見上げる。
「…………や、っぱり。」
その顔を見た途端、やっぱり俺の悪い予感は正しかったのだと…理解してしまった。
だけど
「お、彼岸……太夫…………!?」
俺の考えを遮るかのように、爺さんは酷く怯えた声で…その名を呟いた。
次回は誰視点にしましょうか?←