夢現(7)
雪女に一度会って求婚したい←
雪乃静視点
「……なあ、坊、大人になりたくねぇか?」
「……………」
嫌な予感しかしない。
ーーーーーー
近所の賢いボケ爺は等々痴呆が発症したらしく、どう見たって外見年齢5、6歳の俺を大人にしようとしている。
その頃の俺はこのボケ爺の無駄な……違う、阿保な………違う。将来役立って欲しい知識を詰め込んでいたので、このボケ爺の《大人になる》がどういう意味なのかは大体理解出来る。
そして、このボケ爺がどうして俺を《大人になる》…いや、この場合《大人の行く場所》に行かせたがるかは大体察せる。
「いやー、やっぱなー、早めに大人になればなー、村中の子たちから尊敬されっぞー。」
「…本、音…は?」
「坊をダシに使って女の子を誘き寄せたい。」
「腹上死しろカス爺。」
「坊、口が悪いぞー、そんな汚い言葉吐いたら女に好かれねーぞー。」
「勝手に行けばよろしいのではないでしょうか?勝手に腹上死すればよろしいのではないでしょうか?」
「坊ー、俺が悪かったー、戻ってきてくれー。その気持ち悪い敬語使わないでくれー。」
「…そ、もそ、も、この、小さ、な村…に、そ、んな、遊廓み、たい、なとこ、ろ、ある、の…?」
そう言って俺はじっとりした目で爺を見る。爺はどこかホッとした顔で冷汗を拭う。
「いんやー、村外れの小さな小屋に集まって例の夜鷹を待つんだよー。その夜鷹、決まって夜に現れるらしくてなー。」
「………集、ま…って?」
それはつまり、1人の女の人に村の男たちを相手させるって事?……金銭は?
「そこまでは分からんくてなー、ま、今夜は見物だけして帰ろうと思ったけどなー、あわよくばなー。」
「………………最低。」
「け、見物だけしよー、だから坊、お前も来るかー?」
「…………」
正直に言えば、行く理由は無い。皆無だ。
けれど、なんとなく気になったのだ。
こんな小さな村に稼ぎに来ている夜鷹、農奴よりも江戸の商人を相手にする方が稼ぎがいい筈なのに、どうして?
何より、夜鷹が《別嬪さん》という点も気になったのだ。別に、すべての夜鷹が美人じゃないなんて事は言わないが、美人だったらもっと上の方を目指せるのではないだろうか?花魁などは言わないけど、局見世くらいにはなれるだろう。
よっぽと訳ありなのだろうか……?
「けどよー、最近その夜鷹の女の様子が変らしくてなー。なんだー?餓鬼探してるらしいんだ。」
「…こ、ども………?」
「夜鷹の女は独り身よりも金がねぇ主人の嫁が多いからなー、子どもの1人や2人いるわけよー。んで、その餓鬼がどうやら消息が分からねーんだとよー。」
「………………」
「股開いた男たち全員に聞いてんだとよー。その餓鬼の特徴まで言って…よっぽど切迫詰まってんだろうなー。」
「確か、男で口下手で前髪が伸びていて、だっけー?まるで坊だなー。情報が少ねーが。」と言って俺の髪をぐしゃぐしゃにする爺の話を聞きながら、俺は、嫌な予感がしていた。
だってそうだろう?情報は少ないが、こんなにも条件が絞られているんだ。
それによく考えてみたら、こんな村に江戸から夜鷹が来る筈無いんだ。夜鷹は活動範囲が広くないんだから。
だからと言って、この村の女が夜鷹になった訳でもない筈だ。そんな事をしてみろ。村の女たちを敵に回すようなものだ。
だからと言って、普通の雪女はそんな大多数の男と床を一緒にしない。そんな事をしたのは…俺の母さまくらいだ。
そう、…普通の雪女なら……
考えれば考えるほど、悪い予感は確信に変わっていく。
「…で?どーすんだー?行くかー?行かねーか?」
そう言って。俺の頭をますますぐしゃぐしゃして機嫌が良くなる爺。
「それに、俺も気になる事があってな。」
そう言って爺はどこか真剣味のある眼で俺を見下ろす。
「……なーに、本当に見にいくだけだ。約束すっかー?」
「……………」
俺は……………、
次回はどうしよー
軌道修正なうです