夢現(5)
静君の過去話にも熱をいれる。
異論は認めない(震声
雪乃静 視点
雪女にとって、晴天ほど恨めしく呪いたくなる程嫌いなものは無いだろう。
そもそも雪女は吸血鬼同様、弱点が多すぎる。
・太陽
・熱湯
・高温
・火
どれもこれも分かりやすいものだが、この内のどれかがあれば雪女は撃退できる。もしかしたらクマよりも撃退が簡単かもしれない。
そして、雪女はその弱点を補うかのように、温かいものが何もない真っ白な世界…………雪山で過ごしているのだろう。
だが、雪女に太陽を自由に動かせる能力は無い。だからこそ、年に数回の晴天時、雪女は集落の外はおろか、家から一歩も出ない。1日を冬眠しているかのように眠りに着く。
それは俺も同じだ。だって、俺は男だけど一応《雪女の末裔》なのだ。雪女でなくても、能力も性質も同じなのだ。
だから、いつもなら俺も冬眠するみたいに眠りに着く。
…けど、今は頑張って起きて、雪山の麓の村に行こうと思う。
姉さんが最近よく行く道を辿ったら、その村に着いたのだ。いっそ、このまま突撃しようと思ったが、それだと姉さんにあれこれ誤魔化されて終わりだ。
なら、俺1人だけ言って姉さんが夜な夜な何をしているのか探りに行こう。
一度決めたら後戻りはしない。横で死んでいるように眠る姉さんの横顔を見ながら、俺は古民家を出た。晴天の空は、俺を止めるかのように輝いていた。
ーーーーーー
「熱い…………。」
「熱い、あついあつい。」
「熱い…………うう、溶け、る…。」
物理的に、…付け足すならこの言葉だろう。
道は覚えている。あの真っ白な、どこもかしこも同じ景色の雪山から村への道が分かるのは、単純な事に、俺が住んでいる古民家から南へ真っ直ぐ行けば辿り着けるからだ。
だが、その距離はやはり子供の足では随分遠く感じるものだった。挙句にこの太陽さんさんだ。溶ける、溶けて水になって自然に還ってしまう。
「ううぅ、……………」
もういっその事、倒れてしまおうか?そう思った途端、俺は雪の下に埋もれた石に躓き、顔面が雪とこんにちはしてしまった。
「………冷、たい。」
もうこのまま眠ってしまおう。そう思う前に、俺の思考はショートした。
ーーーーーー
ぱちぱち…ぱちぱち
何かが、飛び散っては消え、飛び散っては消え…その繰り返しの、音が聞こえる。
「あんた、この子こんなにあったかくしてるのに、いっこうに温まらないよ。」
「んー?おかしいな…。もう少し薪を増やすか。」
「今は炭がないからね。明日、買いに行こうか。」
「んー…そうするかぁ。」
薪……炭……あった、める?
「…っ!?」
その言葉に俺はすぐさま起き上がり、自分の身体が溶けていないか、床に水溜りが無いか確認する。
ちょっと溶けていた。
「おやまあ、起きたかい。…あらあら、すごい汗、さっきまで、そんなにかいてなかったのに。」
それは多分俺の身体が溶け始め頃だったからだろう。溶け始めたらあっという間だ。俺たちはの身体は氷と同じようなものなのだから。
「んー?どうした婆さんー?」
「あんた、この子が起きたんだよ。」
そう言って俺の顔に滴る滴を手拭いでゴシゴシと拭う初老の女性。正直その滴は俺の汗じゃなくて身体の一部だからあまり吸い取らないで欲しい。身長が縮む。
「そかそか、よかったなー。」とのほほんとした雰囲気で笑う筋肉が異様に付いている初老の男性は、俺の滴だらけの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。切実にやめて欲しい。身長が縮む(物理)
「あんな雪山に倒れてたって事は捨て子かー?」
「…………」
「まあ、暫くの間は此処にいな。ねぇ、良いだろ?あんた。」
「いーともー」
「…………」
なんだろう、この夫婦、なんというか、気が抜ける。そもそもなんで俺を拾ったんだろう。捨て子なんてその辺にごろごろいるじゃないか。
「なんで、拾った、の?」
「おー、初めて喋ったぞ婆さん。」
「あらほんと、馬鹿息子どもが初めて喋った時を思い出すね。」
「…………」
「えーと、拾った理由か。そうだなー、特にはないなー。」
「あたしも、あんたが拾ったから介抱してるだけだしね。」
「……………」
俺は疑い深く両方を見る。俺を一体どうするんだろう?正直に言えば俺は人間を見るのが初めてだった。だから、未知なる生物に遭遇した気分だ。本では見た事あるけど実際には見た事ない、みたいな……
「まあ、そんなに優しくされるのが慣れてないんだったら、家事の手伝いをしておくれ。」
「俺も雪山に1人で狩に出掛けるのは寂しくてなー。」
だが、俺の警戒も時間の無駄だと言うかのように、両方は話を進める。
そして俺はこの両方の…爺さん婆さんコンビに言いくるめられ、この家に居候することになった。
次回はようやく姉さんが何をしているかが分かります。このペースだと軽く100話超えそうだ。