その男が見たもの
新しい章の間のお話です。
杏ちゃん出せたー‼︎‼︎
やったーーー‼︎‼︎
「お願い!!杏ちゃん!!」
「はい、なんですか?」
「私と一緒に……純平のお見舞いに来て欲しいの!!」
「純平…?」
そう言って一瞬怪訝な表情を見せてしまいそうになるが、その名前を聞いて思い出す。
ああ、あの噂に負けた負け鬼君かと
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佐鳥純平の自殺未遂から既に3ヶ月以上は経っていた。季節は夏、もうすぐ夏休みだ。
授業も時間が減り、部活をする者、教室で騒ぐ者、すぐに寮へ戻る者、各自様々、自由に時を過ごしていた中の、華宮桜からのお願いだった。
本を閉じ、長い前髪を耳にかけ理由を問う。なんでも、佐鳥純平は体育祭が終わって直ぐに目を覚ましていたらしい。だが、なんと声をかけていいか分からない。そんな事を延々と考えていたら当たり前のように時が過ぎ、こんな遅くお見舞いに行くってどうなの?とネガティブ思考になり華宮桜の中で悪循環が起こっているそうだ。
確かに、自殺未遂した幼馴染に掛ける声は私も思い浮かばないし、時が経てば経つほど行きづらくなる気持ちは分かる。だが
「なんで、私を同伴するのですか?」
私が同伴したら余計に気不味くなると思うのだが
「だって、杏ちゃんそういう事に慣れてそうだから…」
とても失礼な事を言われた気がする。
「本当に!本当に来てくれるだけでいいの!!なんなら病室の外で待っているだけでいいから!!」
私がいる意味なんだろう。
「病室の外で待ってるくらいなら……」
「本当!?ありがとう…!!」
正直言えば行く気にはならないが、特に用事がある訳でも無かった私は華宮桜に着いて行く事にした。
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ーーー貴方が信じた人は
ーーー貴方が愛した人は
ーーー貴方が共に生きようとした人は
ーーー貴方と同じ気持ちであるとは、限らない
今読んでいる本の一節である。
ようするに恋人同士で愛し合っていると信じているのは貴方だけで、貴方の恋人は貴方の事なんてとっくのとうに冷めているのよ、という言葉をオブラートに包み込んだものだろう。
ちなみに、何故私がそんな言葉の意味を考えているのかというと…
「純平……、私、純平の事、大切な幼馴染って思ってるよ?けど………」
「……なんで?俺が、あの事件の真犯人の噂、信じてるから?」
「っ!?そんな事ない!!!」
つまりこういう訳である。
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病室の外で呑気に待つんじゃなかった。一層の事勝手に帰ってしまえば良かった。もっと言えば最初から病院に来なければ良かった。
正直に言えば爪が甘かった。この世界が乙女ゲームの世界である事を忘れていた。且つ佐鳥純平には入院イベントがある事を忘れていた。
だが、このイベントは分岐点ではなく、あくまでイベント、ようするに選択肢のないストーリーのようなものだ。
まさか入院の理由が全く違うし、そんな甘い雰囲気になれそうにも無かったから、完全に油断した。
話の内容こそ違うが、ストーリーの言葉と全く同じだ。元々のストーリーは佐鳥純平がとある女子の強姦殺人の真犯人だという噂が流れ、それを勘違いしたその女子の恋人が屋上から突き落とし入院という流れだった。
因みにこの入院イベントは確か黒糖を丸々飲み込んだようなものだった筈だ。正直凄く印象に残っている。
どうしよう、私は華宮桜と佐鳥純平のラブストーリーを病室の外で息を殺して待っていなければいけないのだろうか。
「……おい。」
「!!!!」
私は咄嗟にその男の口を両手で塞ぐ。そして視線を上にし、影で暗くなった顔を見て思った。
軌道修正するならキチンとやれよ。と
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作者すら分からない1週間後←