表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/101

それは必然か其れとも(4)



今回の話、かなり熱入った←







修道院 昭道視点




異常に気付いた時には、全てが遅かった。




俺の足元でよだれを啜る音が聞こえてくる。何百匹の黒い蜘蛛が、俺を食おうと迫ってくる。




今思えばあの蜘蛛たちは、厄病神の眷属だったのだろうか?いや……そんな事考えても、あの時の状況は変わらなかっただろう。




蜘蛛たちはカラカラゲタゲタキャラキャラ…まるで俺を嘲笑うかの如く、印象に残る真っ赤な口を開けて鳴くのだ。




「お狂……!」





だが、あの時の俺はそれはそれは愚かで疎かで……自分の身より、お狂の安否だけを気にしていた。




山の奥に難なく入れるお狂が無事な事くらい、考えればすぐに分かる事なのに…




蜘蛛たちが、突如俺の眼の前で共食いを始めた。その光景はあまりにも残虐で、けれどもどこか…自然の摂理を見てしまったような気がした。

共食いで勝った蜘蛛は徐々に大きくなり、次第に俺の身長を難なく越え、俺を見下ろし尚嗤う。




その蜘蛛の姿は、俺が見た…かつての幻の正体のようにも見えた。




だが、俺はその姿に恐怖はしなかった。その姿を見て俺は、とうとう口に出してしまったのだ。






なんで俺は、こんなにも不幸なんだろう。






……心の何処かで少しずつ漏れ出したオモイは、決壊したかのように溢れ出した。






「なんで……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…ねえ、なんで俺なの?俺なにか悪いことした?悪い子だった?出来損ないだけど凡才だけど恥晒しだけど、悪い事なんて一度もしてない!それともなぁに?生まれたことが罪だった?産まれることが罪だった?だから俺は今こんなに苦しい目にあってるの?だから俺は誰にも愛されないの?だから、だから俺は……俺は!!!」





最後の言葉は、蜘蛛のせいで、きっと聞こえなかっただろう。奇声を上げながら、鳴き叫びながら、蜘蛛は俺に牙を向け、突進してくる。





ーーーもう、どうだっていい。




ーーーだって、生きることを望まれない俺は




ーーーうまれることが罪な俺は




ーーーああ、違うな






ーーーもう、楽になりたいよ






俺は静かに静かに、目を閉じる。






「やめろおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」






突如の怒号と突風だった。




蜘蛛を……俺の幻を破壊したのは、小学高学年くらいのヤンチャそうな男の子だった。

けれども異様なのは、ボロボロな服に痛々しい素足、何よりも…爪が剥がれている血塗れの手が俺の目に焼き付いた。






「昭道に手を出すんじゃねぇ!!昭道は俺の大切な……!!」






あの時は、何が何だか分からなくて、この男の子が何者なのかも分からなくて、混乱しか出来なかったが…《大切》という言葉で俺は、夢から覚めたような気持ちになった。





けれども、次の言葉で俺はようやく





「俺の大切な………弟だ!!!」





俺はようやく、救われたのだ。







顔さえ知らなかった、兄に








ーーーーーー




兄は鬼才だった

俺は凡才だった




兄は霊力が豊富だった

俺は平凡な量だった




兄は愛された

俺は愛されなかった




兄は生まれた時から全て持っていた

俺は生まれて尚…何も持っていない





兄は母屋

俺は離れ






兄は愛される代わりに自由を奪われ

俺は愛されない代わりに自由を与えられた






けれど、俺は兄が羨ましかった。

家族に愛される兄が羨ましかった、例えそれがどんなに歪んだ愛だとしても、自由が代償だったとしても…




自由は孤独だった。

自由に形など無かった。

俺は…何も持っていない、いつしか…そう思うようになった。




兄を恨んだ

兄を怨んだ

兄を憾んだ




それはきっと、兄も同じだと思っていた。

隣の芝生は青いとは、まさにこの事だと、自嘲した。

…兄は愛されなくても自由を与えられた俺を憎んでいただろう。






そう、思って生きていたんだ






なのに







「なんで皆して昭道を虐めるんだよ!昭道が何をした!?此奴は何もしてねぇじゃねぇか…!!何も悪い事してねぇじゃねぇか…!!俺と違って勉強熱心で、真面目で、賢くて、けど誰よりも努力している!!俺の…俺の自慢の弟だ!!」





違う、俺は兄に…お前に負けたくなくて、母さんに、父さんに…一族に愛されたくて、いつだって劣等感に苛まれて、悔しくて、口惜しくて





「やっと外に出れたんだ!やっと俺は…!昭道を守ることができるんだ!!」





違う、俺は母さんや父さんや一族に愛されたかった。お前が憎くて仕方なかった。





なのに、どうして……






お前はこんなにも優しい?






ふと、身体が重くなり、俺は重量に逆らえなくなる。

最後に見たのは、慌てた様子で俺の身体を起こす兄と…







どこか嬉しそうにわらう、お狂の姿だった










次回はイインチョ兄視点でお送りいたします。

イインチョの過去が1番長い気がする←




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ