それは必然か其れとも
イインチョの過去は普通に暗いです。
というより、この作品のキャラクターの過去、全員暗いので覚悟しといて下さい。
まあ断トツでお狂ちゃんが1番暗いがな←
…好きな子をいじめる小学男子の心情が分かった気がします。
修道院 昭道視点
《出来損ない》
《凡才》
《恥知らず》
俺に向ける視線も言葉も態度も全て、遠回しにそう言っている様だった。
兄は鬼才だった
俺は凡才だった
兄は霊力が豊富だった
俺は平凡な量だった
兄は愛された
俺は愛されなかった
兄は生まれた時から全て持っていた
俺は生まれて尚…何も持っていない
それが修道院の名すら与えられなかった出来損ない、つまりは……俺、だった。
俺が家出をしようが、誘拐されようが、殺されようが、修道院の一族は誰も俺を探そうとも…捜そうともしないだろう。むしろ、生きて帰ってくるよりも、俺の死体が運ばれてくる方が喜ぶのではないだろうか。
…きっと、心が限界だったのだ。
誰にも愛されない悲しみ
誰にも必要とされない哀しみ
それでも…もしかしたらという愛しみ
そんな感情が立ち回り入れ代わり、俺は当てもなく歩き続けた。
靴がすり減る程歩いた。足の裏がジクジクと蝕む。痛いだろう、辛いだろう、苦しいだろう、そう俺に無意味な囁きをする幻も見えてきた。けれど、決して引き返せとは囁かなかった。今更引き返しても、俺の足は限界で家には帰れないだろう。所持金もない。携帯もない。
あったとしても、ここでは圏外だろうと自嘲する。そもそも、此処は何処だろう。何故俺はこんな山に迷い込んでしまったのだろう。
「喉…渇いた。」
何か飲物が欲しい。いっそ、綺麗な水じゃなくてもいい。飲めれば…何でもいい。
「あ………」
川の流れの音が、聞こえた気がした。気のせいだと幻は嘲笑う。けれども、もう限界だった。
俺は川の流れの音が聞こえる方向に我を忘れ走った。
…俺は正しかった。川は確かに其処にあった。
川は確かに、崖の下にあった。
ーーーーーー
ーーーねえ、彼奴何してる?
ーーー彼奴…?あぁ、あの出来損ないか
ーーー彼奴なら、本読んでますよ
ーーー勉強熱心じゃないか
ーーー全て、無駄なのにな
ーーーあぁ、本当に…可哀想な奴だな
兄は鬼才だった
俺は凡才だった
兄は霊力が豊富だった
俺は平凡な量だった
兄は愛された
俺は愛されなかった
兄は生まれた時から全て持っていた
俺は生まれて尚…何も持っていない
なら、俺は一体何のために………
ーーーーーー
助けて下さい
助けて
助けて下さい
助けて
誰かが俺と同じで、叫んでいる夢を見た。
「目、覚めましたか?」
「………」
此処は何処だろう。目を開けようにも太陽のせいか、周りが明るく見えてまともに開けられない。…確か俺は崖から落ちて…それで
俺の疑問に答えるように、目の前の女らしき人物は俺に説明する。
「貴方は川で溺れていたんです。頭を強く打っているので、手当はしておきました。」
俺は頭を触ってみる。濡れている筈の髪が乾いているのをみて、俺は相当の間気絶していたんだろう。
「…貴方は、どうしてこの山に?」
「…………」
ようやく目が慣れてきた俺は、女の方を見る。その女は病人のような白い肌をした綺麗な女だった。そして、……どこか、仄暗い目をしていた。
「…お前こそ、如何してこんな山にいるんだ?」
「私…?私は…この山に住んでいるんですよ?」
「へえ……」
昔の俺は、その事に何の疑問も持たなかった。けれど、今は分かる……それはおかしい事に
今の時代、山に住んでいる人間なんて、いないのだ。…いない、筈なのだ。
「で?貴方は如何してこの山に?」
「……迷った」
俺の言葉に女は目をぱちくりとさせた。
「…迷子、ですか?」
「……………」
俺は無いも等しいプライドで顔が真っ赤になった。だが、実際はそうなのだからぐうの音もでない。
「そう、……ですか。なら、私と一緒に山を下りましょう。……その靴では歩けませんね。おぶります。」
「………」
嫌…だった。おぶられる事よりも、山を下りて……彼処に帰ることが
誰にも探されない、捜されもしない、こんな無価値な俺が帰ったところで、所詮
ーーーいや、違うだろう?そうじゃないだろう?
幻がまた姿を現し、耳元で囁く
ーーーお前は、誰か自分を探してくれるんじゃあって、無意味な期待を抱いてんだろ?
ーーー馬鹿な奴、阿呆な奴、可哀想な奴、お前が…1番分かってるくせに
「……貴方は、とてもかわいそうな方ですね。」
その言葉を吐いたのは、幻ではなく…女だった。俺は驚きで目を見開かせる。…女は俺の頭を優しく撫でた後、抱き締める。
「貴方はとても、可哀想な可愛そうな方なんですね。」
そう言って女は、カナしそうに笑う。
次回、まだ続くイインチョの過去
此処でネタバレしときます。この過去話が終わった後でイインチョの生死分岐があります。
最初はend1なのでイインチョは生存しまっせ