体育祭
体育祭⁇なにそれ美味しいの⁇
晴天とまではいかないが、太陽と散りばめられた雲は、6月にしては天候は最高だと言えるだろう。眩しすぎる空を見上げれば、飛行機雲が途切れ途切れに見える。これは良い体育祭になりそうだと笑みを浮かべたが、救急テントに横たわる妖+αを見たら、自然とシャッターを押しそうになった私は悪くないと思う。
「あちぃ……、なあ、俺…溶けてない??消えてない??」
「大丈夫だ、なんか少し背ェ縮んでんけど。」
「なあ、今から雨降らせようと思うんだ。だから誰か俺に嫁入りしない??」
「お前の顔じゃ無理だ。しかも嫁入りって、雨降ったとしてもお日さん残るじゃねえか中途半端じゃねえか氏ねゴミ屑。」
「早く人間にな「言わせねぇよ」……え」
「早くお嫁さんになりた「お前が嫁かよ!?」」
「そうだ。生まれ変わったらセキセイインコになろう。」
妖たちは悲鳴をあげる代わりに呻き声と愚痴と何かを発している。それを少し冷めた目で見ていたのが、その妖たちの中に顔見知り、と言うよりも友達である奈菜子がまるで貞子のように近寄ってきて、軽くホラーだ。
「杏ちゃん、私、生まれ変わったら蝉になりた「貴女まで何言っているんですか。」ねぇ、なんで……こんなに、暑いの?私、此処で死んじゃうの?」
「大丈夫です。水分をしっかり補給して、テントの下に避難してて下さい。そうすれば生き残れますよ。」
そう言いながら、奈菜子の口の中に水を注ぐ。途中で溢れ出してきたが気にしない方向でいく。
「杏ちゃん、は?」
「私は実行委員の仕事として、終わった競技の物品の片付けをしてきます。」
「私も、手伝、う」
「じゃあテントに戻って私の分のお水を持って待ってて下さいね。」
そう言って今頭の回らない奈菜子をテントの下に誘導し、物品を倉庫の中に持って行く。物品は軽い物ばかりだったが、軽い物を纏めて箱に入れて運べばそれなりに重かったため、少し時間が掛かってしまった。
「これで、最後ですね。」
最後の箱を運び終えた達成感に少しだけ浸っていたが、それも束の間、倉庫の外から、何やら男同士の言い争っている声が聞こえる。
「ーーーろ、はーーーーば!!」
この声には、何処かで聞き覚えがある。
だが、どこで聞いたのかは分からない。頭を捻ってみたが何も思い出せない。
私が手を止めながら云々と考えていたら、争っている声が途切れ、突如グジュッと言う不快音と、後から続く狼の群れが肉を食らっているような音が聞こえ始めた。
そして思い出した。これは乙女ゲームにあった場面だと、確か、体育祭でのイベントでだった筈、ならばもう直ぐ
足音が遠ざかって行く音に耳を立てながら、私は近付くであろう足音に耳を澄ませる。
何分か何十分か分からないが、慌てて来たと直ぐに分かるような足音を立てながら
主人公、華宮桜は訪れた。
この体育祭でのイベントは、華宮桜の分岐点だ。
それはハッピーエンドかバッドエンドかではなく、キャラクターを1人に絞るイベントだ。
好感度が高いキャラクターが華宮桜の前に訪れる。
だが、その前に華宮桜は現実を目視しなければならない。自分の父親が陰で行っている行為を。それは、とても血生臭いモノだと、いう事を。
「………ひっ!」
倉庫の外から、息を飲む音と、呼吸が乱れている音が聞こえてくる。ゲームでは有耶無耶に描かれていた描写だが、今は違う。
倉庫の外からでも臭ってくる血と尿の鼻に付く異臭が、これが現実なのだと実感させる。
「あ、…あ、あ…!!」
膝からガクッと崩れ落ちる音がした。それと同時に聞こえた水溜りを踏んだ可愛らしい音が聞こえた。
真っ赤な水溜りは、汚いですよ。なんて…冗談にしてはえらく寒いと思いながら、只々待つ。
彼女を迎えにくる騎士様を
ーーーーーー
おかしい
静かに静かに泣き始めた華宮桜に聞き耳を立てながら、何時までも来ない騎士様を待つ。
ゲームでは、これ程遅い登場だっただろうか?
いや、違う。たしか華宮桜が来て3分も経たない内に来るはずなのだ。
だが、いくら待っても来る気配も、足音すら感じない。
一体どういうことだ。
思考を張り巡らし、原因を探る。
そして、意外と原因は単純明快なものだと分かったのは、私が起こしたあの事件を思い出した時だ。
サッカー部主将がサッカー部のメンバーを惨殺した事件、今思えば、あれで幾つかのイベントを潰した筈だ
。それに加え佐鳥純平の自殺未遂、恋愛イベントなんて、塵となって消え去ってしまったのだろう。
原因が私だと分かったところで、罪悪感など欠片もないし、修正を図ろうとも介入しようとも思わないが…
「き、杏ちゃん…やっぱり手伝……、え?な、何…これ…!!」
どうやら私は、介入せざるを得ないようだ。
次回は体育祭なんて関係なしに生徒会と風紀と杏ちゃんの接触‼︎