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蜘蛛の糸 歯車の破片は突き刺さる(後編)



この話を書きながら思った事、ヤンデレ(大量)の未来しか見えないぞ

いや、違うんです。最初はヤンデレは旦那様だけにしようと思ったんです。けどなんか私の妄想が爆発しすぎてなんかいつのまにかアーー!みたいな事になってなんていうかその


すみませんでした(土下座)




黒乃視点



切っ掛けは何だっただろうか?




いや、切っ掛けなんて最初っから無かったのだ。




その化物は、月が闇雲から姿を見せた瞬間、屋敷を襲った。




屋敷には結界があった。並大抵の妖では太刀打ち出来ないほどの結界が、何重も重ねて作った結界が屋敷を覆っていた。




だが、その結界を何の躊躇もなく破壊し、その化物は堂々と門から入ってきた。




俺と女は屋敷の奥にいたが、悲鳴と破壊音、…命が潰れる音、気付くには十分過ぎるものだった。




女は何かを察した様に、俺を部屋の外の埃だらけの物置に閉じ込めた。そしてこう言った。「朝になるまで、絶対に開けちゃだめです。」俺はその時、自分の能力を使って女の心を除いた。今思えば、無意識にしてしまった事だったのだ。




(カミサマ、…どうして?)




女は悲痛な声で呟いた、ように聞こえた。




そして、その時の俺は女の言うカミサマを、神様と勘違いしていた。




人は何時だって救って欲しい時だけ神様に頼る。幸せな時は誰も神様の存在を忘れると言うのに…




俺は思う。

あの時、女の手を引っ張り、屋敷から逃げてしまえば、俺は女と一緒に、ずっといられただろうか。ずっと、側にいれただろうか。

いや、本当は分かっているのだ。

例えあの時、屋敷から逃げても、女と共にいる限り、あの化物は俺を、俺たちを何処までも追い掛けるだろう。…どこまでも、どこまでも




俺は扉を覗き見出来るほど開け、外を、女を見つめた。

女は、気味の悪い化物と対面していた。

だが、女は物怖じもせず、化物に近付いた。




「……如何して、こんな事をしたんですか…?





ーーーカミ、サマ……」





カミ、……サマ?





あの女は、何を言っているのだろう。アレが、あの化物が、《神様》……?





「テメェこそ、陰陽師に捕まっタと思っタら、監禁さレた挙げ句、俺を待たせやガって、…腹減っテんだヨ」





そう言いながら化物は誰かも分からない足を食い千切り、気色の悪い音を立てながら飲み干す。




辺りは生きていた筈のモノがゴロゴロと転がっていた。正直に言えば残骸と言った方が合っていたし、誰が誰だか分からない。…名前なんて覚えてすらいない奴等だったが。




だが、血の縁とは不思議なもので、この残骸の中に父はいないと分かった。父はまだ、死んでいないと分かってしまった。





ーーー死んでしまえば、よかったのに





今思えば、俺の殺意が急激に膨らんだのは、この時だった。




女は震えていた。まるで喰われそうになっている小動物のように




「…ごめん、なさい。帰ったら、ちゃんと、料理も、洗濯も、掃除も……!ちゃんと、します…。だから、捨てないで、下さい。棄てないで、下さい……!ーーーカミサマ…」




最後は今にも消え入りそうな声だったが、心が叫んでいるように、聞こえた。

俺が、初めて、…聞いた声でもあった。





化物は化物らしい笑みを浮かべ女に近づいた。ケラケラゲラゲラカラカラカラと、女に近づいた。





「…捨てる、…棄てル?俺ガお前を?…キヒヒヒヒヒヒ!!……俺が、テメェを羽ばタかせルと、思うカ?大空ナンカ、見セねぇよ、見せテ、やらネェヨ




契りを忘れるナ、テメェは俺だケを愛セ、ソしたら俺は、……俺ァ、




テメェだけの、カミサマで居続けルさァ」





聞いてはいけない、契りだと思った。いや、聞きたくない契りだった。




吐き気を催すほど気持ちが悪かった。あの化物の存在も、あの化物の声も、あの化物の視線も、あの化物が、女に向ける全てのモノが、気持ち悪かった。




「カミサ、マ……、」




うっとりと、盲目的な瞳で、化物を見る女、俺に向けてた愛おしいと言う母性ではない、重く暗い…まるで鎖のような愛だ。




そんな愛を向けられている化物が、羨ましくてしょうなかった。それは正しく、俺が恋い焦がれ続けた、女に求め続けた愛だった。




女と化物は、残骸を踏み潰し、出ていった。化物が一瞬目玉をこちらに向けたが、気の所為だと思いたい。

女は俺を一瞬ではなく、ちゃんと見て、口パクで呟いた。「大丈夫、大丈夫、貴方はもう一人で、戦えますよ。」と、それは何よりも残酷な言葉だった。




朝日が登っても静かな屋敷を見て初めて俺は、これが現実なのだと思い知る。




これからどうしよう。そう思う間も無く、門から入ってきた父が俺を怒鳴り付ける。




父は幸い出掛けていたようだ。その手には土産の着物、簪、あの女に買ったものだとわかる代物があった。





父が怒鳴ったのは、この残骸の事じゃなかった。あの女の気配が無くなっていたからだ。




父は俺の首を絞めた。憎々しげに、俺が生まれた時のように




「あのお方を縛るための道具として生かしておいたのに……この役立たずめ!」




その言葉を聞いて、俺の中の何かがプツリ、と、静かに切れた。

本当は分かっていたのだ。父は自分を愛してくれない事も、俺を俺として、愛してくれない事も、分かっていた、つもりだったのだ。




けれど、目の前でそれを言われた俺は、自分が思っている以上に限界だったらしい。気付けば俺はーーー父を殺した。





首を絞めた手を爪で突き刺し、目を潰し、悲鳴をあげないように喉を潰し、ーーー首と胴体を2つに分けた。




父を殺した。筈なのに、涙は枯れ果てたように、一粒も流れなかった。




いや、違うか。




俺は、あの女の事しか、考えていなかったのだ。




ーーーーーー




あの女がお彼岸太夫だと知ったのは、あの糞爺のお陰でもあった。




あの後、路頭を彷徨いながら、只々あの女を探していた俺を拾ってくれたのが、糞爺だった。




最初の頃は、恩を感じ、敬意を払っていたが、あの女を、お彼岸太夫を探している事を知った時、心の中では俺を道具としてしか見ていないと知ってしまった時、恩も糞も無いなと、実感した。

けれど、糞爺が俺を道具として見ているのなら、俺も糞爺を利用してやろうと思った。




糞爺は生きたままお彼岸太夫を手に入れたい。だからあの化物を殺そうとする。お彼岸太夫を手に入れる為には、あの化物は厄介な相手だからだ。




けど、俺は考えた。お彼岸太夫を生きたまま手に入れようとするから、手間が掛かるのだ。なら、






お彼岸太夫を、ーー殺そう






けれど、自分の手を染める訳にはいかない。染めてしまえば、化物に臭いを辿られ、俺が殺されてしまう。




なら、あの義娘に殺させよう。あの娘がお転婆、じゃじゃ馬な奴だと、初めて会った時からすぐに分かった。だから、いつかあの離れに行くと分かった。全て分かった上で、あの部屋を見させるよう、仕向けた。





あの義娘には『一番罪深き存在』と遠回しに言ったが、そんなの、お彼岸太夫に決まっている。




お彼岸太夫は、俺と同じ、生まれた事自体が罪深いのだから。


そして、生き続ける事自体が罪深いのだから。




お彼岸太夫の文献は少ないが、父が狂ったのも、糞爺を狂わせたのも、全てお彼岸太夫だ。…もしかしたら、あの化物も狂わせたのかもしれない。




例え無意識だろうが、意識的にしている事であろうが、全ての元凶は、お彼岸太夫なのだ。





あの義娘は真実を知ればお彼岸太夫を選ぶ。なんの根拠もないのに、確信した。





あの聖銃は魂を撃つ銃だ。肉体を破壊せず、魂だけを壊す。





お彼岸太夫の死体は美しいのだろう。例えもう二度と声が聞こえなくても、もう二度と笑いかけてくれなくても、もう二度と、名前を呼んでくれなくても、俺はお彼岸太夫を愛すだろう。




お彼岸太夫の死体を睡蓮の咲く池に浮かせて、口付けをする夢をよく見る。その姿に興奮し、眼が覚める。

目覚めた後、俺は夢精をしたことに気付く。




俺ももう、お彼岸太夫という存在に狂った者の、一人なのだと、実感する。







懺悔

黒乃くんが思ったよりも変態になりました。懺悔します。


蜘蛛の糸はこれで終了です。

次回からは、第2章 中心と元凶をお届けします。

お狂ちゃんと主人公ちゃんを対面させます‼︎‼︎




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