蜘蛛の糸 歯車の破片は突き刺さる(前編)
やっぱアレですね。ヤンデレって、良いですね(なに言ってんだ此奴)けどヤンデレ(複数)は求めてないのです。あくまでヤンデレ(純愛)を求めている、のに……‼︎‼︎
なんでヤンデレ(大量)になってしまうんだろう
黒乃視点
罪とは何だろうか?
罪を犯す事は何故許されない事なのか?
罪を犯した後、許されるのは何故だろうか?
罪の重さを計ろうとするのは何故だろうか?
幼い頃、俺は罪を犯した。
実の父を殺した。
後悔はしていない。俺の父は俺が生まれた時にはとっくに狂っていた。
俺の父と母の恋は許されないものだった。
父は陰陽師、母はサトリという妖、陰陽師と妖の恋なんて……、事実は小説よりも奇なりとは、まさしくこの事だ。
それでも二人は愛し合い、睦み合い、ひっそりと、ひっそりと、誰にも内緒で交際していた。…あの女に、会うまでは
あの女は父が保護した者だった。何故保護したのか、今ではもう分からない事だが、もしかしたらその時にはもう狂ってしまってたのだろう。
陰陽師の父は女を見張っていた。ずっとずっと、母もその任が終わるのを今か今かと待ちわびてた。母はその任が終わったら父に言わなくてはいけない事があった。それはーーー赤ん坊が授かったこと…つまり俺の事だった。
母は待った。ずっと待った。春が過ぎ夏が始まり秋を越え冬が終わっても、母はずっとずっと待った。
…母が異常を察したのは、俺が生まれる筈の一月前の事だった。母は余りに遅い父を待ち兼ねて、陰陽師の屋敷に忍び込んだ。自分の能力を駆使して、屋敷の中を探した。愛する男を、探した。
だが、母が見た光景は、小さな部屋の中、あの女を押し倒し、愛の言葉を囁き迫る、父の姿だった。
母は怒り狂い、父を殺そうとした。泣き叫びながら、喚きながら、それは余りにも悲痛な号哭だった。
だが、母は父に殺された。そして俺の存在に、腹の膨らみに気付いた父は腹を裂き、俺を引き摺り出した。…忌々しそうな顔をしながら。
此処まで俺はまるでその場を見ているように話したが、これは俺がサトリという妖の血を引いているのが原因である。サトリは生まれる前から自分の能力を駆使できる。本能的に、まるで動物のように。
ーーーこの能力さえ無ければ、俺は純粋無垢の赤ん坊で、いられただろうか。
そんな事を思っているなんて知らず、その能力に利用価値を見出した父は俺を育てた。いや、育てたと言うには余りにも酷い仕打ちだった。言葉も字も教えられない。食べ物も飲み物も与えられた事など無かった。
父……陰陽師の奴らは妖を何だと思っているのだろう。食べなければ、飲まなければ、妖だろうが死んでしまうのに……
そんな仕打ちを強いられていた俺が此処まで成長したのは、皮肉にも母を不幸にし、父を狂わせたあの女のおかげだった。
女は父に監禁同様の生活を強いられていた。「まだ駄目だ。」「まだ妖が狙っている」「危険だ」そんな言葉で女を縛り付けたのだ。…妖の穢れなど、その時には無に等しかったというのに。
女は父の目を盗み、俺を育てた。俺が赤ん坊の頃は自分の飯をお湯で温め、米粒を一つ一つ潰し、俺に食わした。正直に言えば不味いし食いたくもなかったが、これを食わなければ俺はここで死ぬと本能的に分かってしまったから、嫌々食った。「乳が出なくてごめんなさい…」と哀しそうに笑う女を、今でも覚えている。
俺が立てるようになった頃、俺はサトリの血を半分引いているせいか、言葉もしっかりと話せるようになっていた。
その頃の俺は随分捻くれていたと思う。人の不幸は喜んでも人の幸せを喜べず、口から出る言葉は暴言・嫌味ばかり……そのせいか周りの陰陽師の奴らも、陰陽師見習いも、俺を軽蔑し、俺を迫害した。…それが無くても、妖の血を引いている俺の環境は変わらなかっただろうが。
そんな環境でも女は何も変わらなかった。女だけは変わらないまま、俺に愛情を注ぎ、まるで母親のように振る舞った。俺はそれを嫌悪した。気持ち悪くてしょうがなかった。嫌だ、止めろ、違う、俺の母はたった一人だ。そう叫びたかった。けど、それを言ってしまったら、あの女はまた、哀しそうに笑うんだろう。そう思ったら、何も言えないまま時が過ぎた。
……春が過ぎ夏が始まり秋を越え冬が終わって、また春が過ぎ
俺はある質問をした。それは餓鬼にしては余りにも気味の悪い質問だっただろう。だけど、如何しても聞きたかった。
「生まれる事自体が罪な者と、生き続ける事自体が罪な者……、何方の罪が重い?」
俺の罪は、生まれる事だった。
生まれなければよかった。
生まれた事は、俺の1番の罪だった。
あの女は酷く驚いた顔をしたが、気持ち悪いというような顔はしなかった。女は少し考えた後、こう言った。
「どちらも……同じですよ」
「生まれる事が罪なら、生き続ける事も罪になるし、生き続ける事が罪なら、生まれる事も罪です。」
「だから、おんなじなんですよ。」
そう言って女は微笑んだ。
その言葉に、俺は不思議と、救われたし、絶望もした。生き続けることが罪な者、昔の俺は、罪を犯した者をそう呼んでいた。俺は自分とそいつらを比較したのだ。
俺の罪は罪人の罪と同じ重さだった。つまり俺の罪は許されるものだったのだ。それは俺にとっての救いだった。けれども罪である事には変わりないのだ。俺は一生、罪に苛まれ続けるのだ。それは俺にとっての絶望だった。
救われた筈なのに、締め付けられるように苦しい
絶望した筈なのに、酷く甘い傷跡だ
俺はその言葉に依存し続けた。それは、今も此れからも変わらないだろう。
それと同時に、気付いてしまった。
女に、救われ、絶望した、あの瞬間から、俺はもう………
父と、同じ事になっていたのだろう。
次回、黒乃編後半、久し振りの旦那様出てきます‼︎‼︎
此れからもこの作品をどうぞ宜しくお願いします。