第2話 ナムスと古い書
「────君? 拓斗くん」
「!?」
「よかった。気がついた」
僕が目を開くと、心さんがほっとした表情になっていた。
「ここは?」
「分からない。私たちの世界なのか、ナムスなのかも」
「…………そっか。ん?」
上体を起こすと、一つのタワーが目に入った。
塔の上層部には角のようなものがついており真ん中には目のような形の穴が空いている。
人間が作ったようだが、少し違和感がある…………。その気持ちに心さんの言葉で気づく。
「なんだか、あのタワー……暗いね」
「確かに」
なんなんだろう。タワーから感じる恐怖心は……
「おい、あんたらそこでなにしてんだ」
タワーを見ていると、近くのお爺ちゃんが声をかけてきた。ここで、僕達が小さな町の道ばたに立っていたことに気が付く。
「いや、何をしてるって言われても…………」
「あんたらも早く隠れろ! でないとヤツラが来るぞ!!」
「「やつら?」」
詳しく聞こうとしたが、お爺ちゃんは早く逃げなさいよと言ってその場を去った。お爺さんの後ろ姿を見送ったあと僕は口を開く。
「やつらってなんだろう?」
心さんの方を見ると慌てている表情になって僕に向かって指を指す。
「拓斗くん! 後ろ!」
「ん? どうしたの? 心さんってうわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドォン!! パラパラ
「な………………何、これ」
「なんか、隕石みたいなのが降ってきたよね」
ギリギリ避けることが出来たけど当たったら即死の威力だった。
その証拠に落ちた所にクレーターが出来てるよ…………。
「ふぅん。この技を避けるなんてね」
「だ……誰だ!」
僕達は周りを見渡す。でも、人っ子一人いない。
「ここだよ。ここ」
「ここってどこに────!?」
僕は驚きを隠しきれない。男の人が浮いてる。慣用句の意味じゃなくて、空中に立っていた。
とてもじゃないが人間の力じゃ無理な光景だ。
…………ってことは
「悪魔なのか?」
「ん? 僕らを知らないのか? まあ、いいや。消えろ」
「いきなり!?」
唐突な発言に僕はとっさにツッコミをいれてしまった。
それがトリガーになってしまったのか男は先程の岩を次々と僕の方に投げようとしている。
僕は心さんをドンと押し、僕自信も心さんと逆方向に走り、距離をとる。
「拓斗くん!」
心さんの声が聞こえるが今は構っていられない。
男が攻撃を当然のように僕に仕掛けてきた。
男が放つ隕石をギリギリではあるが、避け続ける。
流石に運動部に所属してただけはあるよね。幽霊部員だけどね。
「よっと、おっと」
「く!? ちょこまかと」
さすがにいらいらしている様子の男の人。
それでも、僕は避け続ける。
「このやろう。そっちが駄目なら…………」
男の人は僕に当たらないと踏んだのか心さんの方に体を向けて、隕石を作り始めた。…………まさか。
僕は一つの考えが頭に浮かび、頭で行動する前に体が動いた。心さんに向かって。
それと同時に男が叫ぶ。
「君の方から消えろぉぉぉ!」
手から放たれた隕石がみるみる心さんに迫って来る。心さんはさっき僕が押してしまったため経垂れ込んでしまったままだ。
まずい!間に合わない!
「絶対世界」
僕は、気が付けば両手を上げて能力を発動させていた。ゲートは僕の両手を離れて心さんの前で止まった|(僕が念じたから)
そして、一つの言葉を思い浮かべる。
『跳ね返し』
この影響で心さんに向かっていた隕石がゲートの力で跳ね返り結果…………
「ぐふぉあ」
男の人が自分の魔法でダメージを受けてしまう始末。ある意味悲しいかも…………。
その間に心さんの元へ駆け寄る。
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう」
とりあえず、パッと見て外傷は無いようだ。若干、頬が朱色に染まっているような気がしたが。
「許せねぇ…………」
心さんを立たせていると、男の人が苛立ちを僕にぶつけてくる。それを確認した僕は心さんを庇うように立ち位置を変える。
「お前だけは、ぜってー許せねぇ」
「流石に今のは自業自得でしょう?」
「た、拓斗くん?」
心さんは僕の口から放たれたトゲのある言葉に少し違和感があった感じでこちらを見ていたが今は気にしている余裕はなかった。
僕は物凄く怒っていた。 男の人の…………いや、悪魔の行動に。
「てめぇ、痛い目見ねぇと分からねぇみてぇだな」
「どうでしょう。少なくともそっちが痛い目見ると思うけど」
「…………言わせておけば勝手なことを」
「言っては悪いですか?」
「! もう許せん! 捻り潰す!」
このように言い捨てた悪魔は先程のように隕石を作り、こちらに投げ始めた。しかし、僕は動じなかった。
使うか使わないかじゃない、使わないと守れない。少なくとも今はそう思えた。
「絶対世界!」『消滅』
僕は、岩ほどの大きさの隕石の十倍のゲートを作り、ゲートを通る隕石を次々と消していく。
「くっ、さっきの技か」
「立ち去りなさい」
「はぁ?何を言って──
「少なくとも今の貴方には僕は倒せない」
「おいおい、だから俺を逃がそうってか? それは、傑作だ」
悪魔は爆笑している。警告したけど逃げないようだ。なら、仕方ないか。
「絶対世界展開(ワールド・イズ・マイン―オープン―)」
僕は次のように唱えると悪魔をゲートで閉じ込めた。さっきと違い、誰にでも見えるゲートで。
「おわっ、なんだこれ」
「警告を無視したことを後悔しなさい。『消滅』」
「なんだ少しずつ小さく──ちょっ、待て頼む無かったことにぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
「仲間を傷付けようとしたことによって君は怒らせたんだよ。この僕をね。その意味を噛み締めて消えるがいい」
僕が言い切った直後にポンとゲートが消え、悪魔の姿もなかった。
「…………勝った」
口にして思わず経垂れ込む。隣にきた心さんは「すごくかっこ良かったよ」と誉めてくれたが、正直死ぬかもしれないと思っていたから勝ったことをまだ受け入れられない。
すると────
「き、君!」
「はい?」
後ろを振り向くと、先程のお爺ちゃんが顔を蒼白にしてこちらに声をかけていた。…………な、なんだろう。
「今、悪魔が来なかったかい」
「(スクッ、パンパン)」「悪魔さんなら、拓斗くんが倒してくれました」
立ち上がり埃を払う僕に変わって心さんが答えてくれた。
それを聞き、お爺ちゃんの表情が和らいでいく。 えっと………………。
「それがどうかしましたか?」
「……………………え」
「「え?」」
「英雄じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「はい? いきなりなんですか?」
「皆の衆、村に英雄がお越しになったぞ」
聞いてないし。しかも、いろんな建物の中から村人が三十数人出てきたし。
「あのすいません。とりあえず説明をってうわぁ」
「ありがたや、ありがたや」
なんか、神様みたいな気分になってますけど!? 何? どういうこと?
「………………(ギュッ)」 心さんも同じ状態でなおかつ不安なのか僕のシャツを握ってます。本当に何なんだ?
結果的に村人の興奮はおさまらず、三十分かかりました。止めるのに…………。
☆
「……」
「ささっ、拓人さま。もっと食べてください」
「…………いや、もういいかな」
流石に無理がないか?
「まだまだありますからね」
「あ………………ありがとう」
もう苦しい。助けてくれ。この思い伝わって! 悪魔を倒したとこまでは良かったよ。でも、村人のおもてなしがきついほど来る。 料理なんて何十人分の数あるだろ。
まぁ、ありがたいけど…………。
「それより、ひとついいかな」
僕は、自分の席にいる向かい側のお爺ちゃんに話しかける。
この村の村長で僕たちに注意を呼び掛けた人だ。
「なんだね?」
「ここは、なんですか?」
「……………………………………………え?」
僕の突然の質問に村長だけでなく、村人も固まってしまった。…………何で?「お主ら、知っててここにいたのじゃないのか?」
「いや、知らない」
「では、なぜ奴を倒したのだ?」
「さぁ……僕たちの仲間と合流するまで、生きてないといけないし」
「それだけと言うのか」
「まぁ、あと一つだけ言うなら…………」
「なんだね?」
村長が重い表情になって聞き返してくる。でも、僕は自信を持って答えた。
「アイツの顔が気に入らなかったんだ。なんかよく分からなかったけど、何かを楽しむかのようなあの顔」
ちらっとしか見えなかったが、隕石を避けている僕を見て、喜んでいるように見えた。…………正直、あれが気にいらなかった。
超能力を使いたくなかったけど、あのときは使わないといけない感じがした。
『……………………』
「…………あれ!?」
気がつけば、全体が|(心さんも含めて)ビックリするほどの静寂になっていた。なんか、気に触ったかな?
少し焦っていると、村長がこの静けさを壊すように笑った。
「わははははは。面白いのう。お主」
「え!? 何でですか?」
真面目な話をしているのに何で笑うんだ?
「すまんすまん。悪気はないんだ」
「では、何ですか」
「いや、ナムスに住むわしらにとって悪魔は恐ろしい存在。それを、そのような理由で倒すとは大したものだと思ったのじゃ。」
「………………」
そのような理由でっていうところに若干引っ掛かったけど気にしない。とりあえず、ここがナムスなんだということを、理解できたし。
「おい、あれを持ってこい」
村長は近くにいた村人にこのように声を掛けた。
「???」
僕も心さんも何が起こるか分からない表情になっている。すると、先程の村人が古い分厚い本を抱えてきた。
村長はその本を受け取り、次のように述べ始めた。「こいつは、我らの村の宝である本なのじゃ。言い伝えでは、能力を持ちし人間に持たせると良いと書いてあったのだ」
「能力を持ちし人間……」
「そうじゃ。能力を持つものはおそらく、お主のことじゃ」
「ぼ…………僕?」
「この本に手をかけてください」
村長が僕に本を差し出す。村長に言われた通りに表紙の部分に手を置く。
すると…………。
突然本が光始めた。相当な光の量だ。
「な、眩しい」
慌てて腕で目を隠す。それでも、光続けていることがわかる。
しばらくして、光が収まる感じがして、そっと腕をどかす。本はなにもなかったかのように村長の手に収まっていた。
「…………」
なんだったんだろう……今の光は…………
「言い伝えの通りじゃな」
「え!? どういうことですか」
村長は僕の質問に答えるように、本の表表紙を見せてきた。
!? なんで!? どうして…………
「…………表紙のタイトルが僕の呪文と一緒に……」
「絶対世界。それが、お主の力なのか?」
「……はい」
「この本は、能力を持ちし人間に持たせると、そやつの覚えた能力が書かれるのじゃ。そのため、タイトルがお主の力の名前が刻まれたのだ」
「………………」
ヤバい、言ってることの半分も分からなかった。えっと、つまり、自分の超能力をその本が記録してくれるって考え方でいいのか?
「ほれ」「え!?」
気が付けば村長が本を僕に差し出していた。
「これはもうお前さんのだ」
「…………これは村の宝では」
「構わぬよ。この村を救ってくれたお礼じゃよ。これを使って様々なところに行き悪魔を退治するのも構わない」
「し、しかし…………」
「わしらは賭けたいのじゃよ。お主の力に」
「…………いや、」
僕は村を救っていないと続けようとして、言葉を飲み込んだ。村人の皆さんも真剣な眼差しをこちらに向けていたからだ。僕のことを信用している気持ちが伝わる。
「僕だと皆さんの信頼に答えられないかもしれないですよ」
「いや、それでも託したい。わしらの宝を」
「!?」
村長の言葉に何も言い返せなかった。
覚悟の上で、僕を頼ってくれていたからだ。こんな感じは今までなかったから。
だから…………
「ありがとうございます。使わせていただきます」
「うむ。じゃあ宴を再開じゃ」
僕が本を受け取るところを見届けた村長は笑顔で村人に声を掛けていた。
「拓斗くん」
本の表紙を眺めていた僕に心さんが声をかけてくる。
「ん? 何?」
「皆さん、ものすごく優しいですね」
「そうだね。だから………………」
だから、この人たちが笑顔であり続けるために、僕は悪魔と戦うことに決めた。
「拓斗くん?」
「いや、なんでもないよ。さぁ、食べよっか」
「うん」
僕たちも宴を楽しむことにした。お腹が一杯だということも忘れて。
結果的に宴は暗くなってからお開きになった。
☆
「………………」
その夜泊めてもらうことになった村長家の空き部屋(心さんは村長の奥さんの部屋に寝泊まりらしい)で、僕は本のページをめくり考え事をしていた。
「(この本に書いてあるのは僕が使える力だよね…………じゃあこれも………………)」
感想や評価をお待ちしております。
次回も楽しみにしていてください。




