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異世界に召喚されたので、ちょっとだけ両親に復讐してやった

ぽっと思いついたが吉日の話。

この世界に召喚されてから、幾星霜。

どれだけの歳月を経たのか、さっぱり分からないが、

しかし、これだけは言える。


「いぇええええ!

 やったぞぉおおお、

 やっと、ドラゴンと契約できたああああああ!!」


俺は、存分に異世界を満喫している。

名のある召喚士、として。





生まれながらにして、俺は、

死にたがりだった。いや、鬱傾向にあった、

といえばいいのだろうか?

基本的に運というものがなかった。ついてない日々を送っていた。

まず、両親が家にいない。

……おーけー、おーけー、まぁ、家庭に少々の不協和音がある、

って程度だと思うだろう? そうじゃないんだ、

飯も置いてないんだぜ? ワイルドだろ?

小学校のときから、そうなんだから、もう、ね。

こう、小さい時から、おやつどころか食べるものがなかったもんでね、

幼稚園児の頃は、まぁ、ばーちゃんがいたから、まだマシだったんだが、

天寿を全うしてしまって途方に暮れた小学生時代、

平日昼に出される給食が、もう、

お代わりしまくりの、なんだのと。つまりは、命綱、って訳さ。

まあ、給食費はちゃんと支払ってたみたいだから、

そこんとこだけは、親に感謝して……やりたいのだが、

気持ち的に、あれ、これってどうなの?

って感じだよね。マジで。顔だって覚えてねぇし。

どんな面してたっけ、ってボヤケたイメージだよ。幼稚園児よりも

はるかに昔、まあ、きっと会ったことはあるんだろうけどな。

家だけさ、あるのは。

がらん、とした家。もはや誰もいないが、

建物だけは、ごくごく一般家庭にある普通の家だ。

町内会費とかは、会長さんが代わりに内々にしてくれてたらしくって、

それを知らなかった俺、高校生になってマジ泣きしたね。

てか、銀行口座から引き落としになってないお金以外の支払いって、

全部、周りの大人たちがやってくれてたみたいでさ……。

ばーちゃんのお友達とか、ばーちゃんの縁故ある人とかさ……。

なんで灯油がちゃんと支給されてるのか、当たり前のことだと

ばかり思ってたんだよね。まあ、餓鬼だからしょうがない

部分もあったにしろさ……、しかしさあ。

俺、恥ずかしくって!

申し訳なくって、両親を心底恨んだ。

おまけに行方不明だし! どこいったんだ、あのフーテン。

仕事はしてるみたい、だが、職場も行方不明だし……、

心臓バクバクいいながらも、両親恋しさに、

薄汚いメモにある走り書きにかけてみれば、

おかけになった電話番号は現在使われておりません、なんてさ、

どんだけ当時小学生の俺を憤死させるつもりだよ、まったく。

あれから、両親はあてにならんもの、路傍の石だと認識、

地道にアルバイトをしながら、日夜、稼ぐことに熱心だった。

まあ、稼ぎ出したのって、小学校高学年の時だったけどな。

ちょっとしたお小遣いが、夏休み、冬休みの食費になるから、

俺、すんげぇガンバったぞ。草取りから、ガラス拭き、荷物運びになんでもござれ。

でもまあ、次第に。

やる気がなくなっていったのも事実だ。

俺、そもそもなんのために生きてんのか。さっぱり分からなく

なってしまったんだ。家族がいる当たり前の家と、

物さえ売り払った、がらんと広々な隙間風の入る我が家。


「はぁ」


そんな俺が、何故かやってきてしまった異世界で、立派な召喚士様とはな!

ぐりぐりと、髑髏の杖の先っちょを、さっきから蠢かしている俺様。

まぁるい円を描き、中に古代文字をいくつも書き綴る。

いや、古代文字、っていうけどさ、これ、どうみても

日本語をローマ字で書いてる、だけなんだけどね。

んで、俺様が今、書いてる字ってのは、

ーkusare ryousin seibaiー

ってローマ字だ。どうよ、野性的にかっこいいだろ?

んで、つけたしに、

ーdoragon de kowagaraseru bakaoya hanseisiroー

って書いといてやった。


「ふふん」


いい汗かいた俺、すごく爽やかな笑顔で袖口を額に押し付けて、


「ぶふっ」


噴きつつ。


「ぬっふ、ぶふ、くくく……」


含み笑いをした。

さあ、発動してやる、してやるぞ。

にやにやと、

俺様、最高にいい悪徳顔で、魔力を込める。

ぱあ、

っと。

虹色に光る、足元の魔方陣。


「くくく、ふ、ふぁーっ、はっはっはっはぁ、げほげほげほげ、」


そして、咳込む俺。

そうして、変わる、世界。

仰ぎ見ると、びゅうう、と。

吹き付ける二つの風が、虚空を描いた。


「はぁ、……超、すっきり」






ここは、アルジラ魔法帝国。

その皇帝は、好色で知られていた。

今日も今日とて、彼の回りは美女を侍らせ、

腕の中には美少女、足元には猫耳、ウサギ耳が妖艶な体を横たえ、

背中にあたるそこには、とんがった耳のミステリアスな美形が、

甘ったるい香水を漂わせている。

そのど真ん中、玉座に座り込むは、

どんな種族も女であれば関係ないと、豪語する大の女好き。

……権力で、その掴んでるオッパイをものにしてるのかと

思いきや、見目が素晴らしく端正な、美丈夫で……、

魔力もありあまるほどの強さを持つ、魔帝国の王であるからして、

政治も安定してるし、国民も、まあ、この帝王ならしょうがない、

と半ばあきらめつつも、ちゃんとやることはやってくれてるし、

先の戦争を無事終わらせた英雄でもあったので、

今のところは目を瞑っていた。

その帝王の座っているゆったりサイズの玉座の前は、

段々畑の階段があり、通称お偉いさんへの謁見室と呼ばれる広場で、

豪奢な調度でしつらえた、華美なほどに赤いじゅうたんが

真っ直ぐにひかれ、魔帝国の王へ頭を垂れる

数多の人々でごったがえしていた、はずなのに。

というか、今日は、無礼講のパーティであったはず、なのに。


「……なんだ、これは」


ドラゴンが、座り込んでいた。

ちなみに、パーティに出席していたはずの貴族たちプラス、

美女軍団らは、皆、我先にと、逃げ去っていた。

みし、と音がする。

どうやら、ドラゴンの重みに耐えかねた床が、

軋んでいるようだ。

で、落ちた。ドラゴンが。派手な音を立てて崩れ落ちる、

パーティ会場兼、謁見の床。

鋭い目がついた頭部だけが、帝王をぎろりと睨んでいる。

どうやら、長さ的にちょうど、ぴったりと床の高さに

合ってしまったようだ。

何故にドラゴンと視線を交わさねばならぬのか。

魔帝王は、ぽつーんと置いてけぼりの心境でいた。


「ギャース」

「……どういうこと」


魔の国の英雄帝王、ぽかーん、と口開く。

耳触りの良いバリトンが、だだっ広い室内に木霊する。



一方、セレスティバイン聖王のおわす聖なる国、

ここでも同じくドラゴンが、どっしりと。

その大きなおしりを、聖王の前に晒していた。


「な、んですかこれは」


聖王は可憐な美少女であった。

彼女は、前にいる、ドラゴンの異様さに瞠目する。

いくら聖女として英雄と共に世界を救った彼女とはいえ、

ドラゴンは魔界にしか住まない最強の魔物。

人間の世界に現れるとは、そうめったにないことだと、

認識していたし、民に影響がないかと不安にもなる。


「これはドラゴンですね」


隣で儀礼的に口をはさむ、聖王の補助をする

美形補佐官がそう言った。ちなみに男だ。


「いえいえいえ、それはわかりますが……」


聖王は、そんな冷静な彼の言葉を耳にしながらも、

まじまじと、そのドラゴンを見つめる。


「あの肩にある紋章、あれは……」

「契約の証ですね」

「まさか、そんなことが……」


聖王は呆気にとられつつも、その紋章に釘づけとなった。


「何やら、見覚えが……」

「聖王様、ここは退去なされたほうがよろしいかと。

 ……聖王様?」


補佐官は、部下として正しい判断にて、そう告げたが、

聖王は、すっくとその儚げな体を玉座から立ち上がらせ、

じっと、契約の証を凝視する。

盛り上がるドラゴンの筋肉にくっついて離れぬ、

あの紋章。聖女の心に、じわりと温かい泉が膨らむ。

かつて、胸に抱いた幼き子。ミルクの匂い、かぐわしい、

そして、モミジのようなお手て。柔らかな感覚が蘇ってくる。

聖王は、両手を擦り合わすかのようにして、すぐに祈りの形をとった。

今にも崩れそうな、その指先は震えている。


「あれは、我が家の家紋……」


そうして、同時期に。

魔帝国の王も、動揺した眼差しで、同じ言葉を紡ぐ。


「家紋だな……、

 まさか……」


二人同時に、同じ時刻、

やけに鮮明な顔を脳裏に浮かべていた。

おぎゃーと泣いた、その日から。

ずっと、胸に刻んだ、ひとりの命。


「息子が……」

「来たのかしら……?」


途端、二人は、きっと鋭い視線を投げて。

同時期に、それぞれ得意な得物である聖杖と、魔剣を携え、

ドラゴンに差し向けた。


「てめぇ、俺の可愛い馬鹿息子の居所吐いてもらおうか」

「ふふふ、わたくしの可愛い赤ちゃん、どれだけ大きくなったのかしら」


英雄王と、聖王。

二人は、まさに、犬猿の仲で。

日々小競り合いをし、繰り返し、互いに一歩も引かぬとばかりに、

ありとあらゆる摩擦を生んでいた。

かつては仲睦まじかったはずの、親馬鹿両親であったが、

息子が行方不明となって以来、あっという間に冷ややかになっていった。

それこそ、戦争一歩手前に至るまでに。

修復不可能、

それは、他国の見立てであった。

大国の王たちの、一人息子の喪失。

それは、二人の間を取り持つ、唯一の証でもあったし、

大国二つをつぶしてしまおうと謀略張り巡らす、

恐怖の証でもあった。

平和、あるいは戦争まっしぐらになってしまうかもしれぬ、


「へぇっくし!」


その最大要因の一つである息子が、盛大にくしゃみをし、

呑気に鼻をすすっていた。

かの二大大国の狭間で、今後、とんでもない目に遭うことを、

争いの種をまいてしまったことを知らずに、ぼけっと棒立ちのまま、

魔方陣が飛ばした二つの方角を眺めている。


「……なんだろう、復讐してやったのに、

 なんか……、寒気がするぞ」


驚かしてやるだけで十分だった、息子。

その行く先は、明らかに面倒なものが広がっていた。


「そうだ、豚汁食べよう」


うん、などと。

のんびりとした足取りで、寒い寒いと言いながら、

ほったて小屋へと向かっていった彼は、

今後、どのような運命を辿るのか。それは、本人さえ知りようのない未来。

いずれ判明する、世界の足音。

ということで、両親は大国の王でした、というオチ。

なわけで、息子は、親馬鹿両親にキラキラネームを押し付けられつつも、斜めにかわしながら、戦争回避に尽力していきます。んで、二つの大国に不満を持つ小国のとりまとめをし、平和な時代を築いていく、という感じです。また、現実世界で一人暮らしを幼少みぎりからしてますが、ばーちゃんの知人の助力と、魔法的な加護とやらで、児童相談所のお世話にはなってないです。

※ちなみに、紹介文(あらすじ? ですかね)、めっちゃ長いですが、異世界にて初対面したパーフェクト両親がここまで親馬鹿だとは思わなかった、びっくり! な息子の心境です。小説本文読んでから、また見直すと、別の面が見える……かもしれません(笑

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっ(笑)親バカ(笑)超続きが読みたいです! 特に再会の場面と、その後の溺愛の場面。
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