05 出陣
「ハルキアとは組めなかった・・・敵が増えるわけだ。」
バヌーク砂漠の北の端に質素な陣を構え、テジンは頭を抱えていた。テジンは今回、対トルキア戦のダルキア軍総大将として国王の命令でここに来た。トルキア軍は六十万。対してダルキア軍は四十万。仮にハルキア軍と組んだとしても八十万ほどだ。しかしハルキアと同盟が組めなかったので、実質的には百万の軍勢を相手にせねばならない。
「しかし、向こうから仕掛けてこない限りはハルキアを相手には回さない。」
ハルキアからここにはクナ姫が来るらしい。出来れば同盟などなしで共に戦いたい、いや、むしろ守りたいが、叶わぬことだろう。だがクナ姫ならたとえ共に戦わないとしても、むやみに敵を増やすことはしないだろう。
「王子、ウ゛ィダン国から援軍が参りました!」
衛兵の声と共に、一人の大柄な男がテジンのテントに入って来た。重たそうな銀の鎧をガチャガチャと言わせている。よく日焼けした角顔の髭男は、兜の下から細い目でこちらを見ている。目が合うと、うやうやしく一礼した。
「ガリシク殿!」
テジンが立ち上がる。男と握手を交わした。大きな手だ。岩のように硬い皮膚だ。
「テジン様、お久しゅうございます。ウ゛ィダン王国風使いガリシク、盟友ダルキアの危機を知り、ただいま参上いたしました。」
ウ゛ィダン王国はダルキアとの、いやルキア王国との同盟国だ。ガリシクは兵士であり魔術師で、風の使い方はずば抜けて上手い。
「遅ればせながら三十万騎を率いて参りました。」
「ありがたい。」
それからわずか数日後、開戦の日。テジンは代々ルキア王家に伝わる白い衣を身につけ宝刀を持ち、自ら出陣した。ゆったりとした衣は祖国の清流に降り注ぐ満月の光を集めて作られていて、下手な鎧よりは遥かに丈夫だ。砂地をものともしないスナアシにも防御呪文をかけた鎧を着せた。馬面の額には鋭い角のついた兜をつけ、大きくて丈夫な蹄をもつ脚には布を巻いてやる。スナアシは機動力に優れるが、薄緑に紅い目の身体は砂に映えすぎるのが問題だ。更に鎧は銀だ。まあ仕方ないか、とテジンは諦めていた。目立たない砂色の鎧を作らせてみたところ、すこぶる評判が悪かったのだ。
本陣にはナルーを残し、テジンはダルキアとウ゛ィダン、それに後から加わった水の国カシューシクの騎馬軍を率いて北と東からトルキア軍を攻めることにした。テジンは砂漠の真ん中を通って東からトルキアを攻め、北からはユグリムという年配の将軍を進め、挟み撃ちとまではいかないが、トルキアを混乱させる計画だ。ああ、ハルキアと同盟さえ組めれば楽なのに。




