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砂漠の月  作者: 沖津 奏
32/41

32 魔術師ザード

 がらがらと音を立てて、瓦礫の山が崩れていく。ダルキア軍とハルキア軍が協力してテジンを探していた。

 クナは涙を流しながらも怪我人の手当をした。治癒魔法は使い手が幸福の心を込めるほど、効果がある。結界と同じだ。今日の治癒魔法はどうも調子が悪い。


 暫くして、捜索をしていた兵のうち一人が声をあげた。

「だ、誰か来てくれー!テジン様が・・・!!」

 ナルーが真っ先に駆けつけた。続いてジラルガン、ガリシクが走っていく。クナも瓦礫の中に飛び込んでいった。


 ナルー達が下を向いて絶句している。

「セ、ナルー様。テジン様は・・・!?」

 ナルーがクナの腕を掴んだ。

「クナ様・・・。」

 下を見て、クナは息を飲んだ。

 テジンが仰向けに倒れている。瓦礫の下敷きとなり、傷だらけだ。目はしっかりと閉じられていて、もう開くことはないことを物語っている。額と口元からは血が細い川のように流れている。

「嘘っ・・・!!」

 クナは口を手で押さえて震えた。

 体に触れると、まだほんのりと温かい。

 ダルキア軍から悲しみの声が漏れた。

「このままではあまりにもお痛わしい・・・。誰か、戦旗を持ってこい。王子のお身体を包み申しあげろ。」

 兵の一人が濃紺の中に双頭の鳥を白く染め抜いた旗を持ってきた。

「待って、ナルー様!まだ・・・王子の命を取り戻す方法もあるやもしれません!」

 ナルーがぎょっとしてクナを見る。

「甦りの魔法ですか?・・・あれは黒魔術の、禁忌とされているものです。・・・この世の理を覆す・・・。王子ははたしてそのようなことをお望みでしょうか。人一倍自然の理を大切になさった方だ。」

 その言葉にクナははっとした。これではハルジーやキナリと同じだ。たった一人のために、世界を壊してしまう。けれど・・・今なら分かる、キナリやハルジーの気持ちが。例え世界中を敵に回したって、貫きたいものだってある。

「テジン様・・・テジン様・・・。」

 泣いて亡骸にすがるクナを、人々は見守ることしか出来なかった。

 だんだんと体温を失ってゆくテジンの手に、変えられない自然の理を思う。


 その時、群衆に一人の男が近付いた。黒いマント、白髪混じりの髭が風に揺れる。黒い瞳がその人だかりの中心を捉えた。

「クナ様・・・?」

 少ししわがれた声に、クナがはっと振り返る。

「ザード・・・。」

 兵達がざわつく。

「あれがザード殿・・・?」

「甦りの魔法を習得するために旅に出ていたという、あの?」

「クナ様とお知り合いであったのはまことだったのか。」

 涙で濡れたクナの顔を見て、ザードが言った。

「此度の戦、姫様の武勇は地の果てまで届いておりました。ハルキアの勝利、まことにおめでとうございます。」

 クナはザードに駆け寄って泣いた。

「ちっとも・・・良くなんかないわ。人が死んだの。」

「戦で人死ぬのは当たり前のことでしょう?」

 ザードの言葉に、クナが首を振った。

 仰向けに倒れているテジンを見て、ザードは驚いた。

「あれは・・・ダルキア王子?」

 ナルーが視線だけで返事をする。そして、口を開いた。

「ザード殿・・・テジン様を生き返らせるのは無理でしょうか。」


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