32 魔術師ザード
がらがらと音を立てて、瓦礫の山が崩れていく。ダルキア軍とハルキア軍が協力してテジンを探していた。
クナは涙を流しながらも怪我人の手当をした。治癒魔法は使い手が幸福の心を込めるほど、効果がある。結界と同じだ。今日の治癒魔法はどうも調子が悪い。
暫くして、捜索をしていた兵のうち一人が声をあげた。
「だ、誰か来てくれー!テジン様が・・・!!」
ナルーが真っ先に駆けつけた。続いてジラルガン、ガリシクが走っていく。クナも瓦礫の中に飛び込んでいった。
ナルー達が下を向いて絶句している。
「セ、ナルー様。テジン様は・・・!?」
ナルーがクナの腕を掴んだ。
「クナ様・・・。」
下を見て、クナは息を飲んだ。
テジンが仰向けに倒れている。瓦礫の下敷きとなり、傷だらけだ。目はしっかりと閉じられていて、もう開くことはないことを物語っている。額と口元からは血が細い川のように流れている。
「嘘っ・・・!!」
クナは口を手で押さえて震えた。
体に触れると、まだほんのりと温かい。
ダルキア軍から悲しみの声が漏れた。
「このままではあまりにもお痛わしい・・・。誰か、戦旗を持ってこい。王子のお身体を包み申しあげろ。」
兵の一人が濃紺の中に双頭の鳥を白く染め抜いた旗を持ってきた。
「待って、ナルー様!まだ・・・王子の命を取り戻す方法もあるやもしれません!」
ナルーがぎょっとしてクナを見る。
「甦りの魔法ですか?・・・あれは黒魔術の、禁忌とされているものです。・・・この世の理を覆す・・・。王子ははたしてそのようなことをお望みでしょうか。人一倍自然の理を大切になさった方だ。」
その言葉にクナははっとした。これではハルジーやキナリと同じだ。たった一人のために、世界を壊してしまう。けれど・・・今なら分かる、キナリやハルジーの気持ちが。例え世界中を敵に回したって、貫きたいものだってある。
「テジン様・・・テジン様・・・。」
泣いて亡骸にすがるクナを、人々は見守ることしか出来なかった。
だんだんと体温を失ってゆくテジンの手に、変えられない自然の理を思う。
その時、群衆に一人の男が近付いた。黒いマント、白髪混じりの髭が風に揺れる。黒い瞳がその人だかりの中心を捉えた。
「クナ様・・・?」
少ししわがれた声に、クナがはっと振り返る。
「ザード・・・。」
兵達がざわつく。
「あれがザード殿・・・?」
「甦りの魔法を習得するために旅に出ていたという、あの?」
「クナ様とお知り合いであったのはまことだったのか。」
涙で濡れたクナの顔を見て、ザードが言った。
「此度の戦、姫様の武勇は地の果てまで届いておりました。ハルキアの勝利、まことにおめでとうございます。」
クナはザードに駆け寄って泣いた。
「ちっとも・・・良くなんかないわ。人が死んだの。」
「戦で人死ぬのは当たり前のことでしょう?」
ザードの言葉に、クナが首を振った。
仰向けに倒れているテジンを見て、ザードは驚いた。
「あれは・・・ダルキア王子?」
ナルーが視線だけで返事をする。そして、口を開いた。
「ザード殿・・・テジン様を生き返らせるのは無理でしょうか。」




