30 王城崩壊
目の端に黒い炎を捉えた。
まともに受けたら死ぬ―――。直感でそう思った。
「カシュート・エル・ハイラート!」
床にうつ伏せたまま上半身だけ起こし、剣を突き上げる。
黒い炎が剣を取り巻き、テジンはそのまま剣を振るった。
魔力が竜の形になり、黒い炎を身に纏ってキナリの方へ飛んでいく。
この技はもう体力的に無理だ・・・どうか、もう来ないでくれ!
「くっ・・・!」
キナリが焦って結界をはる。
竜はキナリに正面から突っ込み、体を貫いて壁に衝突した。
キナリが膝から崩れる。胸を手で押さえている。その白い指の隙間から、泉のように血が溢れている。緑の瞳は見開かれていた。
城ががらがらと音を立てて崩れ始めた。大きな石が降ってくる。
これまで・・・か。俺もキナリも結局は玉座につけぬまま・・・真の王とは誰だったのだろう。クナは緑といえばそうだが、どちらかというと黒に近いし。・・・ああ、クナはちゃんと逃げただろうか。
とりとめのないことを考えているうちに、テジンの意識は朦朧としてきた。
苦しそうな息づかいをしていたが、キナリはばっと顔を上げると、杖を構え、玉座を破壊した。
壊れた玉座の下には、緑に光る石があった。
それを掴み、駆け出す。
「ルキアとティラナは私のものだ!」
うわ言のように言い残し、キナリは窓から逃げた。
床に転がっていた腕輪から、緑色に輝く蝶が一匹、飛び出した。ふわりと舞い上がり、キナリの後を追う。
城がますますひどく崩れる。
あの石は城の守り石だったのか。テジンは確信した。あの石があったからこそ、トルキア王城は崩れるのをなんとか保てた。だが、あの石がない以上、自然の摂理に任せて崩れるは必至。
目の前に大きな石が降ってきた。揺れた衝撃で、クナの投げた腕輪が転がってきた。
「クナ・・・。」
その呟きと共に、テジンの下の床が崩れた。
「テジン様ーっ!」
クナの叫び声がこだまする。
城が呆気なく崩れ、もうもうと誇りが立った。
この中にいれば、さすがに助からない。そう確信させるのには充分だった。
「ああ・・・テジン様・・・。」
絶望的な表情のナルーにすがって、クナは泣き出した。
腕輪が結界をはる力を持っているけれど、これ程の量の衝撃には耐えられまい。
「せめて・・・お身体だけでも・・・。」
ナルーの呟きに、ダルキア軍が涙した。
キナリが敗れて黒魔術が切れたのか、ハクド王はけろっとしている。自分がなぜ戦っているのかもさっぱり分かっていないようだ。ナルーとジラルガンはとりあえずダカン兵とトルキア兵を捕虜にし、テジンを待っていたところだった。




