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砂漠の月  作者: 沖津 奏
30/41

30 王城崩壊

 目の端に黒い炎を捉えた。

 まともに受けたら死ぬ―――。直感でそう思った。

「カシュート・エル・ハイラート!」

 床にうつ伏せたまま上半身だけ起こし、剣を突き上げる。

 黒い炎が剣を取り巻き、テジンはそのまま剣を振るった。

 魔力が竜の形になり、黒い炎を身に纏ってキナリの方へ飛んでいく。

 この技はもう体力的に無理だ・・・どうか、もう来ないでくれ!


「くっ・・・!」

 キナリが焦って結界をはる。

 竜はキナリに正面から突っ込み、体を貫いて壁に衝突した。

 キナリが膝から崩れる。胸を手で押さえている。その白い指の隙間から、泉のように血が溢れている。緑の瞳は見開かれていた。


 城ががらがらと音を立てて崩れ始めた。大きな石が降ってくる。

 これまで・・・か。俺もキナリも結局は玉座につけぬまま・・・真の王とは誰だったのだろう。クナは緑といえばそうだが、どちらかというと黒に近いし。・・・ああ、クナはちゃんと逃げただろうか。

 とりとめのないことを考えているうちに、テジンの意識は朦朧としてきた。


 苦しそうな息づかいをしていたが、キナリはばっと顔を上げると、杖を構え、玉座を破壊した。

 壊れた玉座の下には、緑に光る石があった。

 それを掴み、駆け出す。

「ルキアとティラナは私のものだ!」

 うわ言のように言い残し、キナリは窓から逃げた。

 床に転がっていた腕輪から、緑色に輝く蝶が一匹、飛び出した。ふわりと舞い上がり、キナリの後を追う。


 城がますますひどく崩れる。

 あの石は城の守り石だったのか。テジンは確信した。あの石があったからこそ、トルキア王城は崩れるのをなんとか保てた。だが、あの石がない以上、自然の摂理に任せて崩れるは必至。

 目の前に大きな石が降ってきた。揺れた衝撃で、クナの投げた腕輪が転がってきた。

「クナ・・・。」

 その呟きと共に、テジンの下の床が崩れた。


「テジン様ーっ!」

 クナの叫び声がこだまする。

 城が呆気なく崩れ、もうもうと誇りが立った。

 この中にいれば、さすがに助からない。そう確信させるのには充分だった。

「ああ・・・テジン様・・・。」

 絶望的な表情のナルーにすがって、クナは泣き出した。

 腕輪が結界をはる力を持っているけれど、これ程の量の衝撃には耐えられまい。

「せめて・・・お身体だけでも・・・。」

 ナルーの呟きに、ダルキア軍が涙した。


 キナリが敗れて黒魔術が切れたのか、ハクド王はけろっとしている。自分がなぜ戦っているのかもさっぱり分かっていないようだ。ナルーとジラルガンはとりあえずダカン兵とトルキア兵を捕虜にし、テジンを待っていたところだった。


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