03 白い花
「えっ、テジン様が・・・。」
驚いた声で振り返ったのはクナ姫だ。トルキアで占い学の勉強を終え、昨日帰国したばかりだ。
「本当ですか、ティハ。本当に私を・・・。」
「ええ、側近の方が見えて、ジラン様にお手紙をお渡しになられたのですが、ジラン様はお受けする気はないようです。お手紙を床にお捨てになりました。」
侍女がナルーから預かった手紙をクナ姫に渡した。クナ姫は急いで手紙を開いた。間違いなくテジンの筆跡だった。クナ姫は驚きを隠せなかった。そこにはテジンがクナ姫にほとんど一目惚れしてしまったこと、クナ姫をダルキアへ迎え、いずれはダルキア女王としようということが書いてあった。
胸が高鳴った。テジンの瞳を思い出すと、頬が熱くなった。
「なぜお父様は嫌がるのかしら。」
侍女は小さなため息をついた。
「ジラン様は、姫様を心配しておられるのです。もし姫様がルキア王家へ嫁いだとして、それはトルキアへ対抗する大きな機会になりましょう。しかし、ルキアを再統一した暁には、どうなりますか。反逆者カザ=ハルキアの末裔である姫様を抹殺してしまうかもしれません。ジラン様はそのことだけを心配していらっしゃるのです。」
クナ姫は下を向いた。落胆した声で呟く。
「お父様が心配なさっているのは私じゃないわ。ハルキアよ。そうよ、私のことなんて建前だわ。本当は私がテジン様と結婚したら、ハルキアとダルキアが一つになってしまう。それが嫌なんだわ。今ハルキアには有力な王位継承者は私しかいないもの。」
否定は出来ない。ジラン国王は何も言わなかったが、それが反対要因に含まれていないわけではないだろう。
大窓から見える月が白い光を放っている。砂漠の国は昼間は焼けるように暑いが、夜は冷える。白いショールを肩にかけ、クナはベランダに出た。白い石で出来た城に、足音がコツコツと響く。ベランダの手摺りに触れると、ひんやりした。
父王や母がいない時は寂しい。だが、今はそれ以上にテジンが恋しい。胸の内から全身に湧き出る想いに支配されそうになる。 再び部屋に戻った。ティハには退出するよう命じ、水晶玉を取り出した。東国から取り寄せた上等な肌触りの紫の布に、これまた東国の辺境にある島から取り寄せた水晶玉が包まれている。紫の布は、数年前にテジンから誕生日にもらったものだった。親交の証として、だったが、クナは十分嬉しかった。四角い布の角の一つには、金の糸で花が刺繍してある。
ろうそくに火をともし、テーブルの上に並べた。椅子に座り、気持ちを落ち着かせる。トルキアで習った呪文を唱えた。水晶玉に、ぼんやりと浮かぶものがあった。これは・・・カシレーネの花?白い花びらが五枚見える。ハルキアとダルキアの国境に広がるコルコドの砂漠の、ダルキア領内にのみ生息する。クナは可憐な白い花が好きだった。
水晶玉の中のカシレーネの花びらが散った。そのかわり今度は、黄色、薄緑、青のもやが三つ巴となって入り乱れ始めた。水晶玉は暫くすると何も映らなくなった。
これは何を暗示しているのだろう。カシレーネは調和の意味を持つが、それが散るなんて。不吉な予感がして、クナは水晶玉を布で隠した。




