29 怒り
固い音がして、床の隅の一つが砕けた。同時に、クナが倒れている周辺の床に、黒い陣が浮かび上がる。
キナリはいまいましそうにそれを見た。
「やっぱりな・・・。」
テジンがにやりとする。
「蜘蛛の巣の魔術か。手の込んだことを。」
壊れた床には破片と一緒に、黒い石が置いてある。テジンが魔力を飛ばして石を壊すと、陣はすうっと消えた。
キナリがクナの方へ歩み寄り、腕を掴んだ。
「ティラナ・・・。」
悲しげな目に見据えられ、クナは驚いた。
キナリは手に持った剣の切っ先をクナの首筋に当てた。
「キナリ!」
テジンが攻撃魔法を使った。キナリはクナを抱え、ひらりとかわした。
「ティラナはお前には不釣り合いだ。」
「クナはティラナじゃない!」
怒りを制御出来ずに、テジンの剣から魔力の玉が飛び出した。クナの足元で破裂する。
衝撃で金縛りの魔法が解けたのか、クナはキナリの手を振り払い、テジンの方へ駆け寄った。テジンはクナを背にして立った。
キナリの手が虚空を掴む。
「私のことを・・・覚えていないのか?」
呟きが城の軋みに掻き消えた。
「あんなにも誓い合った仲なのに・・・他の者のものになるくらいなら、共に死のうと誓ったではないか、ティラナ!」
叫び声と共に、火の玉が飛んできた。クナとテジンは同時に結界をはった。
「クナに―――クナに手を出すな!」
テジンは剣を構え、キナリに向かって走っていった。
「どけ小僧、貴様ごときにティラナとルキアを渡してたまるか!」
キナリは杖を持ち、大きな円を描いた。黒い炎がテジンを包む。
テジンは剣を盾にし、それをしのいだ。そして、その炎を巻き込んでキナリに火の竜を差し向けた。
狙いは逸れ、竜は玉座に衝突して消えた。
それと同時に、城が大きく揺れた。天井が歪んでいるのが分かる。降ってくる砂の量が増え、粒も大きくなった。
グラリと揺れるのに合わせたように、ガリシクが部屋に転がり込んできた。
「ガリシク殿!」
「あっ、テジン殿!ご無事で!」
その一瞬の隙を逃さず、キナリは攻撃魔法を使った。
キナリの攻撃から二人を守るようにしてテジンが走り出て、立ち塞がる。
手で庇うこともせずに、テジンが床に倒れ伏す。月光の衣に赤いシミがあった。衣に覆われていない足がざっくりと切れている。
「クナを連れて逃げろ!」
ガリシクは既にクナを守るように抱えていたが、テジンを見て叫んだ。
「テジン殿は・・・!」
「悪いが俺は動けぬ、早くしろ!城が崩れる!」
キナリが攻撃魔法を仕掛ける。テジンは結界をはるので精一杯だった。
「早く!」
「しかし・・・。」
ガリシクはまだもたついている。
「言っただろう、俺の命令には従うと。行け!命令だ!」
ぐっと目を瞑ると、ガリシクはクナを抱えて駆け出した。
「ガリシク様!待って、まだテジン様が!」
「姫、それだけはご勘弁ください!」
砂埃にむせながら、クナは腕輪を外した。そして、テジンに向かって投げた。いくつか宝石のはめられた金の腕輪は、放物線を描いて落ちた。
「ふん・・・貴様、姫を逃がしてそれで安心したつもりか。愚か者めが!」
キナリの叫び声に重なるように、石が本格的に崩れ始めた。
その一瞬の隙間を縫って、キナリが襲いかかる。
「終わりだ!」




