28 緑の瞳
「私の兄のワルーレ=トルキア伯はトルキアを手に入れた後、自分の子を確実に後継者にするため、一番魔力のあった私を幽閉した。それでも私は玉座を諦められず、抜け出し、王の―――兄の子の側近として機会を伺っていたのだ。不老の魔法を使って、充分すぎる程待った!だが私はトルキアだけではない。ルキアを再び統一し、いずれはこの世の王となる。」
テジンはギクッとした。ルキア統一とはすなわち、ダルキアをキナリに明け渡すということか。
「私だってトルキア王族の端くれだ。それくらいの機会があったって良いだろう。」
「お前にこの国はきっと操れない。」
キナリはため息をついた。
「テジンよ。予言を知っているか?あの、馬鹿げた予言だ。いったい誰が考えたのかは知らんが。」
「いつか遠い未来に、ルキアは再び統一されるという、あれか。」
「そうだ。よく出来た話だ。テジン、お前はルキア王家の末裔として、ルキア再興を狙っているらしいが・・・。悪かったな、私がその座をいただく。」
テジンの顔色が変わった。
「よく思い出せ。予言によると王の瞳は緑。お前のは茶色ではないか。・・・私の目を見てみろ。」
白いさらさらした髪の奥に、獰猛そうな、しかし翡翠のような緑が輝く。
嘘だ―――。
「そういうことだ。最初から玉座は私に約束されたようなものだ。」
「だが、それとクナの何が関係ある。」
キナリは一瞬、遠い目をした。
「・・・十五年戦争があった頃・・・私だってまだ普通の人間だった。若くて野心に溢れて。恋人だっていた。だが兄が・・・トルキア王位に就いた途端、私を裏切って幽閉し、ティラナを奪った・・・。ハルジーの妻、マハルはティラナの生まれ変わりだ。そして、この姫君も・・・。ティラナのためにも私は王位を手にする必要がある。」
「そのためにハルジー王を黒魔術にはめたのか?」
「はめた?人聞きの悪い。黒魔術は心が強くなければ逆に魔術に喰われるのだ。あいつは勝手に・・・。生命を喚ぶ禁断の魔術。・・・私にすら操れないものを。」
テジンはふと思った。キナリは、本当は違うことを言っているのではないか、と。
玉座のために力を欲し、黒魔術に傾倒した。嘘ではあるまい。だが、本当にそれだけで何百年も待てるものか。
「さあ、無駄話はこれくらいに留めるとしよう。」
すっと杖を構えた。まっすぐテジンを狙っている。
「バナダーム・コルト・ザルカ・ダルク!」
高速で飛んできた影を払う呪文がとっさに思い付かず、テジンは剣で結界をはった。
クナが近くにいるせいか、剣の力が強まっている。バチッと音がして、影は吹き飛んだ。
同時に、ガタンと城が揺れた。キナリが舌打ちする。
あまりの衝撃に、テジンは片膝をついた。キナリはその機会を逃さないよう、腰の剣を抜き、テジン目掛けて斬りかかってきた。
ガチン、と音がしてテジンの剣がキナリの剣を受け止める。
「往生際が悪いぞ、テジン。予言は私が王だと言っているのだ。」
ぐっと力を込め、テジンの剣を振り払った。床ごと貫こうと、剣を降り下ろす。危うく足を動かして、テジンは軌道を避けた。しかし、鈍い痛みと共に右足のふくらはぎを切った。
クナが倒れたたま、こちらを見て涙目になっている。あんな顔をさせるなんて・・・。
城がギシギシと軋む。石造りなので、頭上から砂がパラパラと降ってきた。
「おい、城が崩れてないか・・・!?」
真っ先に気付いたのはガリシクだった。
「城・・・テジン様がいるのだぞ!」
ナルーが叫ぶ。
「・・・私が城へ行く!」
ガリシクはそう言い残すと、崩れかけた城へ入っていった。
テジンは剣を握りなおし、キナリの心臓を狙った。だが服にかすっただけだ。
「父の仇・・・か。」
テジンの放った火の玉を避け、キナリは寂しそうに笑った。
「それとも、己の野心のためか。」
それにすら答えず、テジンは魔力を鋭く尖らせて飛ばした。だがキナリは軽くかわし、笑った。
「検討違いもいいところだ!私はこっちだぞ!」
「狙い通りだがな!」
「何だと・・・!?」




