27 玉座
次に目を開けた時、影は消え去っていた。その代わり、ハルジーが地に伏していた。黒いスナアシがその周りをうろうろしている。
「ハルジー王!」
アクルの背から飛び降り、テジンが駆け寄る。
いったいどうなったというのだ。なぜ魔王が俺を助けたりするんだ?
傍に行くと、ハルジーはゼイゼイと苦しそうな息づかいをしていた。砂に血が染み込んでいく。
「王、なぜ私を・・・。」
最後まで言わないうちに、ハルジーはテジンの右手をガシッと掴んだ。
「目が覚めたのだ・・・私は・・・こんな筈ではなかった。」
「どういうことです・・・。」
ハルジーはますます辛そうに目を細めた。どうやらキナリに魔術で体の中から壊されたらしい。
「私はただマハルを・・・私の妻を、甦らせようとしただけだ。私では、黒魔術に対抗できる程の・・・強さがなかった。キナリだ・・・あやつが、私に黒魔術を薦めた。私は黒魔術に逆に操られて・・・ダカンのハクド王もそうだ。ああ、全て策略だったのか。キナリめ。だから・・・あの者はマハルに生き写しだ・・・。」
「あの者・・・クナですか。彼女は今どこに!?」
「分からん・・・キナリが、どこかへやってしまった。」
ハルジーは、ふう、と息をつくと、テジンをまっすぐ見つめた。
「ダルキアの王子よ、どうか・・・トルキアを頼む・・・。」
ずるりと手が地面に落ち、テジンの手首には血の痕だけが残った。
「王子!ご無事で・・・。」
ナルーが駆け寄る。遅れてガリシクがやって来た。
「王子、トルキア兵とダカン兵は我らに任せてキナリを追ってください。」
砂埃の上がる中、テジンはナルーとガリシクを見た。後ろでは、王の死んだことに気付かないのか、気付いた上でなのか、トルキア兵とダカン兵がハクド王を中心に戦っている。
すまない、と言うとテジンはそのまま城へ駆け込んだ。
アクルは後を追おうとしたが、ガリシクにしっかりと手綱を握られていた。
城には気味が悪い程に誰もいなかった。
「クナ!どこだ!」
声が響く。
目の前に、どうやら地下につながるらしい階段があった。暗くてよく見えないが、少し降りてみた。
足元がおぼつかない。
すると突然、剣の柄にはめてあった青い宝石が光り始めた。水の中から上を見上げた時に光が差し込むようにゆらゆらと揺れる。そして、一点に向かって青い光が伸びた。階段の向こうを示している。
「クナが・・・いるのか?」
答えるように光が脈打った気がした。テジンは迷う素振りも見せず、一目散に階段の下を目指した。
階段を降りきると、今度は光は別の所を示している。
きっとそうだ、この剣はクナの魔術がかけられている。クナが呼んでいるのだ。
剣の指し示す方向が変わってきた。クナが移動しているということか。それも、きっとキナリが傍にいるに違いない。
暫く光を追いかけ、勢いよく一つの扉を開けた。
玉座の間だった。金の玉座の前には、縛られたクナ、そしてキナリがいた。
息を切らせながらテジンは言った。
「クナを・・・返してもらおう。」
キナリは嘲笑うかのような微笑をたたえている。
「よくあの影から逃れられたな。」
「ハルジー王が・・・助けてくださった。」
キナリが目を細めた。
「ふん、あいつ・・・。」
「なぜ裏切ったんだ。仮にも自分の主だろう。」
相手はそれを鼻で笑った。
「主・・・か。本当の王に相応しいのはこの私だ。証拠に、私は今日まで生きてきた。普通にはあり得ない長さの時を。」
テジンは話を理解できないでいる。キナリが続けた。
「もはや自分の年齢など忘れた。ただ、兄がルキアよりこのトルキアの地を奪ったあの日から、私は玉座につくことだけが夢だった。それだけは忘れていない。」
テジンがはっと息を飲む。
「お前はまさか・・・クレオール=トルキア・・・!?」
キナリがにやりと笑う。
「ご明察・・・。私がワルーレ=トルキア伯の実弟、クレオール=トルキアだ。」
「なぜ今まで生きて・・・?そうか、不老の魔法か。」
「さよう。黒魔術の中でも最も難しいと言われるものの一つだ。ハルジーは兄の子達の中では一番出来が良かったから黒魔術を教えてやったが、それでもあの程度だ。」
テジンは冷や汗をかいた。
「だが、ハルジー王の魔術はお前の影を消したぞ。」
「ふん、当たり前だ。お前でも破れる程度にしておかなければ、ここまでたどり着けないだろう。」
剣を構え直し、テジンは呟いた。
「この戦を始めたのはお前か、キナリ。」
答えはにやりとした笑いだった。
クナの腕をぐっと掴み、引き寄せた。痛みにクナが顔をしかめる。
「教えてやろう、なぜ私がこんなことをしたか。」
だがテジンはその声を振り払った。
「クナを放す方が先だ。」
キナリは口をつぐみ、意外なことに、クナの腕から手を離した。
「無駄だ、こいつには金縛りの魔法をかけてある。それも、黒魔術の。逃げることは出来ない。」




