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砂漠の月  作者: 沖津 奏
26/41

26 キナリの裏切り

「ハルジー王!そこまでして何を求める?」

 喧騒の中、テジンが叫んだ。

 一瞬、ハルジーが悲しそうな寂しそうな顔をした。

「私の望むものか。私の望むものは、決して手に入らないものだ!」

 剣を交えた時、テジンは魔王の爪が割れ、血が滲んでいるのに気付いた。しかし、魔王の持つ剣から溢れ出る黒い霧のようなものにあてられ、後ずさった。

 ハルジーが舌打ちをする。そして、またか、と呟いた。

「ダルキアの王子よ、先程のは語弊があった。私の望むものは、手に入れてはいけないものなのだ。」

 相変わらず答えになっていないことだけはたしかだ。

「何だ、それは。」

「聞いてどうする。」

「それがもし、俺が協力することで手に入れば、この不毛な戦いを止めることができる。」

「愚かな・・・。だがもう私の体も限界だ。つまらないごたくを並べるのはやめて、一気にかたをつけてやる。」

 ハルジーは剣を杖に戻し、呪文を唱え始めた。杖が黒い煙のようなものをまとい、不気味に見える。

「バナダーム・バリ・ダルク!」

 ぶわっと黒い煙が溢れ、ハルジーは杖先をテジンに向けた。

 もの凄い速度に逃げる間もなく、テジンは黒い煙に包まれた。煙はぐるぐるとテジンとアクルを取り巻き、逃がさないようにした後、テジンを押し潰そうとした。

 ナルーが傍へ行こうとするが、トルキア兵がそれを阻む。

「さらば、ダルキアの王子よ。」

 ハルジーがそう言って次の呪文を唱えようとした時だ。黒い塊と化した煙は白い光に切り裂かれた。

「王子!」

 霧散した煙の向こうにいたのは、クナの魔法のかかった剣を高々と突き上げたテジンだった。

 月光の衣なおかげで怪我はないが、さすがに黒魔術を受け止めるのはきついのだろう。月光の衣は傷んでいた。

 テジンはそのままハルジーを睨んだ。

「ちっ、面倒な奴だ。」

 ハルジーはもう一度杖を構えた。

 爪の間からぼたぼたとどす黒い血が流れる。砂の地面に大きなシミを作った。

 ごほっとむせて血の混じったつばを吐き出した。

 この技はあと一度が限界だ。これにかけるしかない。


 テジンはハルジーの杖先を見た。

 先程と同じ魔法だろう。だが、直感で読み取った。次に防げなかったら、命の保証はない。

 だが、逃げるわけにはいかない。


 覚悟を決めて、とにかく集中した。剣に秘められた防御魔法と、自分がもともと持っている潜在的な防御力。それを合わせれば何とかなるかもしれない。

 遂にハルジーが口を開いた。

「バナダーム・」

 しかし、呪文の最初の言葉を言って、ハルジーは片膝をついた。

 戦っていたダルキアやトルキアの兵達は呆然とその様子を見ていた。一番近くにいたテジンでさえ、何が起こったか理解出来ずにいる。

 ハルジーの体が砂埃をあげて倒れた。

 その後ろに一人の男がいた。顔には冷酷な微笑が張り付いている。

「キナリ・・・!?」

 テジンは驚きを隠せない。

「何だ、そのざまは。せっかく助けてやったのだぞ。もっとありがたがってはどうだ。」

「なぜ・・・裏切った・・・。」

 テジンの問いが宙に消える。

 キナリは杖を構えた。

「答が知りたければ来ることだ。」

 ぶん、と杖で大きな円を描いた。

「バナダーム・クズルマ・シファ・ダルク!」

 突然、人間の影のようなものが六つ、テジンを取り巻いた。

「来れたら、の話だがな。」

 そう言い残してキナリは城へ入っていった。

「待て、キナリ!」

 だが追い付けはしない。テジンは舌打ちして攻撃魔法に集中した。

「ミグラ・ズラマキア!」

 影の一体に剣を向ける。切っ先から青白い光が放たれ、影の胸に当たった。

 影は扉の軋むような悲鳴をあげ、ゆらゆらと揺れた。しかし最後に大きく一度、ゆらりと揺れると、また元に戻った。

「そんな・・・闇払いの呪文が効かないなんて!」

 他にもいくつか攻撃魔法を試した。だがどれも効かない。

 その時、倒れていたハルジーが呻いた。死んでしまったのかと思っていたが。

「無駄だ・・・あれは黒魔術・・・その程度では消せぬ・・・」

 だがテジンは攻撃を続けた。相変わらず効果はない。

「下がって・・・おれ・・・。」

 むくりと起き上がり、無理に傍へ行こうとするナルーを牽制した。

 ハルジーが一歩踏み出す度に、血が塊となって地面に落ちる。

 ハルジーは震える手で影に狙いを定めた。

「ダルキアの王子よ・・・その剣には、防御魔法がかけられておるな。」

 テジンがこくんとうなずく。

「結界をはれ・・・。」

 テジンが応答する間もなく、ハルジーは呪文を唱え始めた。

 今まで見たことのないほどの強力な魔力だった。白い光がハルジーの指先へ集まっていく。

 何とかテジンが結界をはった時だ。

 砂を巻き上げ、ハルジーから強い光が放たれた。

 あまりの眩しさに、思わず目を瞑った。

 白い光がまぶたを突き破ってくるようだ。痛みすら感じる。


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