25 王都ラヤ
それからも幾度か伏兵に出会った。だが、陽動作戦だろう。たいして戦うわけでもなく、損害も出さずに撤退して行く。しかも、まるでトルキア王城へ誘うかのように去って行くのだ。
結局、テジン達がトルキア王都ラヤに着いた時は、二つ目の山を越え始めてからまる三日経っていた。
「恐ろしい程人がいませんね。」
ナルーが呟く。その通りだ。以前は交易や旅の者が大勢いて、夜も街は賑やかだった。今は鳥さえいない。
「城の反対側も同じ有り様でした。」
その声にはっと振り向く。
「ジラルガン殿!ご無事で!」
左頬に傷をつくっていたが、元気そうな様子だ。
「王子こそご無事で何より。・・・しかし、本当に何を考えているのでしょう。」
その時、頭上から静かな笑い声がした。全員見上げた先には、城壁に腰かけたキナリがいた。黒いマントが風にはためく。
「皆様ようこそ、トルキア王都へ。」
ジラルガンが憎々しげに叫ぶ。
「キナリ!貴様!姫様はご無事なんだろうな!」
「安心しろ、使えるものをわざわざ壊したりはしないさ。しかし・・・。」
そう言ってキナリは軍を見下ろした。
「よくもこれだけ来たものだ。ひしめきおって、虫のようだな。少し数を減らしてやろう。そのままでは身動きもとれまい。」
さっと手を挙げると、城壁の向こうからトルキア兵が杖を構えて立ち上がった。
「やれ!」
キナリの合図と共に、杖先から閃光が飛び出す。ジュッと音がして次に目を開けた時、ぎっしりと整列していた人の中に、ポッカリと開いた空洞がいくつかできた。
「何だ・・・何があった・・・。」
呆然とするダルキア軍を嘲笑うかのように、キナリはもう一度魔法を放った。
またしても人が消える。
「下がれ!」
本能的に危険を察知し、テジンはきつい口調で命令した。何がおきたか理解出来ずにぼうっとしている兵達も、その一言で我にかえってスナアシの腹を蹴った。
「せっかくここまで来てくれたのだ。まだろくにもてなしてもいないうちに帰ってしまうのか?」
再び杖を構える。
テジンは焦った。先程の、たった二度の攻撃で人数は三分の二程に減ってしまった。
だが、キナリの後ろから黒服の男が歩いてきた。
「キナリ、何をしておる。」
キナリが振り返り、恭しくお辞儀した。
「魔王様。予想よりも少々数が多いようでしたので、私めの方で減らしておりました。」
「ふん、余計なことを。下がれ。私がやろう。」
そう言うと、汚れた右腕を高々と差し上げた。
空に稲妻が走る。
バシッと耳をつんざく音がして、ガリシクの率いてきたヴィダン王国の兵の方に落ちた。
ちっ、とガリシクが舌打ちする。
「キナリのもそこそこだが・・・魔王の魔術はくらいたくないものだな!」
「ハルジー!クナはどこだ!」
テジンが大声で叫ぶ。だがハルジーは冷笑で返した。
「どこと聞かれて素直に答えるのは間抜けくらいだな。」
すっと杖を構え、テジン目掛けて降り下ろした。黒い影が伸び、テジンを捕らえようとする。
閃光と共に影が消えた。
ハルジーとキナリがはっとして目をこらす。
テジンの前には剣を構えたジラルガンがいた。
「その防御魔法・・・覚えがある。クナだな。」
キナリが声を絞り出した。
「いかにも。この剣はハルキア王家に伝わるもの。姫様が毎日少しずつ魔力を溜めていったものだ。」
銀のそれの柄には、青い宝石がはめてある。中に渦巻くような煙が見えた。
「テジン殿、これを。この剣は使い手を選びますが、あなたなら大丈夫でしょう。早く姫様をお救いください。」
クナの魔法なら心強い。
テジンはジラルガンから剣を受け取り、魔王に向き直った。
ハルジーが地面が割れるような笑い声をたてた。
「よい度胸だ小僧!来い!」
「言われずとも・・・!」
剣を握り直し、テジンはアクルの向きを変えた。
「魔王様、あとの雑魚はお任せを。」
キナリの一言を聞くと、ハルジーは黒いスナアシの手綱を握った。そのまま一気に城壁を駆け降り、杖を剣に変化させてテジンの首を狙った。
金属のぶつかる音がして、テジンの剣はハルジーのそれを受け止めた。
周囲は固唾を飲んでそれを見守った。しかし、キナリの再びの攻撃に、全員が緊張の糸をはりつめさせた。
「お前らもぼやぼやしてると首が飛ぶぞ!」
その声と同時に王城の門が開き、武装したトルキア兵がスナアシに乗って出てきた。手当たり次第に突っ込んでいるのか、ダルキア軍は乱れている。




