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砂漠の月  作者: 沖津 奏
25/41

25 王都ラヤ  

 それからも幾度か伏兵に出会った。だが、陽動作戦だろう。たいして戦うわけでもなく、損害も出さずに撤退して行く。しかも、まるでトルキア王城へ誘うかのように去って行くのだ。


 結局、テジン達がトルキア王都ラヤに着いた時は、二つ目の山を越え始めてからまる三日経っていた。

「恐ろしい程人がいませんね。」

 ナルーが呟く。その通りだ。以前は交易や旅の者が大勢いて、夜も街は賑やかだった。今は鳥さえいない。

「城の反対側も同じ有り様でした。」

 その声にはっと振り向く。

「ジラルガン殿!ご無事で!」

 左頬に傷をつくっていたが、元気そうな様子だ。

「王子こそご無事で何より。・・・しかし、本当に何を考えているのでしょう。」

 その時、頭上から静かな笑い声がした。全員見上げた先には、城壁に腰かけたキナリがいた。黒いマントが風にはためく。

「皆様ようこそ、トルキア王都へ。」

 ジラルガンが憎々しげに叫ぶ。

「キナリ!貴様!姫様はご無事なんだろうな!」

「安心しろ、使えるものをわざわざ壊したりはしないさ。しかし・・・。」

 そう言ってキナリは軍を見下ろした。

「よくもこれだけ来たものだ。ひしめきおって、虫のようだな。少し数を減らしてやろう。そのままでは身動きもとれまい。」

 さっと手を挙げると、城壁の向こうからトルキア兵が杖を構えて立ち上がった。

「やれ!」

 キナリの合図と共に、杖先から閃光が飛び出す。ジュッと音がして次に目を開けた時、ぎっしりと整列していた人の中に、ポッカリと開いた空洞がいくつかできた。

「何だ・・・何があった・・・。」

 呆然とするダルキア軍を嘲笑うかのように、キナリはもう一度魔法を放った。

 またしても人が消える。

「下がれ!」

 本能的に危険を察知し、テジンはきつい口調で命令した。何がおきたか理解出来ずにぼうっとしている兵達も、その一言で我にかえってスナアシの腹を蹴った。

「せっかくここまで来てくれたのだ。まだろくにもてなしてもいないうちに帰ってしまうのか?」

 再び杖を構える。

 テジンは焦った。先程の、たった二度の攻撃で人数は三分の二程に減ってしまった。

 だが、キナリの後ろから黒服の男が歩いてきた。


「キナリ、何をしておる。」

 キナリが振り返り、恭しくお辞儀した。

「魔王様。予想よりも少々数が多いようでしたので、私めの方で減らしておりました。」

「ふん、余計なことを。下がれ。私がやろう。」

 そう言うと、汚れた右腕を高々と差し上げた。

 空に稲妻が走る。

 バシッと耳をつんざく音がして、ガリシクの率いてきたヴィダン王国の兵の方に落ちた。

 ちっ、とガリシクが舌打ちする。

「キナリのもそこそこだが・・・魔王の魔術はくらいたくないものだな!」


「ハルジー!クナはどこだ!」

 テジンが大声で叫ぶ。だがハルジーは冷笑で返した。

「どこと聞かれて素直に答えるのは間抜けくらいだな。」

 すっと杖を構え、テジン目掛けて降り下ろした。黒い影が伸び、テジンを捕らえようとする。


 閃光と共に影が消えた。

 ハルジーとキナリがはっとして目をこらす。

 テジンの前には剣を構えたジラルガンがいた。

「その防御魔法・・・覚えがある。クナだな。」

 キナリが声を絞り出した。

「いかにも。この剣はハルキア王家に伝わるもの。姫様が毎日少しずつ魔力を溜めていったものだ。」

 銀のそれの柄には、青い宝石がはめてある。中に渦巻くような煙が見えた。

「テジン殿、これを。この剣は使い手を選びますが、あなたなら大丈夫でしょう。早く姫様をお救いください。」

 クナの魔法なら心強い。

 テジンはジラルガンから剣を受け取り、魔王に向き直った。

 ハルジーが地面が割れるような笑い声をたてた。

「よい度胸だ小僧!来い!」

「言われずとも・・・!」

 剣を握り直し、テジンはアクルの向きを変えた。


「魔王様、あとの雑魚はお任せを。」

 キナリの一言を聞くと、ハルジーは黒いスナアシの手綱を握った。そのまま一気に城壁を駆け降り、杖を剣に変化させてテジンの首を狙った。

 金属のぶつかる音がして、テジンの剣はハルジーのそれを受け止めた。

 周囲は固唾を飲んでそれを見守った。しかし、キナリの再びの攻撃に、全員が緊張の糸をはりつめさせた。

「お前らもぼやぼやしてると首が飛ぶぞ!」

 その声と同時に王城の門が開き、武装したトルキア兵がスナアシに乗って出てきた。手当たり次第に突っ込んでいるのか、ダルキア軍は乱れている。


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