24 黒い雲
トルキア王城までの道のりがいやに長い。以前訪れた時はそう感じなかったのに。
あと一つ山を越えればトルキア王城だ。今まで伏兵も何もなかったのが気味が悪い。
「警戒を怠るな。相手はキナリだ。どこにどんな仕掛けがしてあるか分からない」
山は高いわけではないが、石がごろごろしている上に尖った灰色の葉をつける木が繁っている。越えるのは容易いことではない。
ガラッと音がして隊列が乱れる。石に足をとられ、スナアシがよろめく。気をつけろ、と言い、自身も注意しながらテジンは手綱を強く握った。
突然、テジンの乗るスナアシの足が遅くなった。
「どうした、アクル。」
テジンの乗るスナアシは、罠などのわざと潜む魔術に敏感に気づくよう訓練してある。
「テジン様、どうかなさいましたか?」
「分からん。だが、この近くに敵がいるか罠があるのは確実なようだ。」
だが、見渡せどもあるのは灰色の景色ばかり。兵は潜んでいるようには思えないが。まさか、何か罠が?
嫌がるアクルを無理矢理歩かせ、一行はのろのろと進軍した。だが、少しも行かないうちにアクルは一歩も進まなくなった。
「何かおかしい。アクルがここまで嫌がるなんて今までなかったことだ。仕方ない、誰ぞこの先を見て参れ」
ダルキア軍の中でも有力な魔術師が名乗りを上げた。彼なら少々の魔術なら一人でも対応できる。
「テジン様、この先に金縛りの魔方陣がありました。まだ書きかけで、我々が近づいたために途中で放棄したようです。」
「そうか・・・いよいよ仕掛けてくるつもりか。だが、ここまで何もなかった上にここで逃げ出した。トルキアはまだ十分に準備が出来ていないらしいな。ナルー、どうするのが良いかな。」
ナルーがちらりと王城を見やる。
「このまま攻め込みジラルガン殿と合流し、迅速に城を落とすのが最良かと。」
そうか、と呟いてテジンは城を見た。何事もなかったかのようにアクルは歩み始めた。
早まる鼓動が心を代弁する。あの中にきっとクナがいる。どうか無事で―――。
スナアシを進めていると、不意にガサッと葉の擦れる音がした。それと同時に石の礫が飛んでくる。思わず怯んだ時、覆面で黒服の者が十五人ほど飛び出した。一番立派な剣を持った者がテジンに斬りかかる。
「何奴!」
幸いにも月光の衣を着ていたために、かすり傷一つ負わなかった。
「ダルキア軍総大将、テジン=イアル=ダ=ルキア殿とお見受けいたす。」
男の持つ剣が鋭くきらりと光る。
「魔王様のお手を煩わせる間でもないわ。ここで首をとる。」
「トルキアか!」
テジンが言い終わらないうちに剣先が虚空を切り裂いた。
テジンも素早く剣を抜く。冷たい音がして剣が交わる。
隣で兵が一人倒れた時だ。
「どけ、トルキア兵!」
太い声がして、覆面の兵が我先にと全員逃げ出した。
灰色の葉を掻き分けてやって来たのは、ガリシクだった。自慢の足の丈夫なスナアシに乗っている。
「ガリシク殿!なぜここに?」
ガリシクは豪快に笑って答えた。
「いやあ、テジン殿をお助けいたそうとトルキアに来たものの、道に迷ってしまいましてな。とりあえず王城でお待ちしようと進んでいたら、こんな所で出会ってしまったというわけです。」
そう言って王城の方を見ると、妖しげな黒雲が垂れ込めている。
「どうやら魔王は我等を誘っているらしいですな。」
「そのようです。誘われるまでもない。こちらから出向く途中です。」
テジンはガリシクを軍に迎え入れ、禍々しい空を見上げた。
「テジン殿・・・何があっても必ず、最後まで従います。」
「では、約束していただけるか。何があっても。」
ガリシクを含め、ヴィダン国の者が頷いた。
「私はある者に約束したのです。必ず守る、と。」
その目はトルキア王城の一点を見つめていた。




