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砂漠の月  作者: 沖津 奏
20/41

20 カシレーネの誓い

「どういうことです・・・!」

 テジンはジラルガンに近づいた。

「我等ハルキアだけでは、忌々しいことに姫様をお救い出来ません。今まで散々同盟を断っておいて言えることでもありませんが、どうか・・・どうか、姫様をお救い下さい!」

 カシレーネの花が揺れている。白い花。いつだったか、クナに占い用の水晶玉を包む布を贈った。その時、布にカシレーネの刺繍を施した。守護魔法の呪文も一緒に縫い込んだ記憶がある。

「ジラン殿の国書か何かは?」

 テジンの問いに、ジラルガンは首を横に振った。

「ジラン様はご病気が重く、国政もまともに出来るお身体ではありません。この度もジラン様に一言申し上げようと思いましたが、とてもお話しできる様子ではなく、私めの一存で参った次第です。」

 つまり、ハルキアからの正式な申し込みではない。たとえ同盟に成功してトルキアに勝てたとしても、ジラルガンは議会で独裁者とされるかもしれない。

「なぜそうまでして・・・。」

 ジラルガンの目は力強かった。

「全ては・・・姫様のためでございます。」

 テジンは後頭部が熱くなるのを感じた。ジラルガンは別に姫に恋しているわけではない。しかし、姫を思う気持ちはテジンのそれと同じくらいだ。そう、例えば命と引き換えにしても守りたいというような―――。


 テジンはジラルガンの前を去り、風に揺れるカシレーネを一つ、摘み取った。そして砂の盛り上がったところに立った。

「ハルキアの者もダルキアの者もよく聞け!私はこれに誓う、必ずやこの地をトルキアの魔王から守る!はるばるここまで来てくれたハルキア諸君には感謝する。必ず姫君をお救いしよう。」

 そこで一呼吸とった。

「笑われても構わない。私は一国の将軍としてでなく、一人の人間として姫を救いたい。」

 そこにいた誰もが息を飲んだ。ざわざわとする。ナルーは目眩を感じた。

「このカシレーネの花に誓おう、我等ダルキアはハルキアと同盟を組み、必ずトルキアの魔王を倒す!」

 ジラルガンは感謝の余りいっそう深く頭を下げた。テジンはジラルガンの傍に再び歩み寄った。

「ジラルガン殿、共に魔王を倒しましょう。」

「テジン様、私もこの花に誓いましょう。」

 カシレーネの花を両軍の共通の紋章として、テジンはジラルガンを城に招いた。



 その夜、テジンはゴダーイのもとへ呼ばれた。

「そうか、ジラルガンが。」

「はい。あとは昼に申し上げたとおりです。」

 そう言うテジンの顔つきはますます凛々しく、ゴダーイは思わず感嘆のため息をついた。


 何か嫌な感じだ。背筋がゾクゾクする。父王は何も感じないのだろうか?

 テジンがそう考えていると、ゴダーイの背後に黒いもやが見えた気がした。直感的に危険を感じた。

「父上、何かいます!」

 だが、テジンがそう叫ぶと同時に鈍い音がして、ゴダーイの身体が揺れた。

 ゴボッと耳障りな音と共に、ゴダーイの口から鮮やかな血が吹き出る。

「父上!」

 剣を抜いて駆け寄った。ゴダーイの身体がぐらりと倒れこむ。恰幅の良い王の身体は支えるには少々重い。

 顔を上げた先には、知っている人物がいた。嘲笑うような表情で見ている。その手には血濡れの剣が握られていた。

「キナリ・・・。」


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