20 カシレーネの誓い
「どういうことです・・・!」
テジンはジラルガンに近づいた。
「我等ハルキアだけでは、忌々しいことに姫様をお救い出来ません。今まで散々同盟を断っておいて言えることでもありませんが、どうか・・・どうか、姫様をお救い下さい!」
カシレーネの花が揺れている。白い花。いつだったか、クナに占い用の水晶玉を包む布を贈った。その時、布にカシレーネの刺繍を施した。守護魔法の呪文も一緒に縫い込んだ記憶がある。
「ジラン殿の国書か何かは?」
テジンの問いに、ジラルガンは首を横に振った。
「ジラン様はご病気が重く、国政もまともに出来るお身体ではありません。この度もジラン様に一言申し上げようと思いましたが、とてもお話しできる様子ではなく、私めの一存で参った次第です。」
つまり、ハルキアからの正式な申し込みではない。たとえ同盟に成功してトルキアに勝てたとしても、ジラルガンは議会で独裁者とされるかもしれない。
「なぜそうまでして・・・。」
ジラルガンの目は力強かった。
「全ては・・・姫様のためでございます。」
テジンは後頭部が熱くなるのを感じた。ジラルガンは別に姫に恋しているわけではない。しかし、姫を思う気持ちはテジンのそれと同じくらいだ。そう、例えば命と引き換えにしても守りたいというような―――。
テジンはジラルガンの前を去り、風に揺れるカシレーネを一つ、摘み取った。そして砂の盛り上がったところに立った。
「ハルキアの者もダルキアの者もよく聞け!私はこれに誓う、必ずやこの地をトルキアの魔王から守る!はるばるここまで来てくれたハルキア諸君には感謝する。必ず姫君をお救いしよう。」
そこで一呼吸とった。
「笑われても構わない。私は一国の将軍としてでなく、一人の人間として姫を救いたい。」
そこにいた誰もが息を飲んだ。ざわざわとする。ナルーは目眩を感じた。
「このカシレーネの花に誓おう、我等ダルキアはハルキアと同盟を組み、必ずトルキアの魔王を倒す!」
ジラルガンは感謝の余りいっそう深く頭を下げた。テジンはジラルガンの傍に再び歩み寄った。
「ジラルガン殿、共に魔王を倒しましょう。」
「テジン様、私もこの花に誓いましょう。」
カシレーネの花を両軍の共通の紋章として、テジンはジラルガンを城に招いた。
その夜、テジンはゴダーイのもとへ呼ばれた。
「そうか、ジラルガンが。」
「はい。あとは昼に申し上げたとおりです。」
そう言うテジンの顔つきはますます凛々しく、ゴダーイは思わず感嘆のため息をついた。
何か嫌な感じだ。背筋がゾクゾクする。父王は何も感じないのだろうか?
テジンがそう考えていると、ゴダーイの背後に黒いもやが見えた気がした。直感的に危険を感じた。
「父上、何かいます!」
だが、テジンがそう叫ぶと同時に鈍い音がして、ゴダーイの身体が揺れた。
ゴボッと耳障りな音と共に、ゴダーイの口から鮮やかな血が吹き出る。
「父上!」
剣を抜いて駆け寄った。ゴダーイの身体がぐらりと倒れこむ。恰幅の良い王の身体は支えるには少々重い。
顔を上げた先には、知っている人物がいた。嘲笑うような表情で見ている。その手には血濡れの剣が握られていた。
「キナリ・・・。」




