02 テジンの手紙
ダルキア王国へ帰っても、テジンはクナを忘れられなかった。
「なあ、ナルー。」
「何です、王子。」
「やっぱり俺はクナと結婚すべきだと思うんだが。」
ナルーは書類を書き損じた。
「王子!何をおっしゃるんですか。だいたい、ゴダーイ様がお許しになるわけありません。」
「そうかもしれないけど・・・予言が本当なら、ここで同君連合をとれば、うまくいけばトルキアを倒せるかもしれない。ダルキアとハルキアは必然的に一つになるし・・・そうなれば、ルキア王国は再び統一される。ルキア再興はルキア家の、ひいてはダルキアの悲願だ。」
テジンは元来聞き分けの良い性格だ。それはナルーも知っている。だが、そのテジンがこんなに自分の思いに固執することは今までなかった。ルキア統一も建前で、本当はクナ姫に惚れていることも分かっている。ナルーは無理だろうと思いつつ、現ハルキア国王であるジランに向けて書かれたテジンの手紙を持ち、ハルキアへ向けて出発した。
「何、クナ姫だと?」
憤慨したゴダーイは、玉座から立ち上がった。テジンはいたって冷静だ。
「はい。先程も申し上げましたが、ルキア再統一の足掛かりにもなります。父上は不本意ではありましょうが、これは良い機会です。クナ姫は占い学に精通しており、防御魔法にも秀でております。我が国は攻撃魔法専門ですが、ハルキアと力を合わせれば、トルキアの魔王にも勝てぬわけではありません。」
ゴダーイはテジンの方に歩み寄り、肩に息子の手を置いた。
「テジンよ・・・この国はいずれお前のものだ。私は星の陰から見守ることしか出来ぬ。ルキア再統一の足掛かりになることも確かだろう。しかし、ハルキアのジランが何と言おう。そもそもハルキアとトルキアの王族は、ルキアの忠臣であったカザ=ハルキアとワルーレ=トルキア――十五年戦争を引き起こした張本人の末裔だ。ルキア家に背いた者達の子孫だ。民が許すまいて。それに・・・予言が本当なら、いつか国を統一する王は緑の瞳。お前のは茶色ではないか。」 テジンは黙ってしまった。父王の言うことは言われなくとも分かっていたからだ。
「私はお前の望みなら叶えてやりたい。だが、お前はもう大人だ。自分の願いはその手で叶えるがよい。」
それだけ言うと、ゴダーイはどこかへ行ってしまった。あれは、許したということだろうか。
「クナをルキア家に?」
白い壁のハルキア王城では、ジランが目を吊り上がらせていた。
「は、テジン様から自筆のお手紙も預かっております。」
ナルーが進み出て、手紙を差し出した。
「ならぬ、ハルキアは独立した一国家じゃ。その手には乗らぬぞ。ハルキア繁栄こそ我が一族の目指す所。再びルキア家の下には降らぬ。」
そう言うと、ジランは手紙を床に投げつけた。これ以上ここにいてはジランのことだ。こちらの命の保証はない。ナルーは仕方なく手紙を拾うと、王の前から去った。
ハルキア王城を出る前、一人の侍女に呼び止められた。聞けば、彼女はクナ姫の侍女だという。内密に手紙をクナ姫に渡してくれると言った。他に術もなく、ナルーは彼女に手紙を託してハルキアを後にした。




