18 消えた姫君
「テジン様・・・。」
ナルーが心配そうに名前を呼んだ。
「何だ、ナルー。今更もう気が変わることはないぞ。」
「しかし・・・これは罠では?」
テジンはバッと振り向いた。
「罠でも構わん!ここまでコケにされて黙っておれるか!聞けばハルキアでもド=ジラルガンが亡くなったというではないか。」
最初に誘われたのはテジンだった。もちろん、ハルキアからはクナだ。ハルジーがクナを殺そうと思っていたのだと考えると、怒りが押し寄せる。
「トルキアに宣戦布告だ!!」
こうしてダルキアとハルキアは、トルキアに同時に宣戦布告した。だがトルキアは、さも当たり前のごとく受け入れた。まるでこうなるのを待っていたかのようだ。
夕方、クナは一人で自室に籠っていた。
アンドクーイの話によれば、ダルキアも宣戦布告した。再び三国で剣を交えねばならない。今度は上手くダルキアと同盟を組めるかもしれないと思ったが、ジランは頑なに拒絶した。
近頃ジランの病気がますます重くなり、実質的にはクナが実権を握っている。だが、同盟となるとジランの印が必要だ。
頭に浮かぶのは、戦場で雄々しく戦っていたテジンの姿ばかり。私情は禁物と思いながらも、それはいっそう込み上げてくる。もう何年になるだろう。ティハにすら告げず、ひた隠しにしてきた。
正直、限界かも。会いたくてたまらない。今、側にいてほしい。けれど、支配者たる者、そんな甘いことは許されない。
ベランダに出て、すっかり太陽の沈んだ西の空を見た。優しい淡い朱色に染まっている。低いところにある雲は重めの灰色で、高いところにあるのは薄い黄色だ。
穏やかな気持ちでぼうっとしていると、急に悪寒が走った。身体の横、右側から嫌な感じがする。冷気を感じて振り返った。
「お久しぶり・・・お姫様。」
そこにいたのはキナリだった。黒いフード付きのマントに身を包み、嫌な笑みを浮かべている。
なぜここに・・・結界を張っているのに。いったいどうやって?
クナの表情を読み取って、ふふっと笑う。
「あれしきの結界、何でもありませんよ。」
あれを破ってくるとは。さすがというべきか。
金縛りの呪文を唱えた。白い影がキナリに襲いかかる。しかしキナリは腕を勢いよく振り払うと、呪文を返した。影はクナに巻き付き、クナはその場に倒れた。解放の呪文を唱えようとしたが、口を布で塞がれた。睨み付けると、キナリは楽しそうに笑っている。
「やはりマハル様に生き写しだ。」
そう言って後ろ手に縛られている格好のクナの手を掴むと、一瞬でその場から消え去った。ハルキア王宮でクナが消えたことを、その場にいた誰も気付きはしなかった。




